企業にとって株主資本コストとは

オリックス株式会社リスク管理本部副本部長 糟谷 英治
オリックス株式会社
リスク管理本部副本部長
糟谷 英治

前回まで、企業価値の創出とは何か、企業が取り得るリスク量や取るべきリスク量をどう考えるか、そしていくつかの資産タイプについてそのリスク量すなわち最大想定損失の推計方法をお話いたしました。本日は、そのようにして推定されたリスク量を賄うために企業が株主より得ている資本のコストをどう認識すべきかをご説明いたします。若干理屈っぽいお話になりますが、このコストを適切に認識した上で企業経営を行えば、次回と第10回でご説明するような、事業戦略すなわちどの事業タイプを拡大しどの事業タイプを縮小すべきかなどもより合理的に考えられるようになります。

日本では20年位前までは、株主資本のことを「無原価資本」などと言ってコストゼロのお金と考える経営者も多かったのですが、もちろんその考え方は間違えです。経営者が勘違いしていても会社は倒れませんが、株主や債権者などの資本市場がその会社のリスクと収益性を評価するモノサシが、経営者のモノサシと異なっていますと、株価や格付が思うように得られず、やがては会社の資金調達も行き詰まりかねません。

株主資本コストの推計方法
株主資本コストの推計方法
株主資本コストの推計方法
株主資本コストの推計方法

企業にとって株主資本コストとは、株主が期待し要求する年間の最低リターンであります。ここでリターンには、配当収益と株価の伸びの両方を含みます。そして、現在世界の多くの企業や資本市場関係者が採用しているCAPMすなわちCapital Pricing Asset Model という考え方においては、株主資本コストは、「(その国の無リスク長期金利)足すことの(その企業の株価の変動特性であるβ値)に(その国の株式全般へ投資家が期待しているリスクプレミアム)を掛けたもの」だとみなします。

我が国の無リスク長期金利は、現在は大体2%です。

また日本の株式全般へ投資家が期待しているリスクプレミアムは過去のデータ検証などから5%位だとみなされています。

企業の株価のβ値とは、その株価が市場平均であるインデックスに対してどの位の大きさの変動特性を持つかを表します。上場企業であれば、過去5年程度の株価をパソコンのエクセル等に入力すれば簡単にβ値を得られます。β値が1であれば、市場インデックスと同じ方向で同じ幅で株価が上下変動する傾向があるということ。β値が2であれば、市場インデックスと同じ方向で2倍の幅で株価が上下変動する傾向があるということです。市場と逆の動きをすることが多い株価はマイナスのβ値となることもありえます。景気変動に余り左右されない企業の株価のβ値は1より小さいことも多く、一方で景気等に業績が大きく左右される企業の株価のβ値は2を超えることもありますが、β値が3以上になることは稀です。

上場していない企業の株価のβ値は、類似した事業内容の上場企業の株価β値を、事業構成に応じて加重平均して類推することが良く行われる方法です。

β値が1.2の企業の株主資本コストは、ご覧のように、税引後で8.0%、実行税率を40%としますと、税前換算で13.3%と見なせます。これの意味するところは、たとえばその企業の株主資本が10億円の場合、年間の税前収益のうち1.33億円、税引後収益の内0.8億円は、株主が当然期待している収益であり、経営者は「コスト」として認識してそれ以上の収益を目指さなければならないということであります。

本日は企業がご自分の会社の株主コストを何%と考えたらよいかの考え方をご説明いたしました。