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経営者のためのビジネス講座 > 不透明な時代の業績向上法 第3回

経営者のためのビジネス講座

2011.1.18デフレ環境下での価格戦略

この文章は、株式会社船井総合研究所によるものです。

厳しい旅行業界で業績を上げ続ける旅館の経営法

今回は、私の支援先である、ある旅館の事例から話をはじめましょう。
この旅館は、地域でも有数の旅館であり、客室数はエリアNo.1クラスを誇る規模です。ただし、現在の旅行業界を取り巻く現状は非常に厳しいものです。
図1をご覧ください。これは旅館などへの団体旅行客の送客に強い大手旅行会社の2009年度の決算状況です。この年は鳥インフルエンザの影響もあったといわれますが、売上高は大幅ダウン。現在もダウントレンドは変わっていません。

(図1)大手旅行会社決算状況

現在の旅行業界において深刻な問題は、「顧客単価」のダウンが止まらないことです。
昨年から比べると多くのところで、客数の減少に歯止めがかかりつつありますが、デフレ環境下で顧客単価は依然として5~10%ダウン、その結果、売上げも5~10%ダウンとなっているところが大半です。

さて、旅館に話を戻しましょう。この旅館は、先に書いたように地域の老舗大型旅館です。利益は出ているものの、有利子負債を返済できるほどの収益は上げておらず、金融機関から厳しい追及を受けている状況下の3年前から支援に入っている先です。
結果からいって、2008年度と比べた業績は
2009年度 売上高105%UP、償却前経常利益300%UP
2010年度 売上高110%UP、償却前経常利益350%UP(着地予想)
(2008年度比)
先にも述べましたように2009年度は、リーマンショック後の不況と鳥インフルエンザの影響で業界全体がボロボロで、大手旅行会社と同様に売上げを10%~20%以上落とすところが普通でした。また、2010年度もデフレの進行により引き続きダウントレンドの中でしたが、業界でも数少ない勝ち組と言われる実績を上げることに成功しています。その間は、当然、経費などの各種見直しは厳しく行いましたが、人員削減リストラは一切行っていません。そのため、現在では各金融機関からも高く評価され、新規投資に関しても引き続き支援をいただける状況になっています。

不況期の価格は、好景気時の60~80%の価格に設定するバリュー戦略

さて、なぜ、このような実績を出すことができているのか、そのポイントについて述べましょう。
前回も少し触れましたが、船井総研が重要視している戦略の中に「時流適応戦略」というものがあります。現在の消費者を取り巻く大きなトレンドのひとつは、「デフレ環境」です。それにリーマンショックから続く不況が加わり、高いお金を払って旅行する人が激減することは、容易に予測できました。
ここで不況期における価格原則を述べておきましょう。
好景気の単価に対して、60~80%の価格帯がヒットする
というものです。ここでポイントとなるのは、「質を落とさず」です。これを「バリュー戦略」と呼んでいます。
バリューとは、お得・お値打ちという意味で、日本では「安くてよい商品」という風に捉えられています。知っての通り、日本人は質に非常に敏感です。「安かろう、悪かろう」という商品は、すぐに駆逐されてしまいます。
そこで、価格は落とすが品質はあまり落とさない、という手法が必要です。この手法は後ほど詳しく述べますが、この旅館でも、まず早期にこの戦略商品を作り上げる必要がありました。
目をつけたのが、その旅館で最も古く、稼働率も悪い旧館の活用です。旧館は建築されてからすでに40年近く経っており、繁忙期のみしか利用されていませんでした。そのため部屋の稼働率は、年間20%程度にとどまっています。この館を利用して、低価格の戦略商品を作り上げることにしました。
旅館は「部屋」×「風呂」×「食事」×「サービス」×「その他施設アメニティー」の掛け算です。残念ながら、旧館は、このうち「部屋」という面では、新館にかなり劣ります。
また、旅館において食事は部屋でとるのが一般的です。しかし、このオペレーションは人件費がかさみ、低価格商品には向きません。たまたま、この旅館は新館に「バイキング形式のレストラン」を持っており、これを利用すれば、人件費をあまりかけず商品化することが可能でした。そのほか風呂やアメニティーは、新館のものが利用できるため同じです。
もうひとつ問題になったのがご案内です。通常、旅館では、お客さまを部屋に案内し、そこで仲居さんがお茶を入れてサービスをします。これも低価格商品をつくる上ではカットしたいサービスでした。サービスレベルを落としていないように見せるため、まず、到着後ロビーでお茶を出し、その後、自分でお部屋までいっていただくというオペレーションに変えることにしました。
これで、1泊2食付き通常単価の60%という商品を完成させました。
これをウェブサイトで売り出したところ、面白いようにヒットし、旧館の稼働率は60%を超えるまでになりました。ウェブサイトでは、新館よりもまず旧館から埋まっていくという現象です。価格戦略が見事にあたりました。新館に関しては、旅行会社に販売していただき、低価格商品は自社販売するという構図で客数は115%アップと絶好調になりました。ただし、顧客単価は10%程度のダウンを余儀なくされ、トータルで対前年比売上げ105%という結果です。まわりの旅館が鳥インフルエンザやリーマンショックによる旅行控えの影響で売上げを落とす中での実績です。事実、この会社も大手旅行会社からの送客は、20%程度ダウンしました。
社長はいまだに、「この低価格商品がなければ、うちはどうなっていたか分からない」とおっしゃいます。

顧客流動化のチャンスを生かす

私は支援先の企業さまに「不景気ほど、中小企業にとってチャンスの時はない」と常に述べております。その最大の理由のひとつが、「顧客の流動化」です。
たとえば、これまでお小遣いとして月5万円あったサラリーマンがいたとしましょう。それが不景気の影響を受けて、妻から「今月からお小遣い3万円ね。」と言われたとします。すると、同じお金でも、より良い質のところ、もしくは、同じ質でより安いところを探そうとします。つまり、一気に顧客の流動化が起こります。これは、好景気には起こりにくいことです。この現象はあらゆる業界で起こっています。
たとえば、居酒屋。好景気時における平均的な顧客単価は、3,000円程度です。これは、簡単に計算できます。まず、居酒屋で一人が注文する品数は、ドリンクが2~3杯程度、食事が3~4品程度で、平均6品です。そのため、
1品単価500円×6品=3,000円
が顧客単価となります。
しかし、不景気になりお父さんのお小遣いが減ると、先にも説明したように、品質は同程度でより安い店に顧客の流動化が起こります。
不景気に売れる顧客単価の店は、不景気価格原則から
1品単価500円×60%=300円
となり、

1品単価300円×6品=1,800円
となります。
昨年から今年にかけた居酒屋の状況を見てください。多くの店が300円均一(実際は270円や280円)に様変わりしています。また、低価格業態の定番である立ち飲みが復権しているのも、当然の現象でしょう。
サラリーマンの昼食も同じです。この不景気では、昼の定食であれば300円が爆発的に売れるようになります。牛丼やファストフードも2008年までの好景気で、少し値上げしていましたが、また低価格帯商品を出さなくてはならなくなってきています。コンビニや量販店における300円弁当が売れていることもうなずけます。
このように、不景気下では 「質は落とさず」「価格を落とす」ことができなければ、客数が減少する傾向が強くなります。逆に、この顧客流動化の波を上手に捉えることができれば、客数増は確実に見込めます。

隙間を狙ったワース戦略で逆に売上げ向上を狙う

上記だけを見ると船井総研では「低価格」をすすめているように見えます。一面はそうです。しかし、これとは真逆の戦略を提案し、好業績を上げていただいている支援先もあります。
デフレ環境の中、価格を下げて販売することは簡単です。逆に高価格帯を維持して販売することは簡単ではありません。これを実施する戦略を、船井総研では「ワース戦略」と呼んでいます。ワースとは、「価値のある」という意味で、他社がやっておらず、自社にしかできない領域(=こだわり)を確立し、売上げをたてる方法です。
たとえば、先の旅館業界を例に挙げてみましょう。前述した旅館は大型旅館であり、大衆向けにマーケティングを実施しなければならないという条件から、「バリュー戦略」を選択しましたが、これと真逆の「ワース戦略」で活性化している先もあります。
こちらも私どもの支援先ですが、食事にこだわった高級食事旅館です。この旅館は、部屋数がそれほど多くなく、料理と高級なサービスで売っているところでした。そのため、価格は落としたくありません。逆にこの料理とサービスを売り物にし、高く売りたいという方向性を立てました。
そこで、その旅館にしか提供できない、その時期にしか提供できないものに絞り込んだ商品開発を徹底的に実施しました。
たとえば「地域名産牛における最高ランク(A5等級)のみを使用した○○牛づくしセット」「初物のみを使った1日1組限定、2週間のみの販売商品」などの、徹底したこだわり商品です。初物限定商品は、1人1泊5万円もします。これが、発売ですぐ満室になる盛況ぶりです。
ここでは、トップ、営業、料理長が参加する商品会議を毎月開き、3カ月~半年後の商品を開発し続けています。
また、私どもの支援先のカバン屋で爆発的に財布を売っている会社があります。そこは、店長自らが「お参りすると金運がめぐってくることで有名な神社」に財布を持ち込んでご祈祷いただき、さらにそこのお金持ちお守りを財布につけて販売するなど、細かい工夫を多種、多彩に行っています。
購買経験を積んだ顧客は「ワース=自分だけの価値やこだわり」を探すようになります。そこで、企業としても自社にしかない商品領域を確立する手法を取ります。これにより非競合状態、すなわち価格競争がなくなります。
このようなワースという方法も一方であることを知ってください。

バリューとワースの商品づくり法

最後に、バリューとワースの両戦略における商品づくりの基本的考え方を整理しておきます。参考にしてください。
まず、バリュー戦略における商品づくりです。ここで、気をつけてほしいことがふたつあります。
ひとつは、何度も述べていますが、単価はダウンさせても、できるだけ品質は落としてはならないということです。これを無視しては、本当の客数アップにつながりません。
もうひとつは、経営上の問題です。今までと同じ商品、同じような原価のものを、単純に値下げして提供すると、企業の収益構造は一気に悪化し、経営は立ち行かなくなります。単価を下げながらも収益が取れるようにするには、経営努力が必要です。これができないのであれば、値下げは自殺行為に等しくなります。
そこで、まず、第一に商品の基本機能以外の部分を「引き算」していき、基本機能のみの商品を考えてみてください。これにより商品・サービスの単価を下げます。
さらに、この基本機能自体も根本的に再構築し、価格を落としても儲かるようにしなければなりません。不景気の商品づくりは、基本機能を中心とした「引き算発想」が根本的見直しのポイントです。

(図2)バリュー戦略における商品づくり

逆にワース戦略の商品づくりは、「足し算発想」となります。
まず、商品の基本機能や商品コンセプト自体の見直しをします。ここで、重要なことは、自社にしかない、自社でしかできないという強みを最大限に活かすことです。これが何よりも大切です。これを船井総研では「本物化」とも呼んでいます。
さらに、人間の心理を応用します。つまり「ここだけにしかない」「この時期にしかない」という限定感です。この限定感が加わると商品価格は、常識的範囲であればあまり関係なくなります。ただし、限定だけあって、多くの顧客に提供することは難しいでしょうし、購買対象層も少なくなります。ヨーロッパのメーカーが好況期でもあえて増産せず、品質にこだわり、何代にもわたって経営を続けることと発想は同じです。

(図3)ワース戦略における商品づくり

マーケティングにおいて、最も大切なことはまず「商品」です。
商品のあり方を見直さずして、業績向上はありません。

今回は、対一般消費者向け(BtoC)に限定して話をしましたが、次回は対事業者向け(BtoB)事業者における不況期における業績向上法をお話ししたいと思います。

【筆者プロフィール】

菅原 祥公(すがはら よしひと)
1991年 株式会社船井総合研究所入社
2011年 株式会社船井総合研究所 執行役員 第二経営支援部部長

事業の方向性転換、新規事業の立ち上げなど、企業を新しい方向に導くためにマーケティングからマネジメントにいたるトータルでの事業計画構築およびその現場での展開を得意としている。近年では、不採算に陥った企業の事業再生やM&A先の企業バリューアップなどを現場で実践している。
著書に「最新ビジネスデューデリジェンスがよく分かる本」、「中期経営計画がよく分かる本」、「経営の極意」(共著)、などがある。

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