リスク相関を踏まえた事業戦略(リスク分散の重要性)

オリックス株式会社リスク管理本部副本部長 糟谷 英治
オリックス株式会社
リスク管理本部副本部長
糟谷 英治

前回は、ウォーターフォールチャートというものを使って、企業が複数の事業をどのように比較し、拡大や縮小の優先順位を考えられるかをご説明致しました。本日は、そこでは触れなかった「リスクの相関」という考え方をご説明し、このチャートのより高度な利用の仕方をご紹介いたします。

まず、異なるリスクには「完全に正の相関」があるものから「完全に負の相関」があるものまでさまざまです。極端な話、「円高ドル安に業績が完全にリンクした会社」と「円安ドル高に業績が完全にリンクした会社」では、前者の倒産確率と後者の倒産確率は、「完全に負の相関」がある、即ち「同時に倒産することは絶対なく、片方が儲かっているときは片方は損している」ということになります。

他にも、「金利上昇歓迎型の事業」と「金利下落歓迎型の事業」のリスク関係とか、「物価上昇歓迎型の事業」と「物価下落歓迎型の事業」のリスクの関係とか、「原油価格上昇歓迎型の事業」と「原油価格下落歓迎型の事業」のリスクの関係も「負の相関」があると言えましょう。片方の事業でリスクが高まる時は、もう片方の事業ではリスクが減るという関係にあるわけです。

企業価値貢献評価と事業タイプ毎の収益リスクバランス
完全に負の相関
リスク相関考慮後の企業価値貢献評価と収益リスクバランス

実際には「為替投機や商品先物投機」を行うのでもない限りは、このようにひとつのリスクファクターだけで完全にリスクの方向性が正反対となる事業の関係は少なく、事業タイプ毎のリスク相関は複雑です。

しかし、似たような顧客層をターゲットに、似たような商品を取扱う事業同士でもない限り、企業に存在する複数の事業タイプの間には何らかのリスク分散効果があるはずです。従って、会社全体でのリスクの総量、すなわち総使用資本を見るときは、個別の事業のリスク量を単純合計した数値ではなく、リスク分散効果の分 少なく見積ってもいいはずです。

たとえば先ほどのウォーターフォールチャートにおける4つの事業タイプの中で、もし事業Aは、会社の他の事業とは全く異なる顧客向けに全く異なる商品を扱っていて、金利や為替や景気の変動に対して、事業B・C・Dの業績と正反対の方向の影響がある場合、会社全体の収益リスクバランスを考えるときは、事業Aのリスク量はリスク分散効果の分だけ少なく評価することが合理的です。詳しいご説明は省きますが、そのリスク量の減額査定幅を仮に50%とした場合がご覧の修正チャートです。

そして企業価値創出額の計算に際して収益から控除すべき「株主資本コスト」も、リスク分散効果がある部門ではその分だけ当初計算した株主資本コストよりも少なくて済むということになります。従って、リスク分散効果のある事業の企業価値創出額は株主資本コスト低減分だけ大きく評価できるというわけです。会社全体を見ても、このリスク分散効果の分だけ余剰資本が拡大して他の事業への投資余力も増すことになります。

以上を簡単に申せば、「他の事業タイプとリスクの発生原因が異なり、リスクが同時に発生する可能性が低ければ低いほど、その事業を行うことにより必要とみなす株主資本の量は、その事業を単独で行う場合よりも少なくて済む。そしてその事業からの企業価値創出額も大きく認定できる」ということです。

今回までの6回は、「企業価値創出のためのリスクマネジメント」のフレームワークをご紹介いたしました。こういうことを考えないでも企業は成功し成長できますが、事業が拡大し外部資金を活用していくためには、やがては株主や債権者等の資本市場との対話を意識することが必要となりましょう。多少なりとも、今後のみなさまの企業経営のヒントになれば幸いです。