第100回令和7年度 税制改正要望について

※この文章は、税理士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、令和6年10月1日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問税理士などの専門家とご相談ください。

1.毎年の税制改正の流れ

例年8月末までに各府省庁から国税は財務省、地方税は総務省に改正要望が提出され、内閣総理大臣の諮問機関である政府の「税制調査会」が中長期的な提言を11月ごろに行います。それを踏まえて与党の「税制調査会」が具体的な税制改正の内容を決定し、12月中旬に「税制改正大綱」にまとめます。「税制改正大綱」には、与党の今後の方針や考えも記載されているため、単年度の税制改正の全体像だけでなく、改正の趣旨や今後改正を検討している事項なども読み取ることができます。その後政府においてほぼ同様の内容で「税制改正の大綱」が閣議決定され、税制改正法案が1月中旬から2月上旬までに国会に法律案として提出されます。そして、3月末までに成立・公布され、4月1日から新しい制度が施行されることになります。なお、令和6年度税制改正の実際の流れは図表1のとおりでした。

<図表1> 令和6年度税制改正の流れ

令和5年8月30日 各府省庁が令和6年度税制改正要望を財務省・総務省に提出
令和5年12月14日 与党が「令和6年度税制改正大綱」を公表
令和5年12月22日 政府が「令和6年度税制改正の大綱」を閣議決定
令和6年2月2日 「所得税法等の一部を改正する法律案」を国会に提出
令和6年3月28日 「所得税法等の一部を改正する法律」の可決・成立
令和6年3月30日 「所得税法等の一部を改正する法律」と関連政省令の公布
令和6年4月1日 「所得税法等の一部を改正する法律」と関連政省令の施行

2.経済産業省「令和7年度税制改正要望」のポイント

令和6年8月30日に経済産業省から令和7年度税制改正要望※1が公表されました。本コラムではその要望の中から中小企業の経営者が注目すべき項目について解説します。

  • ※1:https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2025/zeisei_k/index.html

(1)中小企業優遇税制の延長・拡充

中小企業優遇税制のうち、令和7年3月31日がその適用期限となっているものについて、図表2に示すとおり、適用期限の延長や内容の拡充の要望がなされています。

<図表2> 中小企業の優遇税制の延長・見直し要望

項目 現行税制の概要 要望/目的
中小法人※2の法人税率の特例 中小法人※2の令和7年3月31日までに開始する事業年度の年800万円以下の所得金額に対する税率について、19%から15%に軽減 【要望】
・2年延長
【目的】
人手不足や物価高騰など引き続き厳しい経営環境において、中小企業における成長や規模拡大を促進するとともに、持続的な賃上げへの好循環を生み出すため
中小企業経営強化税制 中小企業者等※3が中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき令和7年3月31日までに一定の設備を取得等して、国内にある指定事業の用に供した場合に、即時償却または10%(資本金3,000万円超の場合は7%)の税額控除 【要望】
・2年延長
・売上高100億円超を目指す中小企業に対する上乗せ措置の創設等
【目的】
中小企業の成長を後押しし、中堅企業への成長ポテンシャルが高い売上高が100億円を超える中小企業の創出を推進するため
中小企業投資促進税制 中小企業者等※4が令和7年3月31日までに対象設備を取得等して指定事業の用に供した場合には、30%の特別償却または7%の税額控除(税額控除は資本金3,000万円以下の中小企業者等に限る) 【要望】
・2年延長
【目的】
人手不足や物価高騰など引き続き厳しい経営環境において、中小企業における成長や規模拡大を促進するとともに、持続的な賃上げへの好循環を生み出すため
中小企業防災・減災投資促進税制 中小企業者等※5で令和7年3月31日までに中小企業等経営強化法の事業継続力強化計画または連携事業継続力強化計画の認定を受けたものが、認定を受けた日から同日以後1年を経過する日までに対象設備を取得等して事業の用に供した場合に18%(令和7年4月1日以降に取得等をする場合は16%)の特別償却 【要望】
・2年延長
【目的】
自然災害が全国で多発する中、中小企業における防災・減災能力 の強化が一層重要性を増しているため
生産性向上や賃上げに資する中小企業の設備投資に関する固定資産税の特例措置 中小企業者等※6で中小企業等経営強化法の先端設備等導入計画の認定を受けたものが、その計画に記載された一定の対象設備に係る固定資産税について、課税標準を最初の3年間価格の2分の1(給与支給額を前年度比1.5%以上増加させることを計画に位置付け労働者に表明している場合には、最初の5年間(一定の場合は4年間)3分の1)に軽減 【要望】
・2年延長
・給与支給額を前年度比1.5%以上増加させることを計画に位置付け労働者に表明している場合には、令和9年3月末までの設備取得で5年間課税標準を3分の1に軽減
【目的】
赤字の中小企業であっても賃上げや前向きな投資を引き続き可能とするため
  • ※2:現行税制における中小法人とは、普通法人のうち各事業年度終了の時において資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の法人または資本もしくは出資を有しない法人のことをいいます。詳しくは、中小企業庁「中小企業税制パンフレット 令和5年度版」P3をご参照ください。
    https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/pamphlet/zeisei_r5.pdf
  • ※3:現行税制における中小企業者等とは、資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人、資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人、常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主などをいいます。詳しくは、中小企業庁「中小企業税制パンフレット 令和5年度版」P9をご参照ください。
    https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/pamphlet/zeisei_r5.pdf
  • ※4:詳しくは、※3注釈内容と中小企業庁「中小企業税制パンフレット 令和5年度版」P21をご参照ください。
  • ※5:詳しくは、※3注釈内容と中小企業庁「中小企業税制パンフレット 令和5年度版」P26をご参照ください。
  • ※6:詳しくは、※3注釈内容と中小企業庁「中小企業税制パンフレット 令和5年度版」P7をご参照ください。

(2)法人版・個人版事業承継税制※7の見直し

令和6年度税制改正によって、法人版・個人版ともに制度適用の前提となる計画の策定・確認申請の期限が令和8年3月31日まで延長されました。その一方で、制度の適用期限は、法人版が令和9年12月31日まで、個人版が令和10年12月31日までの贈与・相続となっています。
法人版事業承継税制の特例措置の適用のためには、非上場株式の贈与日に後継者が役員に就任後3年以上経過していることが要件になっており、制度の適用期限から逆算すれば、令和6年12月31日までに役員に就任する必要があります。したがって、計画の提出期限が延長されても、同日までに後継者が役員に就任していない場合には、制度の適用ができないことになってしまいます。こうした状況を改善するために、適用期限が到来するまでの間、本税制を最大限活用できるよう、役員就任要件の見直しが要望されています。
また、適用期間における事業承継の取組等も踏まえた必要な措置の検討が要望されており、こちらについてはどのような内容であるのか今後の情報や年末の大綱に注視が必要です。

  • ※7:中小企業庁 法人版・個人版事業承継税制
    https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html

<図表3> 現行における計画の提出期限と役員就任の期限の関係

<図表3> 現行における計画の提出期限と役員就任の期限の関係
  • (出典) 経済産業省「令和7年度経済産業省税制改正要望について」P16
    https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2025/zeisei_k/202408302.pdf

(3)エンジェル税制の拡充

エンジェル税制は、特定中小会社等(スタートアップ企業)への投資を行った場合に、その投資を行った個人の総所得金額や株式の譲渡益を控除する制度で、概要は図表4のとおりです。
譲渡益を控除するためには、その譲渡益が発生した年のうちに再投資を行う必要がありますが、再投資が可能な期間が短いことが制度活用の妨げとなり得ることから、その再投資期間を同一年内から複数年に延長することなどの拡充が要望されています。

<図表4> エンジェル税制の概要

1 優遇措置A
(寄附金控除)
  • ・(投資額-2,000円)(注)をその年の総所得金額から寄附金控除
    (注)総所得金額×40%または800万円のいずれか低い金額が上限
2 優遇措置B
(譲渡所得控除)
  • ・投資額をその年の株式譲渡益から控除
  • ・控除した金額を投資した株式の取得費から控除(課税の繰り延べ)
3 プレシード・シード特例
(スタートアップ再投資)
(譲渡所得控除)
  • ・投資額をその年の株式譲渡益から控除
  • ・控除した金額のうち20億円を超える部分の金額を投資した株式の取得費から控除
    (20億円までは非課税、超える部分は課税の繰り延べ)
4 自己資金による
スタートアップ起業
(譲渡所得控除)
5 譲渡損失の損益通算・
繰越控除
当該株式の譲渡損や対象企業の破産等による無価値化の損失とその年の他の株式譲渡益の通算が可能(控除しきれない金額は3年間の繰越控除が可能)
  • ※1~4の制度はいずれかの選択適用

このほか、経済産業省からは地域未来投資促進税制の拡充・延長などが、他の省庁からは企業版ふるさと納税の適用期限の延長やNISAの利便性向上などが要望されています。また、今回は要望ののちに総理大臣の交代があり、要望にない改正が行われることも考えられますので、今後の国会審議が注目されます。

【執筆者】

税理士法人名南経営  税理士 鷹取 俊浩氏

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。