事業タイプ毎の拡大・縮小戦略の考え方

オリックス株式会社リスク管理本部副本部長 糟谷 英治
オリックス株式会社
リスク管理本部副本部長
糟谷 英治

前回まで、企業価値とは何か、企業が取り得るリスク量・取るべきリスク量とは何か、リスク量の推計方法、そして株主資本コストをどう認識すべきかについてお話してまいりました。このようなリスク評価とコスト認識ができますと、企業が取組んでいる複数の事業タイプの間でどれを拡大しどれを縮小すべきかの戦略も設定しやすくなり、またそれへの株主や債権者の理解も得られやすくなるということを今回と次回でご説明いたします。なおここで言う事業タイプとは、全く異なる事業部門でも構いませんし、顧客区分や商品区分に応じた分け方でも構いません。

まず前提となる基本的な考え方は、「未来永劫(はちょっとオーバーとしても)見通せる限りの将来にわたってプラスの企業価値を産出できない事業からは撤退することが資本市場すなわち株主や債権者の要請である」ということです。実際は、人員整理のコストとか、その事業があるからこそ他の事業が潤っているというシナジー効果とか、色々なことも考えなければならないでしょう。しかし、企業価値を産み出さない事業を抱えたままでは、株主のその企業への評価は悪化し、企業の株価も下がり、債権者や社債投資家の評価も悪くなるだけだという認識は必要です。

事業タイプ毎の拡大・縮小戦略の考え方

ご覧の図は、「ウォーターフォールチャート」と呼ばれるもので、内外の多くの企業で経営判断に際して活用されているものです。横軸は、事業タイプ毎の「リスク量、すなわち株主資本を使用していると考えるべき金額」を表しています。縦軸は、事業タイプ毎の「企業価値創出額、すなわちその部門の収益から負債コストと株主資本コストを控除した税引後の値」を表しています。まず企業価値創出がプラスの事業タイプでリスク量の大きいものから順番に、A・Bと左からつなぎ、次に企業価値創出がマイナスの事業タイプでリスク量の大きい部門から順番にC・Dとつないでいくのが通例です。星印が、その企業全体のその年度の企業価値創出額とリスクの総量を示すことになります。

このチャートから、次のようなことが言えます。まず第一に、この企業は株主から得ている資本の内1割程度相当はまだリスクを取っておらず余剰資本となっていることです。その分、投資余力があるわけで、使う予定がないならば現金配当での還元も必要かもしれないということです。

第二に、事業タイプBでは使用資本の量、すなわちリスク量に対して、企業価値創出額の割合が高く、株主や債権者から見てももっと拡大すべき事業と見えるということです。

第三に、事業タイプAでは、全事業部門で一番株主資本を使っていますが、その割には企業価値創出額は大きくなく、今のままでは拡大の優先順位はBよりは落ちるということです。

第四に、事業タイプのCとDでは、このままリスクと収益性のバランスに改善の目処が立たないのであれば、縮小や撤退も検討する必要があるということです。事業タイプCは、事業タイプAに次いで多額の株主資本を使っているにもかかわらず企業価値を創出していません。ただし、もうちょっとの努力または環境改善で企業価値創出がプラスになる可能性はありそうです。一方で、事業タイプDは、使用している株主資本は多額ではありませんが、大きく企業価値を喪失してしまっていて、よほどの事業環境改善が見込めない限り、この事業からの撤退は不可欠のように見えます。

次回は、このチャートの分析にリスクの相関という概念を加えるとどうなるかをご説明いたします。