第22回注意が必要な企業のSNS対策とは

※この文章は、株式会社名南経営コンサルティングによるものです。

※この文章は、平成29年5月20日現在の情報に基づいて作成しています。
具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

SNSとは、Social Networking Service(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の略で、人と人とのつながりを促進するコミュニティ型のWebサイトとして、FacebookやTwitter、LINEなどがその代表格として知られています。広告媒体として、あるいはコミュニケーションツールとして有効に活用されている一方で、その利用を巡ってのトラブルは後を絶ちません。本コラムではSNS利用によるトラブルを防止するため、企業としての対策を社会保険労務士の視点で解説します。

1.SNS利用によるトラブル

スマートフォンの普及などによってSNSを利用する人は増えており、SNSは日常生活に溶け込んでいます。また、業務においてもTwitterなどのSNSを利用する例が少なくありません。ところが、従業員の不適切な投稿によってその情報が拡散され、社会的な非難の対象となり、いわゆるネット上で「炎上」し、企業がダメージを受けるケースがしばしば発生しています。
例えば、飲食店やホテルの従業員による「芸能人の○○が△△と一緒に来た」などといったプライバシーの暴露や、食材を粗雑に扱う写真の投稿で、SNSが炎上したのは記憶に新しいところです。さらには、社内の様子や書類などの写真を勝手に投稿して重要な情報が漏えいしたり、顧客に対する誹謗中傷をSNSに投稿したりという事例も発生しており、トラブルの範囲が広くかつ深くなってきているように思います。

「まさかうちの従業員がそんなことをするとは思ってもいなかった」といったコメントが企業の記者会見などで聞かれることがあります。従業員のSNS利用によるトラブルの原因は、本人のモラルの問題だけではなく、従業員教育や管理体制(ルールの未整備や責任者の不存在)などにも問題があると考えられます。企業のダメージにつながる危険性がある以上、何らかの対策を取らざるを得ません。従業員本人の責任にとどまらず、十分な教育や指導をしなかった雇い主たる企業に対しても責任が問われることもあるため、その対策は急務であり徹底しなければなりません。

2.企業として何をすべきか

企業が従業員のSNSの利用によるトラブルを防止するためには、少なくとも以下3点の対策が必要です。

  1. ① ルールの整備
  2. ② 従業員の教育
  3. ③ 責任者の明確化

ルールの整備

企業としては、トラブルを避けるために、従業員のSNSの利用を全面的に禁止したいところです。しかし、プライベートでの利用まで企業が規制することは、私生活の自由を侵害することにもなりますので、規制には制限があるものと理解しなければなりません。こうしたことから、従業員のSNSの利用にあたっては、図表1のように利用場面に応じてリスクや注意点などを整理しルールを考える必要があります。そして、これらを基にSNS利用にあたってのガイドラインを制定したり、就業規則などにルールを明記したりすればよいでしょう。もちろん、そうしたルールを明記したとしても、従業員が十分な理解をしていなければ問題が発生する可能性が生じますので、入社時にSNSの利用ルールが網羅された図表2のような誓約書を提出してもらうことも重要です。

<図表1>SNS利用場面におけるリスクや注意点などの整理

業務中の利用 業務外(就業時間外)の利用
個人の
アカウント
で利用
  • ・職務専念義務違反に該当するリスク
  • ・会社や取引先等への誹謗中傷を投稿するリスク
  • ・会社の機密情報を漏えいするリスク
    など
  • ・会社や取引先等への誹謗中傷を投稿するリスク
  • ・会社の機密情報を漏えいするリスク
    など
法人の
アカウント
で利用
  • ・倫理観を欠く内容を投稿するリスク
  • ・取引先等の誹謗中傷を投稿するリスク
  • ・会社の機密情報を漏えいするリスク
    など
  • ・アカウント等が漏えいするリスク
  • ・会社の機密情報を投稿するリスク
  • ・労働時間管理が曖昧となるリスク
    など

<図表2>SNS利用に関する誓約書(例)

SNS利用に関する誓約書

年  月  日

○○○○株式会社 御中

住所
氏名

1. 私は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の利用にあたっては、以下のルールを順守します。

  1. (1)就業時間中は、会社の許可を得た場合を除きSNS(法人アカウント・個人アカウントともに)を利用しません。
  2. (2)会社から貸与された携帯電話・タブレットなどを用いてSNSを利用しません。
  3. (3)個人アカウントを用いて私用でSNSを利用する場合、当社のことのみならず当社関係者(従業員含む)や取引先等を特定される内容を投稿しません。
  4. (4)法人アカウントを用いて会社の許可を得てSNSを利用する場合、特定の法人や個人、サービスなどを誹謗中傷する内容やセンシティブ情報などを投稿しません。
  5. (5)取引先(従業員含む)とは、SNSによる連絡のやり取りは行いません。

2. 私は、SNSの利用によって会社に損害を与えた場合には、会社の請求に速やかに応じます。

以上

従業員の教育

ルールの整備と同時に、従業員に対しての教育も不可欠です。SNSの利用に関する教育だけではなく、情報漏えいにおける企業のリスクや職業倫理なども同時に伝えることが重要で、従業員に危機感を持ってもらうことにその狙いがあります。また、SNSを利用してやってよいことや悪いことの判断は、個々によって異なる場合もありますので、その認識を合わせるためにさまざまな具体的な事例を用いて研修を行うと効果的です。さらには、その理解を確実なものにするために、研修終了後には理解度を測るテストを実施して、一定点数以上取らなければ再受講を命じるといった方法も有効です。
こうした教育は、入社時のみならず1年に1回、全従業員に対して行うべきでしょう。特にパートタイマーなどの非常勤従業員への教育は漏れることなく実施し、また、派遣社員への教育も派遣会社と連携をして実施すべきです。業務の都合などで、その教育を受講することができない従業員に対しては、例えば研修の内容を撮影したDVDを貸し出すなど、全従業員への浸透を図っていくべきです。

責任者の明確化

実際に情報が漏えいした等のトラブルが発生した場合、本人に責任があることは言うまでもありませんが、状況によっては上司の管理責任が問われる場合もあります。このような事態に陥らないよう、ルールの整備や教育などの取り組みを定着させ有効に機能させるためにも、情報管理の責任者を明確にすべきです。そしてその責任者を中心にさまざまな情報管理態勢の中で上司の役割を明確にしたり、刻々と変わるSNSの情報やトラブル事例をアップデートしたりしながら対応するべきと思います。

3.最後に

企業の労務管理を見渡すと、情報管理のルールがない企業が相当数あるのが現状です。例えば、個人所有のUSBメモリを用いて会社のパソコンから勝手に情報を持ち出すことができたり、個人のタブレット端末や携帯電話を業務に利用させたり、情報が漏えいしやすい環境であることが少なくありません。
企業経営においてはSNS対策のみに留めるのではなく、情報管理全般のルールを整備して教育を行っていくことがさまざまなリスクを回避することにつながります。情報を守り高い倫理感の中で仕事をする企業風土にするためには、取り扱うすべての情報に対して高い感度を持ってもらうようなルール設定や教育を、情報管理についての責任者が中心となって全社で取り組むことが必要であると考えます。

【株式会社名南経営コンサルティング】

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。