リスクファイナンスについて

オリックス株式会社リスク管理本部副本部長 糟谷 英治
オリックス株式会社
リスク管理本部副本部長
糟谷 英治

前回は、リスクを統合的に把握する必要性とメリットをお話いたしました。今回は、リスクファイナンスについてご説明いたします。

リスクは抑制することをまず考えなくてはなりませんが、完全に消去することはコストがかかりすぎるため非合理的です。リスクを抑制した上でも残った分について、その財務的損失を手当てする最適な方法を考え実行することがリスクファイナンスです。前回お話した統合リスク管理のフレームワークができていれば、より合理的なリスクファイナンスの策定と実行が可能になります。

リスクファイナンスの一般的な有効領域

右図における右下がりのカーブは、さまざまなリスクの発生頻度と影響度の一般的な関係をグラフ化したものです。発生頻度が高いリスクの影響度は低く、発生頻度が少ないリスクは影響度が高いと想定しております。頻度・影響度が共に低いリスクは無視できますし、頻度・影響度が共に高いリスクがもしあれば、その事業を継続することの是非から考えなければなりません。ここでは、この一般的な頻度と影響度の関係下で、さまざまなリスクファイナンスが有効となる領域を楕円で示しております。

まず、発生頻度が高いリスクで影響度がさほどでもないものは、リスクの発生頻度を削減する努力だけして、後は何もしないこと、即ち「リスクの保有」が通常は最善の策です。リスクの保有もコスト対効果をきちんと考えた上での決定であれば、立派なリスクファイナンスの一手法です。頻繁に発生するリスクに備えて損害保険を購入することは、支払保険料とそれに含まれる保険会社の人件費・物件費が保険契約者にとっては過大な負担となるだけだということでもあります。

次に、もうちょっと発生頻度が低いリスクで、影響度がもうちょっと大きいものは、損害保険がなじむ領域です。数百万円の損害ならばともかく、数千万円以上の損害が発生すると、会社の決算に影響し、信用格付や借入金利にも影響する場合がありましょう。こういうリスクは、たとえ損害保険会社に人件費・物件費を払っても保険でヘッジをしておく意義と価値はあります。

更に発生頻度が低いリスクで、しかし影響は大きくなりうるものは、通常の保険ではない手法によりリスクヘッジを行うことが有効な場合があります。たとえば、冷夏リスクや、暖冬リスクが決算に大きく影響しうる企業であれば、毎年の決算を天候要因で乱高下させないためにも、ウェザーデリバティブでリスクヘッジをするのも一法でしょう。現に、ゴルフ場やスキー場は良くこれを活用しているようです。また最近では、野外展示場や野球場が雨天時の売上急減リスクをウェザーデリバティブでヘッジする事例も増えているようです。

最後に、発生頻度は大変低いリスクで、しかし巨額な損害を生じえるものは、巨大地震や巨大台風などが典型例です。そしてそれをヘッジする金融商品も登場しています。地震ボンドとか台風ボンドと呼ばれるものです。その債券を購入した投資家は、利息収入を得る見合いに災害発生時には投資元本が償還されないというかたちで損害を肩代わりしてくれます。世界では200近い発行事例があり、日本でもディズニーランドなどを運営するオリエンタルランド社の地震ボンドなど10前後の発行事例があります。但し、こういう形で投資家にリスクを転嫁するためには、債券の発行コストを考えると最低でも50億円以上の元本金額が必要です。災害リスクがそれよりも小さい場合は、災害ボンドではなく、自分の企業の株主資本でまさかの時のリスクは吸収するしかないということになります。

次回は、「合理的な損害保険取組みについて」です。今後も皆さまの会社経営のヒントになるお話をさせていただく予定です。ありがとうございました。