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経営者のためのコンサルティング > 経営に役立つヒント 第26回

経営者のためのビジネス講座

2017.9.26 海外赴任者の危機管理対策

この文章は、株式会社名南経営コンサルティングによるものです。

※この文章は平成29年9月4日現在の情報に基づいて作成しています。
具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

企業の海外進出は、かつては大企業が中心でしたが、今や中小零細企業の海外進出もめずらしいことではなくなりました。実際、海外に足を運ぶと日本国内で目にする飲食店チェーンや小売店が多くみられ、地区によっては、本当にここは海外なのかと感じることすらあるほどです。
海外進出においては、日本国内から赴任者を送り出すことになりますが、海外であるために赴任者に対する管理が不十分である企業が少なくありません。現地で赴任者が多様な問題に巻き込まれるケースは非常に多く、企業はさまざまな角度で対策を講じていく必要があります。

1.外務省管轄の在外公館の対応には限界がある

自社の赴任者が海外の現地においてトラブルに巻き込まれた場合、企業によっては、大使館や総領事館など現地の外務省管轄の在外公館が、何とかしてくれるであろうと考えているきらいがあります。しかし、在外公館は公的機関であるため、必ずしも24時間、365日開庁しているわけでもなく、また対応できることにも限界があるため、過度に期待をすることは避けるべきです。「自社の問題は原則として自社で解決できるよう対策を講じておく」と考えておかなければなりません。
しかしながら、現地で大事件が発生した際に「在留届」の提出があれば、在外公館が安否確認をしてくれることがあります。旅券法において、3カ月以上滞在する赴任者に対して、事前に在外公館宛てに「在留届」を提出するよう義務付けられており、未提出の場合でも罰則はありませんが、有事の際に在外公館との連携がとりやすくなりますので、必ず提出すべきでしょう。

なお「在留届」は、「在留届電子届出システム(ORRnet)」サイトから提出する方法や、「在留届」用紙による提出(持参、FAX、郵送)も可能です。詳しくは、外務省ホームページをご参照ください※1

※1:外務省ホームページ「「在留届」をご存知ですか?」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/todoke/zairyu/index.html

2.判断にあたっての役割分担を明確にする

爆弾テロや銃の乱射、異常気象による大洪水など、海外においては日本では考えられないような事件や事故がしばしば発生します。日本のマスメディアによって報道されている以上に、毎日海外のどこかで何かが発生していると考えるのが自然でしょう。
そうした事態が発生した際に、注意をしておかなければならないのが、日本の本社と現地における役割分担です。多くの企業において、海外の支店や営業所などを、日本国内の支店や営業所などと同列に扱っている傾向があり、何かあればすべてそれは日本の本社で判断をする運用が少なからずみられます。そのため、現地における実態と本社による判断があまりにも乖離してしまうことで、返って混乱が生じることもあるようです。

実際に、ある金融機関では2011年のタイの大洪水の際、「動物園からトラが逃げた」というフェイク(偽)ニュースを信じて赴任者を一斉に日本国内に引き上げてしまい、未だに笑い話として語り継がれているようです。また、暴動が発生した地域において、実はそれは一時的なごく一部の話で日常生活や事業運営にはまったく支障が無いにも関わらず、日本では激しくぶつかり合うシーンが繰り返し報道されたことで帰国を命じられ、腑に落ちないまま帰国せざるを得ないというケースもあったようです。実態を何も知らない日本の本社に振り回され、現地の業務に多大な支障が生じる結果となることもあるのです。
こうしたことを考えると、基本的には、判断は現地の状況を十分に把握している赴任者に任せるべきであり、有事の際には帰国にあたってのルールも柔軟に考えることが必要です。

3.単身赴任者の危機管理対策

有事の発生が就業日であれば、現地スタッフなどからもさまざまな情報を得ることができますが、休日の場合、連休であればさらに、情報の入手は困難になります。また、家族帯同で赴任した場合には配偶者から情報を得ることができますが、単身赴任者のトラブル発生時には、情報を十分に得ることができないこともあります。何らかの事件に巻き込まれ連絡が取れなくなった、交通事故にあって入院をしていたといった類のことは現実に発生する可能性がないとはいえず、単身赴任者と連絡をどうとるのかは、事前に考えておく必要があります。
実務的には、赴任前に両親や兄弟姉妹といった血縁関係者の連絡先を複数提出してもらい、有事の際には連絡をすることがある旨を伝えておくとよいでしょう。

4.海外赴任者の健康管理対策

海外への赴任においては、現地における接待などが日本国内以上に多いことで、食生活が一変することがあります。地域によってはタクシーや公共交通機関の料金が格安であるため、自身で自動車を運転する必要性が低いこともあって、連日連夜、そうした接待が続くことも少なくありません。必然的に偏った食生活で体調がおかしくなったり、連日の飲酒で肝臓にダメージを受けたりと、知らず知らずのうちに身体には大きな負担となっていきます。
ところが、現地における医療体制が日本ほど整っていないことで、日本国内では定期的に受診をしていた定期健康診断を受けていない赴任者は相当数存在するものと思われ、重大な病気に罹患をしていたものの手遅れになってしまい、現地で死去してしまうということも少なからずあるようです。
当然、海外赴任者の健康が保たれてこそ現地において最大限のパフォーマンスを発揮できるのです。一時帰国の際には、目いっぱい会議の予定が詰められていたりすることが多いようですが、企業の管理部門は、海外赴任者の一時帰国に合わせて、日本の医療機関で人間ドックを受診してもらうといった配慮が必要でしょう。

5.海外赴任者のメンタルヘルス対策

日本国内では、従業員50名以上の事業所において、1年に1回のストレスチェックの実施が労働安全衛生法によって定められています。しかしながら、この制度は日本国内の事業所において行うものであり、海外の支店や営業所においては実施が義務付けられているものではありません。
ところが海外では、食生活の違いや風習の違い、言葉の壁などによって大きなストレスを抱えることになります。加えて、日本の本社から営業成績などについてプレッシャーがかかる事でさらにそのストレスは増大し、現地でメンタルヘルス不全となってしまう赴任者は相当数存在します。スポーツをして気を紛らわせようにもスポーツ施設がなかったり、そもそも外は治安が悪かったりといったことから、ストレスを発散することも困難な地域もあり、メンタルヘルス不全から現地で自殺をしてしまうケースもあります。
こうした赴任者のメンタルヘルス不全は、現地の事業展開の縮小を余儀無くされることも多く、企業は危機管理対策のひとつとして対策を講じる必要があります。特に、現地においては孤独になりやすいため、定期的に日報を提出させ、そこに記載されている表現などによって異変を早期発見できるような配慮ある仕組みを取り入れておくことは有効です。最近は、インターネット環境も全世界で整いつつあり、スマートフォンなどを利用してお互いの顔を映像でリアルタイムに見ながら会話をすることができるアプリも多くなっていますから、これらの活用も考えるとよいでしょう。

なお、盲点となるのが、帯同家族がいる場合の配偶者や子のメンタルヘルス不全です。多くの日本人の赴任者は、現地で日本人が多く居住するサービスアパートメントに居を構える傾向が強いのですが、その中で日本人の配偶者同士の派閥が形成されたりすることがあり、そうしたことからメンタルヘルス不全へと繋がってしまうこともあるようです。子についても、生活環境が異なる上、転居したばかりでは友人もおらず、日本に戻ってからの受験に頭を悩ませてメンタルヘルス不全となってしまうケースもあります。そのため、企業によっては、配偶者や子のストレス解消などを含めて、福利厚生の一環で、第三国への旅行休暇や費用補助を行う企業もあり、同様の取り組みを検討してもよいでしょう。

6.独自規程の整備で課題抽出と対策検討が必要

海外進出をしている企業の多くは海外赴任規程を整備していますが、残念ながら他社の規程をそのまま転用しているケースが少なくありません。取引先からデータをもらい会社名のみ書き換えたといったケースが多く、自社の運用について深く考える機会がないまま現在に至るため、有事の際に右往左往してしまうことになります。
そもそも海外赴任者規程においては、法律上、絶対に記載をしなければならない項目は基本的にはなく、比較的自由な発想で策定することができます。海外赴任を命じられてから、赴任のための引越し、一時帰国、帰任のための引越しまでの一連の流れを分解して、それぞれにおいて自社ルールを検討することは、社内の危機管理意識のレベルを上げていくことになるでしょう。そういった検討を重ねることが結果として、赴任者が安心して現地で生活できることにつながるのです。また、その規程から派生させた「海外赴任者安全管理規程」を策定し有事に備えるよう、柔軟性を持って対応をしていきたいところです。

【株式会社名南経営コンサルティング】

名南コンサルティングネットワークグループの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。

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