企業が取り得るリスク量・取るべきリスク量

オリックス株式会社リスク管理本部副本部長 糟谷 英治
オリックス株式会社
リスク管理本部副本部長
糟谷 英治

前回は、企業は「企業価値の創出」を目指さなくてはならないとご説明しましたが、本日はその考え方の下で、「企業が取り得るリスク量と取るべきリスク量」についてお話いたします。

まず結論から申し上げれば、「企業は株主資本の金額までリスクを取り得る。しかし、取っているリスクが少なければいいというわけでもない、株主資本の金額までリスクを取る気がないなら、経営者の成長意欲に疑念をもたれ、株主へ増配しろという資金還元の要請を受けたり、余剰資本を有効活用する自信のある他社から買収のターゲットになってしまうかもしれない。」ということです。

企業価値創出のフレームワーク

企業価値創出のフレームワーク2

前回ご説明したのと同じ「企業価値創出のフレームワーク」をご覧いただきます。

各種の保有資産から発生しうる最大想定損失すなわちリスクの合計額を資本市場は暗黙のうちに読み込んで、その額が株主資本の金額に収まっていることを、企業に求めているとお話いたしました。

仮にこのリスクの総量が株主資本の金額を上回っていれば、資本市場はこの会社を「過小資本」と見なすことになります。株主資本でリスクの総量を賄えないため、信用リスクが高い企業と見なされ、信用格付は下がりますし、信用格付を得ていない企業の場合でも、金融機関がその企業に貸出す金利は高いものになるでしょう。倒産確率が高いと、株価も上がりにくいものです。

では、リスクの総量より株主資本の方が大きければ大きいほど良いのでしょうか。この状態を「過大資本」と言います。信用格付は良くなり、銀行も低めの金利で貸し付けてくれるようになります。その限りでは安心だと考える経営者が多かったのがこれまでの日本の通例です。しかし、昨今の世界の考え方は必ずしもそうではありません。「資本市場と対話可能な経営」という考え方の下では、株主は「過大資本」の状態を評価しませんし、許してくれません。その事態を放置していれば、リスクを取らない分は現金配当で株主に還元せよという圧力が増大するのみならず、最終的には買収のターゲットにもなってしまいます。買収者は、余剰資本を有効に使ってビジネスを拡大するアイディアのある起業家かもしれませんし、単に余っている資本を現金配当として分捕りたいだけの投資ファンドのこともありましょう。

過大資本を放置している企業の株価は上昇余力も限られます。株主が期待しているのは、成長であって、安定ではないからです。安定を求める資金は、銀行預金や社債投資などに向かいます。

株主にとっては、「リターンの源泉であるリスクを、資本として預けている金額だけ取らないのであれば、余っているお金は返してくれ。きちんとリスクを取ってリターンの獲得を目指す他の企業の株式に投資し直すぞ。」というわけです。

事業活動に伴って企業が取り込むリスクの総量は、株主資本より大き過ぎても、小さ過ぎてもいけないわけです。但し、リスクの総量が小さい場合、すなわち「過大資本」の場合、近い将来に設備投資などによる業容拡大が予定されていたり、他企業を買収するための「待機資金」だと説明できれば、株主は待ってくれます。そこは経営者と資本市場の対話、すなわちIRの問題だと言えましょう。

本日のポイントをまとめますと、「資本市場の理解と評価を得るためには、企業は発生しうるリスクの総量が、株主資本の金額に対して適度に釣合っていることを適宜検証し、確認する必要がある」ということでした。