第83回関心が高まる育児休業制度とその改正

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、2022年7月29日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

1.改正育児・介護休業法の施行スケジュールと概要

2021年6月、育児・介護休業法※1の改正法案が国会で成立し、公布されました。成立した改正育児・介護休業法では、男性の育児休業の取得促進が第一の目的として掲げられており、それとともに、出産・育児などによる労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児などを両立できるようにするためのさまざまな措置を事業主に求める内容となっています。
その概要は図表1のとおりであり、3段階に分けて施行されます。すでにスタートしている2022年4月1日施行の内容も含め以下で解説します。

<図表1> 改正育児・介護休業法の概要

施行日 概要 対象
2022年4月1日
  • ●育児休業取得のための雇用環境整備
  • ●妊娠・出産を申し出た労働者に対する個別周知・意向確認
  • ●有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
すべての事業主
2022年10月1日
  • ●出生時育児休業の新設
  • ●育児休業の分割取得等
2023年4月1日
  • ●育児休業取得状況の公表義務付け
常時雇用する労働者数が1,000人を超える事業主
  • ※1:「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」

2.2022年4月1日施行の概要

(1) 育児休業取得のための雇用環境整備

育児休業取得のための雇用環境整備では、育児休業と出生時育児休業(2022年10月1日施行。詳細は後述。)の申し出が円滑に行われるようにするため、事業主に以下①~④のいずれかの措置を講じることが義務付けられました。いずれを選択するかは事業主の自由ですが、必ず一つ以上を講じる必要があり、複数の措置を講じることが望ましいとされています。

  • ①育児休業・出生時育児休業に関する研修の実施
  • ②育児休業・出生時育児休業に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
  • ③自社の労働者の育児休業・出生時育児休業取得事例の収集・提供
  • ④自社の労働者へ育児休業・出生時育児休業制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

*出生時育児休業は、2022年10月1日から対象。

(2) 妊娠・出産を申し出た労働者に対する個別周知・意向確認

育児休業などの制度は、就業規則に定められる項目であり、就業規則を周知することで労働者は制度を知り、申し出を行うことが想定されますが、改正育児・介護休業法では、取得促進の目的から本人または配偶者の妊娠・出産などについて申し出た労働者に対し、事業主が個別に育児休業制度などに関する事項を周知し、取得に関する意向を確認することを義務としました。

個別周知すべき事項は以下の①~④で、面談(オンライン可)または書面を交付することにより、すべての事項を周知する必要があります。なお、労働者が希望した場合には、FAXや電子メールなどでの周知も認められています。

  • ①育児休業・出生時育児休業に関する制度(制度の内容など)
  • ②育児休業・出生時育児休業の申し出先(例:人事部など)
  • ③育児休業給付に関すること(例:制度の内容など)
  • ④労働者が育児休業・出生時育児休業期間に負担すべき社会保険料の取り扱い

*出生時育児休業は、2022年10月1日から対象。

意向確認は、事業主から労働者に対して、育児休業などに係る取得の意向を確認する働きかけを行えばよいとされており、意向を確認したものの労働者から返答がない状態であっても差し支えありません。また、「取得するか分からない」という返答であっても意向を確認したことになります。
なお、個別周知・意向確認は、労働者が希望の日から円滑に育児休業を取得することができるように配慮し、図表2のような時期に実施することが必要とされています。

<図表2> 個別周知・意向確認を実施すべき時期

労働者からの申し出のタイミング 事業主からの周知・意向確認の実施時期
出産予定日の1カ月半以上前の申し出 出産予定日の1カ月前まで
出産予定日の1カ月半前から1カ月前の間の申し出 申出から2週間以内など、できる限り早い時期
出産予定日の1カ月前から2週間前の間の申し出 申出から1週間以内など、できる限り早い時期
出産予定日の2週間前以降や、子どもの出生後の申し出 できる限り速やかに

また、個別周知・意向確認にあたっては、厚生労働省が図表3の記載例を用意しており、この例を参考として、自社の制度の内容を盛り込んで使用するとよいでしょう。

<図表3> 個別周知・意向確認の記載例

  • (出典) 厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例 07参考様式(個別周知・意向確認書記載例、事例紹介、制度・方針周知 ポスター例)」P78-79
    https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000852918.pdf

(3) 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

今回の改正では、期間を定めて雇用される労働者(有期雇用労働者)についても、育児休業や介護休業を取得しやすくする目的から、取得要件が緩和されています。
有期雇用労働者は2022年3月31日まで「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が、育児休業および介護休業の取得要件として設けられていましたが、2022年4月1日にこの要件が撤廃され、育児休業であれば「1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでない」、介護休業であれば「介護休業開始予定日から起算して、93日経過日から6カ月を経過する日までに契約が満了することが明らかでない」という要件のみになりました。

なお、2022年4月1日より前から、労使協定を締結することで、引き続き雇用された期間が1年未満の労働者からの育児休業および介護休業の取得の申し出を拒むことができるとされていますが、これに変わりはありません。従来、この労使協定は一般的に無期雇用労働者を対象者として締結するものでしたが、今回の法改正に伴い、有期雇用労働者も含めて対象者とすることができるため、労使協定の締結を前提にするのであれば、実質的な休業の取得に関し、改正点に係る大きな変化はないかと思われます。
一方で、入社1年未満の有期雇用労働者は、仮に育児休業や介護休業を取得したとしても、法令で取得の対象外となっていたため、雇用保険の育児休業給付や介護休業給付の支給対象となりませんでした。2022年4月1日以降は、「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が撤廃されたことに伴い、支払基礎日数などの受給要件を満たせば、入社1年未満の有期雇用労働者であっても給付金が支給されることとなります。この点は実務において、大きな違いと言えるでしょう。

3.2022年10月1日施行の概要

(1) 出生時育児休業の創設

今回の改正育児・介護休業法における改正点でもっとも関心を集めているものが、出生時育児休業(産後パパ育休)です。この出生時育児休業は、子どもが1歳に達するまでの育児休業とは別に、新たな制度として創設された育児休業制度です。「育児休業」という名称であるものの、図表4のとおり、子どもが1歳に達するまでの育児休業とはいくつかの点で違いがあります。

<図表4> 出生時育児休業と育児休業の比較

  出生時育児休業 育児休業
(子どもが1歳に達するまで)
対象期間
取得可能日数
原則子どもの出生後8週間以内で、労働者が申し出た期間(4週間(28日間)が上限) 原則として子どもが1歳に達するまでのうちで、労働者が申し出た期間
分割取得 2回に分割して取得可能
(初めに2回分まとめて申し出が必要)
原則1回
(2022年10月より2回に分割して取得可能、ただし、取得する際にそれぞれ申し出る)
申出期限 原則休業の2週間前まで 原則休業の1カ月前まで
休業中の就業 労使協定を締結することで休業中に就業することができる 原則就業できない

図表4の中でも、もっとも大きな違いが、休業中の就業に係る部分です。子どもが1歳に達するまでの育児休業では原則就業ができないことと比べ、出生時育児休業中は事前に「出生時育児休業期間中に就業させることができる労働者の範囲」について、労使協定を締結した上で、労働者が申し出た就業可能日などの範囲内で就業日を事前に事業主と労働者で合意することにより、その合意した日に就業することが認められます。
休業中の就業は、休業期間中の所定労働日の半分・所定労働時間の半分という上限があり、休業開始日および終了予定日に就業する場合はその日の所定労働時間数未満でなければなりません。さらに就業により、雇用保険の出生時育児休業給付金(2022年10月1日創設)の支給額が減額または支給されないことがあるほか、出生時育児休業中の社会保険料の徴収の免除にも影響を与えます。休業中の就業をできるようにする場合には、就業手順や就業による影響を十分確認することが必要です。
このほか、出生時育児休業の申出期限は休業の2週間前までとなっていますが、雇用環境の整備などについて法令を上回る取り組みの実施を労使協定で定めている場合は、最長1カ月前までとすることができます。

(2) 育児休業の分割取得

現行の子どもが1歳に達するまでの育児休業は、原則として1回しか取得できませんが、2022年10月1日以降は、2回に分割して取得できるようになります。これにより、図表5の例1のように、夫婦が交代して育児休業を取得したり、例2のように、必要な時期(取得を希望する時期)に夫婦ともに育児休業を取得したりすることができるようになります。
また、出生時育児休業は子どもが1歳に達するまでの育児休業とは別に取得できるため、産後休業を取得しない労働者※2は、図表5の例2のように、子どもが1歳に達するまでに特別な事情がなくとも最大4回の育児休業を取得することができます。
なお、出生時育児休業の新設と、育児休業の分割取得により、これまで設けられていた「パパ休暇」制度※3は廃止となります。

<図表5> 育児休業の分割取得イメージ

<図表5> 育児休業の分割取得イメージ
  • (出典) 厚生労働省「育児・介護休業法令和3年(2021年)改正内容の解説」P12
    https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000909605.pdf
  • ※2:産後休業を取得しない労働者とは、主に男性が対象だが養子を養育する場合などは女性も対象。
  • ※3:子どもの出生後、産後8週間以内に育児休業を取得した場合には、特別な事情がなくても、再度、育児休業が取得できる制度。

(3) 育児休業延長・再延長時の取得開始日の柔軟化

労働者または労働者の配偶者が育児休業を取得しており、子どもが1歳に達したときに保育所に入所できないなどの理由がある場合、子どもが1歳6カ月に達するまで育児休業を取得することができ(延長)、さらに子どもが1歳6カ月に達したときに保育所に入所できないなどの理由がある場合、子どもが2歳に達するまで育児休業を取得することができます(再延長)。
これらの延長・再延長の育児休業の開始日は、原則として1歳に達する日の翌日または1歳6カ月に達する日の翌日に限定されていましたが、今回の改正で、配偶者の育児休業終了予定日の翌日以前を開始日にできることとなります。これにより図表6のように延長・再延長時に、一時的に夫婦ともに延長・再延長の育児休業を取得したり、夫婦交替で延長・再延長の育児休業を取得したりすることができるようになります。

<図表6> 1歳以降の育児休業の取得イメージ

<図表6> 1歳以降の育児休業の取得イメージ
  • (出典) 厚生労働省「育児・介護休業法令和3年(2021年)改正内容の解説」P25
    https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000909605.pdf

(4) 育児休業延長・再延長時の再取得

現行の1歳以降の育児休業の延長・再延長において、延長・再延長の途中で育児休業を終了した場合、再取得はできないことになっています。この取り扱いについて、2022年10月1日以降、特別な事情がある場合に限り、図表7のように再取得できるようになります。
特別な事情とは、他の子どもの産前産後休業や出生時育児休業、要介護状態の家族の介護休業などを開始したことで育児休業が終了した場合で、終了事由となった休業の対象だった子や家族が死亡などしたときとなっています。このような事案が発生することはかなり限定的と考えられますが、就業規則(育児・介護休業規程等)の整備が必要になります。

<図表7> 育児休業の延長・再延長時の再取得のイメージ

<図表7> 育児休業の延長・再延長時の再取得のイメージ
  • (出典) 厚生労働省「育児・介護休業法令和3年(2021年)改正内容の解説」P25
    https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000909605.pdf

4.2023年4月1日施行の概要

育児休業取得状況の公表義務付け

近年、国の施策として、事業主にさまざまな情報を公表することを義務付け、求職者の事業主選択の参考にするような取り組みが進められています。
育児・介護休業法においても、2023年4月1日より常時雇用する労働者数が1,000人を超える事業主に対し、育児休業などの取得の状況を年1回公表することが義務付けられます。公表内容は以下①②のいずれかを選択することができ、公表の際にはいずれの方法により算出したものか明示します。

  • ①男性の「育児休業等の取得割合」
  • ②男性の「育児休業等および育児目的休暇の割合」

公表は、毎年1回、事業年度(会計年度)に合わせて集計をし、公表前事業年度終了後おおむね3カ月以内に、自社のホームページなどのほか、厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」※4で行うこととなっています。
なお、常時雇用する労働者とは、雇用契約の形態を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者を指します。

  • ※4:厚生労働省「両立支援のひろば」
    https://ryouritsu.mhlw.go.jp/

5.まとめ

以上のように今回の改正育児・介護休業法の内容は非常に細かいものになっており、法律自体も難解です。厚生労働省からもさまざまなパンフレットなど※5が出されておりますので、そうした資料も確認しながら、法改正への対応を進めていきましょう。

  • ※5:厚生労働省「育児・介護休業法 関連パンフレット」
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/index.html#pam-02
【執筆者】

社会保険労務士法人 名南経営
宮武 貴美(みやたけ たかみ)氏

保有資格:特定社会保険労務士、産業カウンセラー
人事労務の最新情報をホームページ・ブログ・メルマガ・SNSなどで発信し続けている。
「新版 総務担当者のための産休・育休の実務がわかる本」(日本実業出版社)、「こんなときどうする!?社会保険・給与計算 ミスしたときの対処法と防止策30」(労務行政)など、複数の著書を持つ。