合理的な保険取組みについて

オリックス株式会社リスク管理本部副本部長 糟谷 英治
オリックス株式会社
リスク管理本部副本部長
糟谷 英治

今回は、前回ご説明したリスクファイナンスの各手法の中で最も一般的に活用されている損害保険について、我国では意外と知られていない合理的な取組み方法をご説明いたします。欧米諸国では、保険ブローカーが企業のリスクコンサルタントとなって、どこの保険会社とどのような保険プログラムを構築するのがベストかを指南してくれますが、我国ではさまざまな歴史的な経緯と背景もあって、保険ブローカーがほとんど活用されておりません。企業が自分でも知恵を絞って、保険会社や保険代理店と交渉する必要があります。

一般的な日本企業の損害保険によるリスク・ヘッジ

まず、一般的な日本企業の損害保険によるリスクヘッジのイメージをグラフ化したものをご覧ください。企業が抱えているオペレーショナルリスクには、災害系、法務系、賠償系、システム系などさまざまなものがあります。多くの日本企業では、これらの計量的な把握は不充分で、いくつかのリスクについては損害保険をかけずにただ放置している一方で、いくつかのリスクについては損害保険を購入はしているものの、部門毎でばらばらにかけているというのが良くあるパターンです。

次にご覧のグラフは、欧米企業に見られるより高度な保険活用法とリスク対応のイメージです。1つ目の特徴は、同じリスクは自社グループ内で統括して一つの保険証券に付保することです。

2つ目の特徴は、異なるリスクでも一つの保険プログラムで包含できるものは統合することです。保険料の算定には大数の法則が働きますから、ばらばらに保険をかけるよりも、少しでも多くの保険を、かつ可能であれば違うタイプのリスクも一緒に保険プログラムにくみいれれば、保険料はかなり安くなります。我国でも、数年前に東京電力が、約1200件の火災保険を一つの契約にまとめて、年間の支払い保険料を2、3割減らすことができたと公表しておられました。

次に3つ目の特徴は、その企業の期間収益力で十分吸収できるレベルの小額の損害は、保険の免責の対象として、支払保険料を節約することです。免責額を高額とすればするほど保険料が安くなるということは、皆様も自家用車の車両保険などであるいはご経験があることではないかと思います。

そして4つ目の特徴は、保険料が割高になりがちな高額リスク部分については、無理に通常の保険プログラムの対象とはせずに「超過保険」という特殊な保険をかけたり、金融機関や機関投資家との契約で緊急時の増資枠を確保するということによって、決算に甚大な影響が生じるリスクを回避することです。

最後に5つ目の特徴は、前回もご説明しましたように、リスクの証券化とか、キャプティブとか、通常の損害保険以外のさまざまなリスク移転手段も活用することです。

因みに、キャプティブとは、海外に保有する自社の再保険子会社のことです。そこに自社のリスクをプールして、再保険者と直接契約することによって合理的に損害リスクをヘッジするスキームです。日本でキャプティブを保有している企業は現在はまだ100社前後のようですが、アメリカでは3000社位はあろうということです。再保険の引受けで有名なイギリスのロイズは「女優の足から衛星まで」と言うフレーズで知られていますように、さまざまなリスクを引受けてもらえます。日本で保険会社と直接交渉しても中々保険化できないリスクでも、キャプティブを通して再保険者と交渉いたしますとヘッジが可能ということも充分ありえるわけです。

今回のお話を聞いただけで、すぐ皆さまの会社の損害保険プログラムを合理化・高度化することは難しいかもしれませんが、一度保険コンサルタントなどにご相談してみるのも一つの方法かと思われます。

次回は、事業継続マネジメント、いわゆる「BCMについて」です。今後も皆さまの会社経営のヒントになるお話をさせていただく予定です。ありがとうございました。