第23回平成29年度税制改正における自社株評価のポイント

※この文章は、税理士法人名南経営によるものです。

※この文章は、平成29年7月3日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問税理士などの専門家とご相談ください。

1.事業承継と自社株評価

中小企業経営者の高齢化が進み、多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えようとしています。中小企業に蓄積されたノウハウや技術などを後継者が受け継ぎ、世代交代によってさらなる活性化を実現していくためには、円滑な事業承継は極めて重要な課題です。
事業承継では株式や事業用資産を相続または贈与により後継者が取得します。特に同族経営で非上場のオーナー会社の株式が「いくら」であるかは、相続税や贈与税に影響しますので事業承継において重要です。

平成29年度の税制改正では、円滑な事業承継を促進するため次の主な見直しが行われました。ひとつは、取引相場のない株式(以下、自社株)の評価方式に関する見直しであり、もうひとつは事業承継税制(非上場株式等についての相続税および贈与税の納税猶予制度)の見直しです。なお、本改正は平成29年1月1日以後の相続などによって取得した財産の評価に適用されます。
本コラムでは、自社株の評価方式に関する見直しに絞って解説します。今回の改正では、会社規模の判定基準の見直しと、類似業種比準価額方式の計算式の見直しによって、改正前の評価方法による自社株評価とは思ったよりも変わる可能性があります。ぜひこれを機会にご確認いただき、事業承継の検討の第一歩としてください。
また、例年通り、平成29年6月19日に、国税庁から自社株評価を行うにあたって重要な「類似業種比準価額」(以下、平成29年「類似業種比準価額」)※1が公表されましたのでその内容を一部抜粋してご紹介します。

  • ※1:平成29年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について
    https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/hyoka/170613/index.htm

2.自社株評価の方法

自社株評価は、国税庁の「財産評価基本通達」の「取引相場のない株式等の評価」に基づき、同族株主は「原則的評価方式」で評価し、同族株主以外は「特例的評価方式(配当還元方式)」で評価します。オーナー会社で重要なのは原則的評価方式のため、以下では原則的評価方式について説明します。

原則的評価方式は、図表1の通り、会社の規模(従業員数、総資産価額、取引金額)に応じて、大会社、中会社、小会社の3つに区分し、「類似業種比準価額方式」、「純資産価額方式」またはこれらの「併用方式」を用いて計算します。
これは、大会社については、上場企業に準じた大規模な会社であることを考慮して、上場会社のうち類似する業種の株価を参考にした「類似業種比準価額方式」に、小会社については、個人事業者に準ずると考えられることから「純資産価額方式」に、中会社については、大会社と小会社の中間に位置づけられることから、これらを併用した「併用方式」により、それぞれ原則として評価することとされています。なお、納税義務者の選択により図表1に示す特例の方式で評価することも可能です。

<図表1>会社の規模と評価方法

大会社 原則:類似業種比準価額方式
特例:純資産価額方式
中会社 原則:併用方式(類似業種比準価額×L+純資産価額×(1-L))
※Lの値:中会社の大=90%、中会社の中=75%、中会社の小=60%
特例:純資産価額方式
小会社 原則:純資産価額方式
特例:併用方式(類似業種比準価額×50%+純資産価額×50%)

3.自社株の評価方式の見直しについて

平成29年度税制改正では、「会社規模の判定基準」と「類似業種比準価額方式の計算方法」が改正されました。以下にその概要を記載します。なお、「純資産価額方式」については改正されていませんが参考までに概要を記載します。

会社規模の判定基準の改正

近年の上場会社の実態に合わせて会社規模の判定基準の改正が行われ、次の図表2の通り、「大会社」および「中会社」の適用範囲が拡大されました。改正前は図表3の通りです。

<図表2>会社規模の判定基準 平成29年改正(ピンク色部分が改正された箇所)

①総資産価額(帳簿価額) ②従業員数 ③年間の取引金額 会社規模
の区分
卸売業 小売・
サービス業
左記業種
以外
卸売業 小売・
サービス業
左記業種
以外
70人
以上
大会社
20億円
以上
15億円
以上
15億円
以上
35人超
70人未満
30億円
以上
20億円
以上
15億円
以上
4億円以上
20億円未満
5億円以上
15億円未満
5億円以上
15億円未満
35人超
70人未満
7億円以上
30億円未満
5億円以上
20億円未満
4億円以上
15億円未満
中会社の
2億円以上
4億円未満
2.5億円以上
5億円未満
2.5億円以上
5億円未満
20人超
35人以下
3.5億円以上
7億円未満
2.5億円以上
5億円未満
2億円以上
4億円未満
中会社の
7千万円以上
2億円未満
4千万円以上
2.5億円未満
5千万円以上
2.5億円未満
5人超
20人以下
2億円以上
3.5億円未満
6千万円以上
2.5億円未満
8千万円以上
2億円未満
中会社の
7千万円
未満
4千万円
未満
5千万円
未満
5人
以下
2億円
未満
6千万円
未満
8千万円
未満
小会社

<図表3>会社規模の判定基準 改正前

① 総資産価額(帳簿価額) ② 従業員数 ③ 年間の取引金額 会社規模
の区分
卸売業 小売・
サービス業
左記業種
以外
卸売業 小売・
サービス業
左記業種
以外
100人
以上
大会社
20億円
以上
10億円
以上
10億円
以上
50人超
100人未満
80億円
以上
20億円
以上
20億円
以上
14億円以上
20億円未満
7億円以上
10億円未満
7億円以上
10億円未満
50人超
100人未満
50億円以上
80億円未満
12億円以上
20億円未満
14億円以上
20億円未満
中会社の
7億円以上
14億円未満
4億円以上
7億円未満
4億円以上
7億円未満
30人超
50人以下
25億円以上
50億円未満
6億円以上
12億円未満
7億円以上
14億円未満
中会社の
7千万円以上
7億円未満
4千万円以上
4億円未満
5千万円以上
4億円未満
5人超
30人以下
2億円以上
25億円未満
6千万円以上
6億円未満
8千万円以上
7億円未満
中会社の
7千万円
未満
4千万円
未満
5千万円
未満
5人
以下
2億円
未満
6千万円
未満
8千万円
未満
小会社
  • [出典]国税庁「「財産評価基本通達の一部改正について」通達等のあらましについて(情報)」を基に作成
    https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hyoka/170515/pdf/04.pdf

会社規模の判定は、「①総資産価額(帳簿価額)」と「②従業員数」とのいずれか下位の会社規模の区分を採用し、その採用した区分と「③年間の取引金額」のいずれか上位の会社規模の区分により決定します。
特に、改正前は従業員数が「100人以上」であれば無条件で大会社でしたが、改正後は「70人以上」に変更されました。これにより、「大会社」になる会社が増えると考えられます。また、上記の見直しにより中会社から「大会社」、小会社から「中会社」になると、「類似業種比準価額方式」の比重が大きくなります。一般的には類似業種比準価額は純資産価額より低い傾向にあることから、株価が低くなる可能性があります。

類似業種比準価額方式の計算方法の改正

類似業種比準価額方式は、上場会社の類似する業種の株価を参考に配当金額、利益金額、純資産価額の3つの要素を比準させて評価する方法です。改正前後の計算方法と改正内容は図表4の通りです。本改正により、上場会社のグローバル連結経営の進展や株価の急激な変動が、中小企業の円滑な事業承継を阻害することなく、中小企業の実力を適切に反映した自社株評価になることが期待されます。

<図表4>類似業種比準価額方式の計算方法と改正内容

類似業種比準価額方式の計算方法と改正内容

[平成29年改正内容]
① 類似業種の上場会社の株価について、「課税時期の属する月以前2年間平均」を追加し、5つの内から選択
② 類似業種の上場会社の配当金額、利益金額、簿価純資産価額について、上場会社の連結決算を反映
③ 配当金額、利益金額、簿価純資産価額の比重を「1:3:1」から「1:1:1」に

■ 類似業種の株価

類似業種の株価については、改正前は、「課税時期の属する当月」、「その前月」、「その前々月」と「前年平均」の各株価の4つのうち最も低い株価を利用していましたが、5つ目として「課税時期の属する月以前2年間の平均株価」も追加されました。このことにより、株価選択の幅が増え、上場会社の株価の急激な変動があったとしても、自社株の評価の急上昇が緩和されることが期待されます。図表5は、平成29年「類似業種比準価額」を利用した株価選択の事例です。

<図表5> 類似業種の株価の比較(課税時期当月:平成29年1月の場合)(単位:円)

業種目 類似業種の株価(黄色部分は最も低い株価)
当月 前月 前々月 前年平均 2年間平均
平成29年
1月
平成28年
12月
平成28年
11月
平成28年
平均
平成29年1月以前
2年間の平均
自動車・
同附属品製造業
317 314 286 265 290
機械器具小売業 297 287 272 279 280
不動産賃貸業・
管理業
359 350 345 346 340

また、図表6には平成29年「類似業種比準価額」から、業種目(大分類)別での平成27年と平成28年の平均株価を掲載しました。平成28年の平均株価は16業種中10業種が前年より下がりました。

<図表6> 平成27年と平成28年の平均株価の比較(単位:円)

業種目(大分類) ①平成27年
平均株価
②平成28年
平均株価
変動率
②÷①
建設業 215 213 99%
製造業 269 253 94%
電気・ガス・熱供給・水道業 403 200 50%
情報通信業 476 418 88%
運輸業、郵便業 251 267 106%
卸売業 224 197 88%
小売業 369 302 82%
金融業、保険業 197 180 91%
不動産業、物品賃貸業 300 301 100%
専門・技術サービス業 441 359 81%
宿泊業、飲食サービス業 323 346 107%
生活関連サービス業、娯楽業 443 404 91%
教育、学習支援業 240 346 144%
医療、福祉 277 289 104%
サービス業(他に分類されないもの) 449 452 101%
その他の産業 298 276 93%

■配当金額、利益金額と純資産価額

改正前は、配当:利益:純資産の比重は「1:3:1」でしたが、最近の上場会社のデータに基づく検証の結果、「1:1:1」がより実態に即した比重であることが明らかとなったため、平成29年以後は「1:1:1」に見直されました。さらに、配当金額、利益金額、純資産価額は上場企業の連結決算(財務諸表の数値)を反映させたものとなりました。
この改正により、全体のうち「5分の3」の割合であった利益金額が「3分の1」と割合が小さくなり、「5分の1」の割合であった純資産価額が「3分の1」と割合が大きくなります。改正前は利益金額の比重が大きかったため、一時的に多額の損失が計上される場合には利益金額が小さくなることで株価が引き下がることがありましたが、改正後はその影響が小さくなります。また、過去の利益が蓄積されて純資産価額が多額となっている会社は、改正により株価が高くなる可能性があります。

純資産価額方式

純資産価額方式は、自社の財産の状況を反映した評価方法です。そのため、一般的には毎年大きく変動することが少ないといえます。ただし、3年以内に取得した土地などについては、通常、取引価額で評価することとなりますが、3年を超えると路線価方式や倍率方式による評価となり、取引価額に比べて評価額が低くなる傾向にあります。そのため、平成29年7月3日に国税庁より公表された平成29年分の路線価図※2などを参考に、土地などの評価を行い、純資産価額がどのような金額となるかも確認するとよいでしょう。なお、純資産価額方式についての改正はありません。

<図表7> 純資産価額方式の計算方法

純資産価額方式の計算方法
  • ※2:路線価図・評価倍率表「平成29年分財産評価基準を見る」国税庁
    http://www.rosenka.nta.go.jp/

4.自社株評価を行うことで事業承継のスタートラインに!

自社株評価における平成29年度税制改正の影響を確認してきました。非上場会社にとっては、自社株評価を行うことによって、ようやく事業承継のスタートラインに立つことができるといえます。
例えば、事業承継を行っている最中であれば、自社株を誰にどのようにいくら移していくのか、そもそも自社株対策は必要なのかなど、自社株が「いくら」なのかがわかることで、具体的な一手を打つことができます。一方、自社株がいくらなのかが曖昧な状態で事業承継などを行った結果、贈与税や相続税などについて思いもしなかった多額の納税が発生する場合もあります。
そのため、自社株評価はもちろん、自社株の相続や贈与、譲渡の際には、今回の平成29年度税制改正の影響も踏まえた上で、税理士などの専門家と連携しながら実施することが重要といえます。

【税理士法人名南経営】

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。