第24回働き方改革の実現と実行計画
-(第1回目)時間外労働の上限規制と企業の対応について-
※この文章は、株式会社名南経営コンサルティングによるものです。
※この文章は、2017年7月31日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。
2016年9月から安倍内閣総理大臣を議長として、全10回にわたり開催されてきた働き方改革実現会議の検討結果が、2017年3月28日に「働き方改革実行計画(以下、本計画という)」※1としてまとめられ公表されました。本計画においては、時間外労働の上限規制を含む過重労働対策をはじめ、日本の働き方に関する各種課題に対する政府の対応策が示されています。
そこで本コラムでは、本計画において企業への影響が大きい点とその対応方法について2回に分けて解説します。第1回目は、時間外労働の上限規制と企業の対応について解説し、第2回目は、本計画において提唱された柔軟な働き方の実現と企業の対応などについて解説します。
- ※1:首相官邸「働き方改革の実現」
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/hatarakikata.html
第1回目 時間外労働の上限規制と企業の対応について
今回の働き方改革の中で、最も注目されるポイントの一つとして挙げられるのが、時間外労働の上限規制が法制化される見込みであることです。
1.現行の労働時間に関するルール
現行の労働時間法制においては、労働基準法36条に基づき、時間外労働・休日労働などに関する協定書を労使で合意の上締結し、所轄の労働基準監督署に届け出れば、時間外労働は可能になります(いわゆる36協定)。また、下記の通り、事実上、時間外労働についての絶対的な上限規制はありません。
<現行の労働時間に関するルール>
- (1)所定労働時間は1日8時間、週40時間以内。
- (2)所定労働時間を超えて労働させる場合には、36協定を締結することにより、時間外労働をさせることが可能となる。時間外労働の原則的な上限時間については、限度基準告示において、月45時間、年360時間までであるべきことが示されている(一部の業種を除く)。
- (3)36協定に特別条項を付記することにより、例外的に、年に半分の期間まで、限度基準告示の上限時間数を超えた時間外労働が可能となる。その際の上限時間の設定はない。
2.2019年4月から導入が見込まれる時間外労働の上限規制
過重労働による過労死や過労自殺が社会問題となっている現状を鑑み、企業が無制約に長時間労働をさせることを防止するため、本計画において、時間外労働の上限規制を導入すべきことが示されました。今後は、本計画の意向を受けた労働基準法の改正法案が今秋の臨時国会に提出され、2019年4月の施行を予定する法改正において、次のようなルールが導入される見込みです。
<新たな時間外労働の上限規制(一部業種を除く)>
- (1)週40時間を超えて労働可能となる時間外労働の限度を、原則として、月45時間、かつ、年360時間とする。
- (2)特例として、臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、上回ることができない時間外労働時間を年720時間とする。
- (3)かつ、年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限として
- ①2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで、80時間以内
- ②単月では、休日労働を含んで100時間未満
- ③原則を上回る特例の適用は、年6回を上限(※従来より継続)
まず、上記(1)においては、これまで限度基準告示に定められていた原則的な時間外労働の上限時間が法令の条文に格上げされることとなりました。これにより、今後は36協定において当該時間数を超える時間での協定を締結することができなくなり、法違反の問題として問うことができるようになります。
次に(2)では、これまでは上限の定めがなかった年間の時間外労働の総枠について、絶対的な上限が設定されました。
そして(3)では、過労死の労災認定基準を基にした複数月での上限、単月での上限が新たに設定されています。これにより、現行のルールでは上限時間の設定がなかった月および年の上限値が設定され、いくらでも時間外労働をさせられるという状況はなくなることになります。
この時間外労働の上限規制は、罰則付きで法制化される見込みであり、従来よりも強い強制力を持ったルールになります。現在、上述の上限時間を上回る長時間労働が慢性化している職場であれば、法改正への対応は必須の課題であり、最低でも上述の水準以下に時間外労働を減らす対策を講じることが必要となります。
3.努力義務化される勤務間インターバル制度
もう一つの過重労働対策として注目されるのが、勤務間インターバル制度導入の努力義務化です。勤務間インターバル制度とは、前日の終業時刻から翌日の始業時刻までの間に、一定の間隔を空けることを行う制度です。過重労働により健康被害が生じる要因の一つは、睡眠時間が確保できないという点にあります。そのため、就業と就業の間隔を必ず一定の時間数空けることをルール化し、睡眠時間が必ず確保できるようにすることで、健康被害の発生防止効果を期待するものです。海外の先行事例として、EU(欧州連合)の労働時間指令においては、24時間につき最低連続11時間の休息付与が義務づけられており、日本もそれと同程度の時間数のインターバルを設ける制度の導入を努力義務化することが見込まれています。
- 出典:厚生労働省ホームページ「勤務間インターバル」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/interval/interval.html
なお、すでに創設されている、勤務間インターバルを導入する企業に対する助成金「職場意識改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」※2においては、休息時間数が「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」という2枠を設けて支給されています。
- ※2:厚生労働省ホームページ「職場意識改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000150891.html
4.企業の対応について
企業の対応としては、まず、これまで以上に労働時間管理の重要性が増してくるため、その体制づくりをしなければなりません。2019年4月に導入が見込まれる時間外労働の上限規制にはいくつもの上限ルールがあるため、労働時間管理は従来よりも複雑になり、既存の勤怠システムの改修や見直しが必要になってくるでしょう。遅くとも改正法の施行日までに準備を行い、管理体制を整えておくことは必須です。あわせて、職場の管理者や従業員に労働時間管理の意識を持ってもらわなければならないでしょう。新たなルールの周知はもとより、例えば、上限時間や目標値に近づいた場合にはアラートが出るような仕組みを導入したり、月初めに労働時間の計画を立てて働き、半月が経過したところで見直しを行ったり、といった取り組みも有効でしょう。
労働時間管理の体制を整えるとともに、長時間労働が恒常的な職場では、当然ながら時間外労働削減の取り組みが必要です。最低でも新ルールを遵守できるレベルまで時間外労働を削減しなければなりません。時間外労働の削減方法は百社百様ですが、自社の時間外労働発生のメカニズムを把握し、その発生原因を一つ一つ解消していくことが正攻法です。もちろん、時間外労働の削減ばかりを意識するあまり、それによって業績悪化となってはいけませんから、生産性を上げていくことを同時に実現しうる取り組みの実施が必要です。
【株式会社名南経営コンサルティング】
名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。