第15回「有期契約労働者の無期転換ルール」への対応
※この文章は、株式会社名南経営コンサルティングによるものです。
※この文章は、平成28年9月30日現在の情報に基づいて作成しています。
具体的な対応については、貴社の社会保険労務士などの専門家とご相談ください。
平成25年4月1日に改正労働契約法が施行され、有期契約労働者の雇用期間が通算して5年を超えると、労働者からの申し込みがあれば無期労働契約に転換しなければならない制度(以下「無期転換ルール」)が設けられました。この制度は今後の労務管理に大きな影響を与えることが予想されるため、この概要と求められる対応について、解説いたします。
1.無期転換ルールとは何か
リーマン・ショックの際、多くの雇い止めが行われるなどして、いわゆる非正規労働者の雇用の不安定さが社会問題になりました。そして、現在、労働者の4割が非正規労働者という時代になっており、より一層、雇用の安定は大きなテーマとなっています。
このような背景から、平成25年4月1日に改正労働契約法が施行され、1年契約などの有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えた場合、従業員から無期雇用にして欲しいという申し込みがあれば、無期雇用に転換しなければならないという制度が導入されました。これを無期転換ルールと言います。例えば図表1のように、平成25年4月1日より1年契約で更新していた場合、雇用期間が通算5年を超える平成30年4月1日以降に無期転換の申し込みができるようになります。ただし、通算契約期間のカウントは、平成25年4月1日以後に開始する有期労働契約が対象であり、平成25年3月31日以前に開始した有期労働契約は通算契約期間に含めません。
<図表1>平成25年4月1日より1年契約で更新していた場合
■クーリングについて
この通算契約期間の計算方法について、一定の労働契約がない空白期間があれば、それ以前の有期労働契約期間を5年の中に含めないという規定があります。これをクーリングと言います。クーリングについては、図表2のとおり、カウントの対象となる労働契約期間に応じて空白期間が定められています。例えば、カウントの対象となる契約期間が1年以上の場合、有期労働契約とその次の有期労働契約の間に、労働契約がない空白期間が6カ月以上あるときは、その空白期間より前の有期労働契約は通算契約期間に含めません。
<図表2>クーリングにおける労働契約期間と空白期間
カウントの対象となる労働契約期間 | 空白期間 |
---|---|
2カ月以下 | 1カ月以上 |
2カ月超え ~ 4カ月以下 | 2カ月以上 |
4カ月超え ~ 6カ月以下 | 3カ月以上 |
6カ月超え ~ 8カ月以下 | 4カ月以上 |
8カ月超え ~ 10カ月以下 | 5カ月以上 |
10カ月超え | 6カ月以上 |
■有期労働契約の従業員は原則全員が対象
今回の無期転換ルールは、要件を満たし、従業員からの申し込みがあれば会社の意思とは関係なく、無期労働契約に転換されることになります。対象者は、パートタイマー、アルバイト、契約社員など、6カ月間や1年間など期間を定めて契約している従業員は原則すべての者が対象となります。つまり、パートタイマーなど有期労働契約の従業員が1名でもいれば、企業規模に関わらず対応が必要になります。
ただし、以下の者については都道府県労働局長の認定などを要件として、特例が設けられています(※1)。
①専門的知識などを有する有期雇用労働者
②定年に達した後、引き続いて雇用される有期雇用労働者
- (※1)厚生労働省:高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例について
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000075676.pdf
■無期転換ルールの効果
この無期転換とは、従来、1年間など契約期間の定めがあったものが、期間の定めのない労働契約になることを指しています。そのため、これは正社員にしなければならないという意味ではなく、原則として現在の労働条件のまま、「契約期間の定め」が「あり」から「なし」に変わることを意味しています。例えば、労働契約の例として次の図表3のようになります。
<図表3>無期転換前後の労働契約の例
無期転換前の労働契約例 | 無期転換後の労働契約例 | |
---|---|---|
期間の定め | あり (平成28年4月1日~平成29年3月31日) |
なし |
時給 | 1,000円 | 1,000円 |
勤務日数 | 週3日勤務(月・水・金) | 週3日勤務(月・水・金) |
勤務時間 | 1日6時間(9時~16時 休憩1時間) | 1日6時間(9時~16時 休憩1時間) |
2.無期転換ルールで求められる対応
例えば、平成25年4月1日以後、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間の有期労働契約を反復更新している場合、無期転換ルールの申し込み開始までの契約更新のタイミングは図表4のとおり、執筆時点では平成29年4月1日と平成30年4月1日の2回ということになります。このうち平成30年4月1日の更新タイミングでは、契約期間が通算5年を超えますので、ここで契約更新を行うと、無期転換の申し込みができることになります。つまり、平成29年4月1日のタイミングが、さまざまな対応について余裕を持って行うことができる最後の機会となります。そのため、企業としてはこの場合の無期転換ルールの対応を、平成29年3月までには行っておきたいところです。
<図表4>契約更新タイミング
無期転換ルールで求められる具体的な対応は以下の事項が必要となります。
①有期契約労働者の活用実態の把握
各事業所における有期契約労働者の人数、更新(判断基準、更新回数、勤続年数、運用実態)、有期契約労働者が担当する業務の内容はどのようになっているのかを把握します。
②方針の明確化
無期転換をしていくのか、それとも5年以内で雇い止め(契約更新拒否)をするのか方針を明確化します。
③無期転換対象者の明確化
対象者全員を無期転換するのか、それとも能力や適性などにより選抜を行うのか検討します。選抜を行う場合は人事評価制度などの確立が必要になる場合があります。
④無期転換後の労働条件の設定
原則としては、期間の定め以外は従前の労働条件と同一ということになりますが、労働時間や勤務地、職務などの労働条件について別段の定めをすることができるとされています。
⑤無期転換者就業規則の作成
無期転換者を対象とした就業規則を作成しておく必要があり、定年制なども設定することになります。既存のパートタイマー就業規則を変更して無期転換者も適用できるようにするか、別途、無期転換者用の就業規則を作成するか、いずれかの方法により整備を行います。適用する就業規則がないといった状況とならないように、確実に整備を行っておきましょう。
■重要となる今後の労働条件の設定
無期転換ルールにおいて、無期転換後の労働条件は「期間の定め」が「あり」から「なし」に変わるものの、「別段の定め」がない限り、直前の労働契約と同一となるため、その他の労働条件(給与、勤務地、労働時間等)は原則として同じ条件のままとなります。
そのため、例えば勤務日数が極端に少ないとか、一切、転勤ができないというような条件では、無期労働契約として定年までの長期雇用を保証するのは難しくなる場面も考えられます。この無期転換に際しては、必要最低限の「別段の定め」をすることができるとされ、例えば、週の所定労働時間を一定時間以上にしたり、転居を伴わないが通勤時間が現在よりも長くなる事業所へ転勤をさせることがあるといった内容が考えられます。
定年まで雇用することを見据えて、直前の労働契約と同じ条件で問題ないのかを確認し、同じ条件では問題があればどのような条件が必要かを検討し、それを就業規則に定めておくことが重要になります。
■無期転換申し込みに係るルールの整備
上記のとおり、事前に無期転換後の労働条件を定めて就業規則に規定した上で、無期転換の申し出を行うのか、それとも現在の条件のまま契約を更新していくことを希望するのかを、従業員に検討してもらうことになります。
また、無期転換を希望する場合には、いつまでに、どこへ、どのように申し出なければならないのか、社内手続きを決めておきましょう。申し出は、言った・言わないといったことにならないよう、書面で申し込みをしてもらうようにしておくべきでしょう。この書面については、厚生労働省より図表5のような無期転換申し込みの際の書式サンプルが提供されています。申し込みを受けた後には、申し込みを受けた旨の書面を交付しておくとよいでしょう。
<図表5>無期転換申し込みの際の書式サンプル
- [出典]厚生労働省:労働契約法改正のあらまし http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/pamphlet15.pdf
3.活用できる助成金制度
非正規労働者の雇用の安定は、国の重要な労働政策の一つに位置づけられています。そのため、無期転換や正社員登用などを進めるにあたって、助成金制度を活用することができます。
具体的には「キャリアアップ助成金」(※2)という助成金制度で、例えば、この中の正社員化コースにおいて、パートタイマーなどを正社員に登用したり、法律で無期転換となるタイミングよりも前倒しして無期雇用とした場合に、次のとおりの助成金が支給されます。
正社員に登用した場合 | 1人当たり60万円(45万円) |
無期雇用とした場合 | 1人当たり30万円(22.5万円) |
- ( )内は中小企業以外の額
この「キャリアアップ助成金」を活用するためには、事前に、雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いてキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けておく必要があります。その他さまざまな要件があることから、活用にあたっては事前に情報を確認しておきましょう。
- (※2)厚生労働省:キャリアアップ助成金
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
4.労働力不足時代の人材確保
ここ数年、企業規模や業種を問わず人材を確保できないという話をよく耳にし、人材不足の時代となっています。また今後、労働力人口は急速に減少していくことから、中長期的に人材不足がさらに深刻な問題となることは確実でしょう。このような環境の中では、高齢者や、育児や介護などで労働時間などにおいて制約を受ける人材を活用することが不可欠です。今後は、多様な人材を活用できる環境を構築した企業だけが安定的に人材を確保し、厳しい環境の中でも勝ち残る時代となっていくことでしょう。
そのため、企業としては、今回の無期転換への対応をきっかけにして、今後、人材をどのように活用していくのか、方針をしっかり検討していくことが求められています。
【株式会社名南経営コンサルティング】
名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。