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経営者のためのコンサルティング > 経営に役立つヒント 第8回

経営者のためのビジネス講座

2016.4.5 ストレスチェック制度導入における検討事項と注意点

この文章は、株式会社名南経営コンサルティングによるものです。

※この文章は平成28年3月18日現在の情報に基づいて作成しています。
具体的な対応については、貴社の社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

平成27年12月1日に改正労働安全衛生法が施行されました。これにより、従業員数50名以上の事業場においては1年に1回ストレスチェックの実施が義務化され、初回は平成28年11月30日までに行う必要があります。以前のコラム※1では、ストレスチェック制度の概要と全体像について解説をしましたが、今回は、ストレスチェック制度の導入における検討すべき事項とその注意点について順を追って解説します。

1.ストレスチェック制度推進担当者の選定

まずは、ストレスチェック制度の導入にむけて、例えば人事総務部の社員などから推進担当者を選定する必要があります。選定された推進担当者主導で制度導入の検討を進めていきますが、厚生労働省の指針ではその検討の場として、労使が参加する衛生委員会※2を活用すべきであるとしています。しかしながら現実には、衛生委員会が十分に機能していなかったり、そもそも衛生委員会の開催がなかったり、という会社もあります。そのため、会社によっては、衛生委員会の体制や参加メンバーの見直しを実施するところから必要になる場合もあるでしょう。

  • (※2)衛生委員会:従業員の健康障害の防止や健康の保持増進を図るための基本となるべき対策を調査審議するための委員会。業種に関わらず、常時雇用する従業員が50人以上の事業場では労働安全衛生法に基づき設置する必要がある。

2.ストレスチェックの実施者と実施事務従事者の選定

次に、ストレスチェックの実施者と実施事務従事者を選定します。

no1実施者の選定

ストレスチェックの実施者となれる者は、医師・保健師・厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師または精神保健福祉士(以下、医師など)に限定され、厚生労働省の指針においては、会社の産業医が従事することが望ましいとされています。そのため、会社の意向次第ですが、まずは産業医に対して実施者となってもらえるか確認を取ることとなります。
しかし、産業医が、精神科の専門医ではない、ストレスチェック実施の体制が整っていない、現在の報酬では対応ができないなどという理由で実施者となることを拒むという場合も考えられます。
産業医に断られてしまうと、他に実施者となる医師などを探さなければならなくなり、時間を要することになりますので、最初に確認が必要です。

no2実施事務従事者の選定

調査票の回収、集計作業など実施者の補助を行うのが、実施事務従事者です。実施事務従事者となりうる者については、会社の人事権を有していない者という以外、特段制約はありません。したがって、社内の若手の人事総務部員に担当させるということも可能ですし、外部の業者が提供しているサービスを利用するということも可能です。しかし、この実施事務従事者というのは、人事権を有する社長や人事部長なども知らない従業員のストレスチェック結果を知ることとなる唯一の人物なのです。若手の一社員に自社の従業員の心の健康状態を把握させること、万が一、その情報を他言すれば、最悪の場合は禁固刑という罰則があるという重責を考えると、社員を実施事務従事者に据えるのは適当ではないと思わざるを得ません。
そこで、多くの会社では、実施事務従事者を外部委託し、業者が提供しているストレスチェックのサービスを利用することが主流となっています。医療機関や検診機関、カウンセラーの団体、システム会社、保険会社など、さまざまな業者が提供しています。さらに、付帯サービス(研修実施など)やオプション(検査項目の加除、結果の封入作業・送付作業など)などさまざまなサービスがありますので、業者への見積依頼やサービス内容の確認は早めに着手し、自社としてどこまで外部に依頼するかを検討する必要があります。

3.受検者の範囲の決定

社外への依頼や確認がある程度できたところで、次は具体的な実施内容を検討していくこととなります。その際に決めなければならないことの一つに、受検対象者をどこまでの範囲とするかという検討事項があります。

法令上、実施義務があるのは、50人以上の事業場に所属する正社員と一定の基準(労働時間が正社員の4分の3以上など)を満たすパートタイマーなどに限定されていますが、それ以外に、以下の方々などに対して、法令上の義務はないものの実施するかどうかを決めておく必要があります。また、出向社員については、出向元と出向先のどちらの会社で実施や費用負担をするのかを会社間で調整しておく必要があります。

① 50人未満の事業場に所属する従業員
② 短時間のパートタイマーやアルバイト
③ 役員
④ 海外赴任者

法令上義務となっていなければ実施しない、と結論づける会社も少なくないかとは思いますが、実施しないこととした従業員に対してどのように説明をするのか、積極的に伝えないとしても、聞かれた時に理由が答えられるようには備えておくべきでしょう。例えば、初年度はトライアルとしてまずは法令上の実施義務のある方を対象とし、次年度以降はその結果を踏まえ検討をするというのも一つの考え方でしょう。
また、就業時間が短時間であれば、業務上のストレスは少ないと考えて短時間のパートタイマーには実施をしない、逆に海外赴任者については、一般的に海外業務は高いストレスを抱えることが推測されるので、義務はないものの実施の対象とするというのも現実的な対応であると思われます。

4.ストレスチェック検査の実施方法の決定

本制度で一番の要は、ストレスチェックの検査そのものでしょう。この検査については、意外にも自由度が高いため、決めておくべきことが多くあります。

no1検査項目の内容の検討

検査に用いる調査票の標準形とされているのは、57項目から構成される「職業性ストレス簡易調査票」※3です。この調査票はあくまで標準形であって、質問事項については、3つの領域(仕事のストレス要因、心身のストレス反応、周囲のサポート)の質問事項を網羅していれば、質問を加除しアレンジすることも可能です。例えば、自社の従業員の傾向や職種の特性からして、設問数が多いと回答率が悪くなるということが推測されるのであれば、設問数を絞るということも考えられるでしょう。

no2実施時期と頻度の検討

年に1回以上の実施が義務化されていますが、1年の中でいつの時期に実施するのか、また、短期的な状況変化に対応するため年に2回以上の実施の必要はないかと検討することも一考でしょう。特に実施時期については、繁忙期に実施をすれば悪い結果が出ることは想像に難しくありませんので、その辺りの配慮も必要でしょう。

no3調査票の媒体の検討

調査票は紙か、WEB上か検討が必要です。WEB上であれば集計作業が簡単であり、外部委託する場合、多くは紙より安価です。とはいえ、職場内などのIT環境や従業員のITリテラシーの問題などから、高い受検率を見込むためには紙の調査票で行わざるを得ないという場合があることを、念頭に置いておく必要もあります。

no4受検勧奨の検討

ストレスチェック制度は会社に実施義務があります。一方で、従業員本人には受検義務が課せられていません。できる限り多くの従業員に受検してもらうため、受検の奨励や勧奨をしていくことが必要でしょう。

  • (※3)厚生労働省ホームページ:職業性ストレス簡易調査票
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/kouhousanpo/summary/pdf/stress_sheet.pdf

5.ストレスチェック検査実施後の初期対応の決定

検査実施後の対応を準備しておくことも必要です。

no1高ストレス者の水準の決定

医師の面接指導を希望することができる選択権が与えられるのは、高ストレス者に限定されています。この高ストレス者の範囲は、会社が産業医などの意見を聞きながら決定をすることとなっています。厚生労働省の指針においては、上位10%が目安とされていますが、この水準を上下させることは可能であるため、自社としてどの水準とするか、これを決めておかなければなりません。

no2結果の閲覧を行う判断

従業員各個人のストレスチェック結果は、原則として、人事権のある者が取得することはできないこととされています。しかし、本人の同意(本人が検査結果を確認した後のタイミングでの同意)がある場合には、その結果を取得できることとされています。
会社として、積極的に同意を得て結果を知ろうとするのか、そうでないのか。結果を知ってしまうと、それを看過するわけにもいかず、何らかの対応をしなければということにもなってきます。ですので、活用の目的がないようであれば、安易に知ることは避けた方がよいともいえます。

no3高ストレス者で面接指導を希望しない者への対応方法

このストレスチェック制度の実施にあたって、最も心配されるのは、高ストレス者でありながら、医師の面接指導を希望しない方であると思われます。面接指導に来てもらえれば、医師の指導の下で会社としても何らかの対応をしていけますが、希望がなければ、人事権のある管理者側としては、高ストレス者であることすらわからないため、何の手立てもできないこととなってしまうからです。
この問題に対しての対応策として考えられるのが、補足的面談の活用です。補足的面談とは、その方が高ストレス者であることを認識している実施事務従事者からの働きかけにより、高ストレス者全員に、医師ではなくともカウンセラーなどによる補足的面談を受けてもらい、網をかけていくというものです。当然ながら、補足的面談では、異常がありそうな方については医師面接の希望をするよう促してもらいます。

no4その他

上記以外にも、結果の通知方法など細かな手順を決めておく必要があります。作成義務はありませんが、次年度以降の運営も考えると、これらの取り扱いをまとめた取扱規程やマニュアルを用意されておくことがよいでしょう。
また、調査票の回答結果(5年間保存)は重要な個人情報です。その管理者は医師などの実施者や外部委託した実施事務従事者であり、社外の者となるため、保存方法の指導や監査を行うなど、情報漏洩が起こらないよう、管理体制に気を配っておく必要があります。

6.医師による面接指導の対応策

高ストレス者と診断された者は、医師の面接指導を希望することができます。
この面接指導の結果、医師から会社に対して、対象者に行うべき措置の通知がされることがあります。この医師から発せられる措置の内容について、事前調整を行っておくことこそが、今回のストレスチェック制度導入の一番の肝であると感じています。
厚生労働省の指針においては、この面接指導を行う医師も産業医であることが望ましいとされていますが、これには同感をするところがあります。医師から発せられた措置の内容が自社では到底実現ができないようなものであると、会社は困ってしまいます。例えば、運送業の会社で長距離ドライバーの従業員に対して、「半日程度の短時間勤務であれば可」というような就労制限が出されたとしても、実質的に対応ができないので、どのように対応したらよいか困ってしまうのです。それであれば、「一定期間の休職が必要」という判断をして欲しいというのが会社の本音でしょう。そのような就業制限を出されても当社では対応できないということを事前に医師と調整し、就労制限の類型を限定するなど、会社としての現実的な対応範囲をすり合わせておくことが必要でしょう。
面接指導を行う医師には会社のこと、業務の内容などをよく理解しておいてもらうべきであり、普段から会社を巡回している産業医が適任であるといえるでしょう。

7.集団分析の実施

個人ごとの結果ではなく、例えば部署ごとといったように、ある集団ごとの分析を行うのが、「集団分析」です。その実施は、努力義務となっていますので、自社として実施するか否かを決めておく必要があります。この集団分析を行うと、集団における傾向が明らかとなり、その集団における課題がある程度浮き彫りとなってきます。本気で職場環境の改善をしていきたいと考える会社にとっては非常に有効なツールとなると思います。しかし、集団分析により課題が見えてきても、部署という大きな組織の変革には、大きな手間がかかるため、結局は対応をしない、できないということであるならば、集団分析自体には手を出さない方がよいと思います。

最後に、今回義務化となったストレスチェック制度は、企業のメンタルヘルスケアの一つの手段でしかありません。今回のストレスチェック制度の導入をきっかけに、その他のメンタルヘルス対策についても、支援の全体像から検討をされ、計画的な取組みをされていくことをお勧めします。

【株式会社名南経営コンサルティング】

名南コンサルティングネットワークグループの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。

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