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経営者のためのビジネス講座 > 不透明な時代の業績向上法 第6回

経営者のためのビジネス講座

2011.5.24従業員間コミュニケーションが業績を左右する!!
業績向上の決め手は現場社員にある!

この文章は、株式会社船井総合研究所によるものです。

マネジメントの時流

残念ながら今回が6回連載の最終回となります。
そこで、これまではどちらかというとマーケティングに関する話を中心にしてきましたが、今回は「マネジメントに対する考え方・手法の転換で本当に業績は上がるのか?」ということをテーマに考えていきたいと思います。ただ、マネジメントといってもそんな難しいことではありませんので、ご安心ください。誰でもが実施しようとすれば、できることばかりを題材に上げています。

さて、本題に入りますが、社長をはじめとするトップ層の悩みの中で「人」は永遠のテーマではないでしょうか?
マーケティングに時流があるようにマネジメントにも時流があり、人に関する悩みにも変化があります。まずは、そのマネジメント面に関する時流とそのキーワードをまとめてみました。

(1)現場最前線における従業員の質が会社を決める時代に!
(2)CS(カスタマーサティスファクション=顧客満足度)とES(エンプロイーサティスファクション=従業員満足度)のどちらが大切か?
③社内における個人主義の台頭や希薄になる人間関係にどう対応をするか?

このキーワードにそって、話をすすめます。

(1) 現場最前線における従業員の質が会社を決める時代に

私の支援先に自動車ガラス交換を専門に営んでいる会社があります。まず自動車ガラス交換業を簡単に説明しましょう。自動車ガラスが割れると皆さまはどうしますか?おそらくは、ディーラーか整備工場などに持ち込むのではないでしょうか?実は、ディーラーや整備工場は自分たちで自動車ガラスの交換を行っているわけではありません(自分たちで行っている会社も少し存在しますが…)。ディーラーや整備工場が受けた仕事を実際に行っているのが、この自動車ガラス交換業の人たちです。この業態は、日本に1,000社程度しかないニッチ産業です。昔は自動車メーカーの推薦がなければガラスを扱えないという参入障壁があり、利益率の高い商売でもありました。しかし国内自動車販売台数の減少、海外産の安いガラスの流通拡大、そして発注元の自動車メーカー自身のガラス交換業務への参入など、非常に厳しい外部環境にさらされており、ほとんどの企業が事業規模を縮小しているのが現状です。この中で数少ない成長企業として業界の注目を浴びている会社があります。それが私の支援先であるA社さまです。
この会社に入ってくる従業員の質は決して高いものではありません。自動車産業の中では主流でない業種ということもあり、まず面接にくる人たちに驚きました。「転職を繰り返している人」はまだましなほうで、「酒に酔って面接にくる人」「彼女連れで面接にくる人」など、世間一般の常識では信じられないような人が入社します。
そのような従業員を社長はまず1週間、自宅に泊めて、そこから会社に出社させます。そこでまさしく箸の上げ下ろしから、掃除、挨拶、といった人としての基本を徹底的に愛情をもって教えていきます。社長いわく、「このような従業員はやる気がなかったり、能力が低かったりというわけではない。ただ、社会とのコミュニケーションのとり方を知らないだけだ。ここを直してあげると、その人は活きてくる。」とおっしゃっています。
そのため、A社は従業員の躾が徹底されています。
自動車ガラスの交換というのは、技術の熟練という要素は入るものの差別化が難しい業態です。その中で、この会社は現場の従業員の質を上げることにより、新規エリアにおいて数年内にトップシェアを獲得しています。手法は非常に単純です。「お客さまへの挨拶」「作業する車への気遣い」「お客さまのところで作業した後はまわりも掃除して帰る」などをひたすら愚直にやり通すだけです。他の会社に入ってくる従業員も質はそれほど変わらないため、この現場対応力だけで伸びているといっても過言ではありません。
先にも記載したように、この会社の社長は、教育に対してお金と時間を本当に惜しみません。そのため従業員数が少ないころから、専用の研修施設まで持っています。

成熟化した日本の社会において、多くの産業で、差別化は難しくなってきています。商品も、同じようなモノがどこでも手に入る時代です。商品自体で差別化ができない産業はどこで差がつくかというと、この事例からも分かるように「現場従業員の対応力」ですね。現場対応力の定義は以下の3つとします。

  • 基本的な躾が徹底できる力
  • 自社が大切にしていることを“愚直に”現場で徹底できる力
  • 現場(お客さま)のニーズに合わせて自分の判断で素早い対応ができる力

この3つのことを現場で徹底できる会社は、この不況であっても売上を安定的に伸ばすことができています。

(2) CSとESのどちらが大切か?

CSとはCustomer Satisfactionの略で顧客満足度のことです。これに対してESとはEmployee Satisfactionの略で従業員満足度のことです。皆さまはどちらが大切だと思われますか?
私どもの支援先にタクシー会社があります。タクシー業界は、規制緩和により参入が一気に増加し、1社あたりの売上は減少しました。さらに低価格競争や不況の影響で利益率も悪化しています。このような中で支援先の会社は増収増益を安定的に達成しています。
このタクシー会社がとりわけ新しいサービスを実行しているということではありません。一般的にこの業界も入ってくる従業員の質は決して高いといえません。そこで、この会社のトップが考えたのが、「ESの向上」でした。お客さまの満足度向上は、サービス業である以上、当たり前のことです。しかしながら、それを実行する従業員の満足度が上がらなければ、顧客満足度の向上はできないという理由からです。
このESの考え方は、会社によってさまざまだと思います。単純に業界水準以上の給与にすることや福利厚生を充実させることも一つでしょう。しかし、この社長の考え方は違いました。まずタクシー業界は、タクシーに乗ってしまえば誰の指図も受けないという特性上、組織への帰属やコミュニケーションが苦手な人が入ってくる傾向があります。これはサービス業と相反するところです。そこで、従業員同士のコミュニケーションを活発化させ、組織に属している満足度、従業員同士の仲間意識を高めることからはじめました。その一つが「ありがとうカード」です。「ありがとうカード」とは、従業員同士で、何か少しでも助かったこと、してもらってうれしかったことがあれば、カードに記入して提出してもらい、社内で公表していく手法のことです。お客さまの声を収集する従業員版と思ってください。これに取り組んでいる多くの会社は、途中で挫折します。なぜなら、従業員からの「ありがとうカード」はそれほど集まらないからです。スタートした1カ月程度は集まりますが、徐々に形骸化し、なくなってしまいます。
「ありがとうカード」制度の多くがなぜ、途中で挫折するか、考えたことがありますか?
最大の理由は、トップがその制度に「飽きる」もしくは「興味がなくなる」からです。会社はトップで99%決まります。トップが常に興味をもって推進していれば、必ずどんな制度でも定着します。
この会社は、まずトップ自ら従業員に対して「ありがとうカード」を徹底して書いたそうです。多い時には1日10枚書くそうです。そうする中で、徐々に社員間でも広がっていき、今ではものすごい数の「ありがとうカード」が集まるそうです。どれくらいすごいかというと、昨年、年間大賞をとった社員はなんと「1人で年間5,000枚のありがとうカードを書いた」そうです。1年で5,000枚ですよ。1日換算で20枚です。少し考えてみてください。1日20個も他の従業員に感謝することを書けますか?本気でまわりの社員に感謝の気持ちがなければできません。そのため、この会社では、従業員間のコミュニケーションが急速に改善し、その感謝の気持ちは、当然お客さまに対してもあらわれます。例えば、この会社では近距離のお客さまに「こんな近くの距離でも、私どものタクシー会社を利用していただき、本当にありがとうございます。」と本気でいうそうです。一般的には逆ですよね。乗るほうも1メーターだと、少し悪いなと思いながら乗る場合や、運転手さんに露骨に嫌な顔をされる場合もあります。皆さまも経験がおありではないでしょうか?それがお世辞ではなく本当にそういわれると、また、このタクシー会社を利用しようと思うはずです。そのため、お客さまから当然リピートの電話が入ります。
これがESとCSの好循環です。この会社は、地域から本当に愛されるタクシー会社になっています。そのため、売上も簡単には落ちません。
この3つをもう一度、考えてみてください。

  • 従業員満足を真剣に考えたことがありますか?
  • 従業員満足を向上させるための施策を実施したことがありますか?
  • その施策を愚直に続けましたか?

③ 希薄になる人間関係にどう対処するか?

最後に、人について考えたいと思います。人間は、社会的動物であり、人との関係性なくしては生きていけません。しかし、時代は急速にパーソナル化に向かい、学校でも家庭でも会社でも「個人主義」がまかり通る時代になってきました。会社の飲み会を平気で断る社員は、一つの現象ですね。
会社で最も大切なことは「一体化」です。その根幹にあるものがコミュニケーションです。このコミュニケーションが急速に希薄化する中、従業員同士でどのようにコミュニケーションをとるか、トップは真剣に考える必要がでてきました。
船井総研では、「同根異菜(どうこんいさい)」という言葉を社員に向かってよく使います。根幹となるものは同じでありながら、それぞれの個人が持つ長所を活かしてお客さま、会社、しいては世の中に貢献するというものです。ここで重要なことは、「同根」が何であるかです。それは、一般的に以下であらわされます。

  • 基本的理念(企業理念や経営理念)
  • 行動基準、判断基準
  • 自分たちが目指すビジョン(あるべき姿)
  • 上記以外で明文化されていない組織風土など

(1)で記載したように、これからは現場社員の力が重要となってきます。そこで、現場社員に任せていくには、何よりも同根部分を共有、また、共感してもらえることが重要です。人は、育ちも考え方も100%違います。ただし、会社にいる限りは、判断機軸は同じであるべきです。そこが弱い状態で個人判断をさせると、会社の信頼、ブランドを落とすこととなります。
ここで同根部分を強くするために、二つの考え方があります。

  • a)上記の4点を徹底的に教育していく
  • b)上記に共感してくれる、もしくはその体質を持っている人のみを採用する

日本は、どちらかというとこれまでa)の教育という部分を重視してきました。しかし、欧米において独特の企業文化を持つ企業はb)の採用段階での仕組みを強化しています。
昔は、トップがそのようなことを考えなくとも、先輩後輩の関係、同僚の関係がしっかりしており、濃密な人間関係の中で、社会人としてや会社の重要な考え方、さらには技術やノウハウが伝承されてきました。
しかし、これからの時代は、トップが意識して、そして仕組みとして従業員間のコミュニケーションを円滑にする方法を考えなければなりません。このマネジメント対応が今後の業績にも大きく影響を与えると考えています。先に示した二つの事例でも、キーワードは「濃密な人間関係」です。そして、それをトップ自らが意識して行っているということです。
船井総研でも、この部分は試行錯誤しながら、新しいことを常に実験しています。その中の一つである「朝礼の仕方」について紹介しましょう。
一般的な朝礼は、情報伝達がメインで毎日行われますが、月2回だけ、30分以上時間をとって、普段の仕事ではかかわりが出にくい人とコミュニケーションを実施できるよう、意図的にしかけます。例えば、社員を出身地域別でグルーピング化して、地域の話をその中でするというものです。人間は、何か共通項があると、その人に急速に親近感を感じるものです。なぜか同郷というだけで、その人と仲良くなるものです。

これらは一つの例ですが、皆さまもこれを機会に「コミュニケーション」と「一体化」について考えてみてはいかがですか?

最後に

約6カ月間にわたりお読みいただき、ありがとうござしました。
タイトルにあるように、現在は不透明な時代であり、震災後、経営の舵取りが本当に難しい時代に入りました。だからこそ、経営層は、地にしっかり足をつけ、前を向いて経営していただきたいと思っています。これまでの内容が、皆さま方が進まれようとしている方向性に少しでもお役に立てれば幸いです。本当にありがとうございました。

【筆者プロフィール】

菅原 祥公(すがはら よしひと)
1991年 株式会社船井総合研究所入社
2011年 株式会社船井総合研究所 執行役員 第二経営支援部部長

事業の方向性転換、新規事業の立ち上げなど、企業を新しい方向に導くためにマーケティングからマネジメントにいたるトータルでの事業計画構築およびその現場での展開を得意としている。近年では、不採算に陥った企業の事業再生やM&A先の企業バリューアップなどを現場で実践している。
著書に「最新ビジネスデューデリジェンスがよく分かる本」、「中期経営計画がよく分かる本」、「経営の極意」(共著)、などがある。

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