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経営者のためのコンサルティング > 経営に役立つヒント 第33回

経営者のためのビジネス講座

2018.4.10 従業員の副業・兼業と労務管理

この文章は、株式会社名南経営コンサルティングによるものです。

※この文章は2018年3月12日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

日本の労働力人口が減少していく中で、非正規従業員の割合は年々高まっており、厚生労働省の調査においては労働力人口の約4割が非正規従業員であるという統計データ(「平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査」2015.11.4 厚生労働省)が発表されています。
労働力人口は今後も減少し続けていくことが見込まれるため、安定した労働力の確保は企業経営の重要な課題です。それゆえ、企業は今以上に柔軟な働き方を認め、労働の多様性を受け入れることが必要です。このような背景を受けて、政府が推進する働き方改革において、従業員の副業や兼業を推進する方向性が示され、本年1月には厚生労働省から「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が発表されました。企業は今後さまざまな視点から従業員の副業や兼業について議論をしていくことが求められます。

1.副業・兼業について企業が注意すべきこと

総務省が発表した「就業構造基本調査」においては、副業を希望する人が年々増加しており、就業者全体に占める割合も同様に増加していることがわかります(図表1)。

<図表1> 副業を希望している者の推移

副業を希望している者の推移

  • (出典)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレット
    http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192845.pdf P1

副業や兼業の動機は、自身のスキルアップや収入の追加などさまざまであり、中には起業の準備をしている人もいます。企業経営者の視点からみれば、副業や兼業によって本業がおろそかになるのではないか、情報漏洩のリスクが高まるのではないかなどの不安も生じるでしょう。しかし、減少する労働力人口とそれに占める非正規従業員の割合が今後も増えていくことが想定される以上、リスクに対応しながら副業や兼業を容認することについて考えなければならない状況になってきているのです。以下、従業員に副業や兼業を認めるにあたって、企業が検討・配慮すべき主な5つの項目について解説します。

(1)本業の職務専念義務への影響

従業員は企業での就労において職務専念義務があります。従業員の副業や兼業は、職務専念義務に反し、本業がおろそかになってしまう危険性があることから全面的に禁止する企業が多く存在します。ところが、裁判例を紐解くと、従業員が雇用契約上の労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に従業員の自由であるとされ、本業に著しく支障が生じる場合に、企業が副業や兼業を制限することが可能であると判示されています。
ある裁判例では、本業後、毎日6時間の飲食店における無断就労を理由とした解雇については、余暇利用のアルバイトの域を超えるもので、本業の労務の提供に支障が生じる蓋然性が高いことを理由に解雇を有効としています(小川建設事件:東京地判昭和57年11月19日)。一方で、年に1~2回のアルバイトをしたことによる解雇は、職務専念義務に反したということでもないことから解雇無効とした裁判例もあります(十和田運輸事件:東京地判平成13年6月5日)。

(2)労働時間の取り扱いの注意点

労働基準法第38 条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合も含みます(労働基準局長通達:昭和23年5月14日基発第769号)。
企業Aで働いていた労働者が、後から企業Bと労働契約を締結し、労働時間を通算する場合を考えてみましょう。1日の中において、企業Aで1日の法定労働時間の限度である8時間働いた後、企業Bで5時間働く場合は、企業Bでの労働は法定時間外労働になります。また他の事例として、企業Aで法定労働時間の限度である月曜日~金曜日まで毎日8時間、週40時間働き、土曜日に企業Bで5時間働く場合も企業Bでの労働は法定時間外労働になります。
これらの場合、後から契約を締結した企業Bは時間外や休日労働に関する労使協定の締結・届出(いわゆる36協定)がなければ労働させることはできず、働いた5時間は法定時間外労働であるため、企業Bはその労働について、割増賃金の支払い義務を負います。企業は、このような労働時間を本人からの申告により把握することになります。
なお、副業や兼業の業務を個人事業主として、または委託契約などによって行う場合は労働基準法上の労働者に該当しないことから、労働時間は合算されることなく扱われます。

(3)長時間労働と安全配慮義務

副業や兼業は、従業員が自社以外の場所で就労することになるため、必然的に肉体的・精神的な追加負担が生じます。特に、長時間労働に伴う肉体的な負担は、本業において集中力の低下を招きやすく、労災事故や業務ミスの発生要因にもなりやすいものです。そのため、過度な副業や兼業を容認すれば、労働契約法第5条で定める安全配慮義務に違反することになる可能性もあるため注意をしなければなりません。それを避けるため、副業や兼業に対し時間制限を設けるという方法も考えられるでしょう。

労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮)

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

(4)情報漏洩リスク

副業や兼業を容認した結果、従業員が本業で取り扱う顧客情報などを持ち出して副業や兼業で利用するというリスクも想定されます。情報によっては、同業他社が得たい情報もあるものと推察され、情報が漏洩したことによって顧客数が減少したり、それが広く知れ渡ったことによって自社の信用が失墜したりといったケースは枚挙にいとまがなく、情報漏洩対策には特に注意を払わなければなりません。一般的には、従業員を採用する段階で誓約書を提出させるなどの手段を取りますが、いったん情報が漏洩してしまうとそれを回収することは困難であり、信頼回復にも相当な年月を要します。従って、従業員の副業や兼業を認めるのであれば、同業他社では働かないというルールを設定するのもよいでしょう。

(5)労災保険の給付の注意点

従業員が勤務先において怪我などをした場合、その原因が業務との関連性が高いのであれば、労災保険(労働者災害補償保険)を活用することができます。労災保険を活用すれば、基本的に治療費が発生しませんし、休業せざるを得ないような場合にも休業補償を受けることができます。ところが、副業や兼業で2社以上の企業で働き、いずれかの企業で怪我などをした場合、その怪我をした企業における賃金によって休業補償額が決まるため注意をしなければなりません。例えば、図表2のようにA・Bの2社で働き、B社で怪我などをして休まざるを得なくなった場合、休業補償額の計算はA・Bの2社の収入の合算によるのではなく、B社の収入によってのみ計算されることになります。

<図表2> 労災保険の給付事例

労災保険の給付事例

  • (出典)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレット
    http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192845.pdf P12

2.自社ルールの設定

以上の問題を整理して考えますと、副業や兼業を無制限に認めるのではなく、一定の条件を定めて、図表3のような「副業・兼業許可申請書」で会社の許可を事前に取得することなどを自社ルールとしてまとめ、就業規則に定めておくとよいでしょう。そして、本業に支障が生じる可能性があれば、従業員に是正を求めるという運用にするとよいでしょう。

<図表3> 副業・兼業許可申請書と就業規則の事例

〇〇 株式会社 御中

副業・兼業許可申請書

年  月  日

所属 氏名

副業・兼業先の内容

勤務先名
副業・兼業先
の住所
期 間 年  月  日   ~   年  月  日
勤務時間帯 時  分  ~  時  分
具体的な
業務内容

<許可要件>

以下のすべてを満たすことによって許可されます。

  1. (1)自己の健康管理を徹底し、1日の労働時間は副業・兼業先を合わせて○時間以内とします。
  2. (2)当社の名誉や信用を失墜することがないような職業のみとします(審査により決定されます)。
  3. (3)○○業界や当社の取引先ではないこととします。

<誓約事項>

  1. (1)当社の情報(社員・取引先・その他の経営情報)は如何なる場合も持出・提供・漏えいしません。
  2. (2)許可要件のすべてを満たし、虚偽等はありません。

第○条(副業・兼業)

  1. 1.従業員は勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
  2. 2.従業員が前項の業務に従事する場合には、事前に所定の用紙において申請を行い、許可を得なければならない。
  3. 3.第1項の業務に従事することによって次のいずれかに該当する場合には、会社は許可を取り消すことができる。
  1. (1)労務提供上の支障がある場合
  2. (2)会社の情報(社員・取引先・その他の経営情報等)が漏洩する場合
  3. (3)会社の名誉や信用を失墜させる行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
  4. (4)同業他社で就労する場合

従業員の副業や兼業は、長時間労働や情報漏洩といったリスクを抱えますが、まったく異なる業務に従事することで視野が広がるといったメリットもあります。従来では生まれなかった斬新なアイデアが出やすくなったり、他社の効率的な業務推進方法を取り入れることで大幅な業務改善につながったりすることもありますので、リスクだけではなくさまざまな視点で副業や兼業について考えてルールをまとめていくとよいでしょう。

【株式会社名南経営コンサルティング】

名南コンサルティングネットワークグループの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。

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