リスク量(=最大想定損失)の推計方法例

オリックス株式会社リスク管理本部副本部長 糟谷 英治
オリックス株式会社
リスク管理本部副本部長
糟谷 英治

前々回に企業価値創出とは何か、前回に企業が取り得るリスク量と取るべきリスク量についてご説明致しました。そして、その際に企業のリスク量は、資本市場が暗黙のうちに評価・推計して株価や信用格付に反映されているとお話いたしました。このリスク量の内訳、すなわち個別資産の最大想定損失の推計方法として内外資本市場で広く使われているものをいくつかご紹介いたします。今日のお話は経営管理の技術のようなもので、ご関心がない方は飛ばされても次回以降に影響はありません。

例えばBBB格の企業の場合

まず、企業の現在の信用格付、または目指したい信用格付がトリプルB格の場合、リスク量は、一年間に99%程度の可能性で発生する最大損失、言い換えますと、1%の可能性では発生するかもしれない損失で計測するのがスタンダードな考え方です。なぜならば、BBB格の企業であれば、過去数十年の歴史から倒産確率は悪くても1%程度で収まっているからです。仮にもっと甘く、たとえば95%の可能性で発生する年間最大想定損失をリスク量と見なして経営管理をしていると、その企業は資本市場から「あなたの会社は5%の確率で倒産してもしょうがないという考えでリスクを取りにいっているのですね。それではシングルB格の企業ですよ。」と見なされてしまいます。

売掛金のリスク量算定例

では、最初の具体例として「売掛金」のリスク量の算定方法をご説明いたします。過去5年程度、できれば景気サイクルが一巡する10年程度の売掛金の事故率または未回収率をパソコンのエクセルなどのソフトに入力しますと、簡単にその平均値と変動幅の標準偏差が得られます。その平均値に標準偏差の2.33倍の値を加えたものが、99%の可能性で発生する可能性のある最大事故率または最大未回収率です。金融機関ではもっと複雑で高度な手法で、この最大想定損失を計測いたしますが、一般の事業会社さんではこの標準偏差による推計方法でも十分でしょう。

棚卸資産のリスク量算定例

次に、「棚卸資産」のリスク量の算定例です。ご覧の事例は、原油が棚卸資産という石油関連会社の場合ですが、どういう商品でも考え方は同じです。その商品の過去の価格変動データを入手してパソコンに入力すれば、簡単に年間変動幅の標準偏差が得られます。ここでもその2.33倍を取れば、一年間に99%の可能性で発生する最大想定下落幅を得ることができます。もし、その在庫が非常に回転の速いもので、一年間も塩漬けにすることはありえないのであれば、(詳細なご説明は省きますが)ご覧のように、半年間のリスク量であれば年間リスク量を √2 で割ったもの、1カ月間のリスク量であれば年間リスク量を √12 で割ったものとなります。在庫回転期間の認識が合理的であれば、棚卸資産のリスク量をこのように推計して経営管理を行っても資本市場のその企業へのリスク評価と大きな乖離は生じないでしょう。

保有土地のリスク量算定例 次のリスク量算定例は、「土地」です。いろいろなタイプの土地ごとに土地価格指数が公表されていますので、その過去10年位のデータを、パソコンに入力すれば簡単に年間変動率の標準偏差を得られます。たとえば6大都市商業地の場合は、その値は6.5%となっておりますので、99%の可能性で発生する最大変動下落幅は、2.33倍の15.2%とみなせるというわけです。

非上場の他企業への投資のリスク量算定例 最後のリスク量算定例は、「非上場の他企業への投資」の場合です。ある大手格付会社の企業評価の公開草案では、このような場合は投資額の50%をリスク量と見なしています。それにならうのが無難でしょう。

以上、本日は、企業におけるさまざまな資産のリスク量の具体的な推計方法をご紹介いたしました。