第29回経営者が知っておくべき平成29年分の確定申告
※この文章は、税理士法人名南経営によるものです。
※この文章は、平成29年11月10日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問税理士などの専門家とご相談ください。
平成29年も残りわずか、会社では給与計算の担当者が年末調整に向けて忙しい時期になりました。会社の経営者は通常、役員報酬を受け取る給与所得者のため、年末調整で税金の精算が行われますが、一定の要件に当てはまる場合には確定申告が必要となります。
そこで、近年の税制改正などを踏まえて確定申告の留意点についてご説明します。顧問税理士に確定申告書の作成を依頼している場合であっても、ご自身の申告漏れや所得控除の適用漏れなどを防ぐために、ぜひご確認ください。
1.確定申告が必要な場合
個人事業を行っていて事業所得がある場合やマンション経営などの不動産所得がある場合には確定申告が必要ですが、給与所得者についても次のいずれかに当てはまる場合には、原則として確定申告を行う義務があります。
- ① 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
- ② 1カ所から給与の支払を受けている人で、給与所得および退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える人
- ③ 2カ所以上から給与の支払を受けている人で、主たる給与以外の給与の収入金額と給与所得および退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える一定の人
- ④ 同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている人
給与のみの場合には年末調整で税金を精算するのが原則ですが、①のように役員報酬が年間2,000万円を超える場合には、他の所得がある可能性が高いなどの理由から、年末調整の対象外として確定申告を義務付けています。
また、②のように給与所得や退職所得外の所得がある場合や、③のように2カ所以上から給与をもらっている場合には、年末調整で税金の精算をするのが困難であることから、年末調整の対象外として確定申告を義務付けています。
④の場合には、同族会社との取引で生じた所得が「20万円以下」であっても確定申告が必要となります。例えば、同族会社から地代を年間10万円もらっているような場合です。
2.平成29年分確定申告の留意事項
平成29年分確定申告において留意すべき事項を次に記載します。
【1】医療費控除
平成29年分から医療費控除について次の2つの点が改正されました。
- ① 医療費控除は領収書の提出の代わりに「医療費控除の明細書」が必要に
- ② セルフメディケーション税制の創設
① 医療費控除は領収書の提出の代わりに「医療費控除の明細書」が必要に
まず、従来は「医療費の領収書」を税務署に提出するのが原則でしたが、平成29年分の確定申告からは、「医療費控除の明細書」(図表1)を作成・提出し、医療費の領収書は自宅で5年間保存することになりました。
<図表1> 医療費控除の明細書(抜粋)
- (出典)国税庁「医療費控除の明細書」
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/yoshiki02/pdf/ref1.pdf
医療費の領収書については税務署への提出は不要となりましたが、後日、税務署から求められたときは提示または提出しなければなりません。また、医療保険者から交付を受けた医療通知書(健康保険組合が発行する「医療費のお知らせ」など)を添付した場合には、明細の記入を省略できます。
なお、経過措置として、平成29年分から3年間は従来どおり医療費の領収書の添付または提示での申告が認められています。
② セルフメディケーション税制の創設
医療費控除の特例として、平成29年分の確定申告から従来の医療費控除に代えて、「セルフメディケーション税制」を選択することが可能となりました。
適切な健康管理の下で医療用医薬品からの代替を進める観点から、特定健康診査(いわゆるメタボ健診)、予防接種、定期健康診断(事業主健診)、健康診査、がん検診のいずれかを受けている人が対象者となります。
ドラッグストアなどでは「セルフメディケーション税制対象商品」が販売されていますが、その年間購入額のうち12,000円を超えた部分の金額(上限金額:88,000円)について所得控除を受けることができます。
医療費控除が年間の医療費のうち原則10万円を超える部分が対象だったのに対して、セルフメディケーション税制は12,000円を超える部分が対象であり、ハードルは低くなっていますが、医療費控除とセルフメディケーション税制は同時に利用できないため、有利な方を選択することになります。
【2】ふるさと納税
ふるさと納税は、平成27年度から導入された「ふるさと納税ワンストップ特例制度」によってさらに利用しやすくなり、図表2のとおり平成28年のふるさと納税額、控除額、適用者数はいずれも大幅に増加しました。
<図表2> ふるさと納税にかかる控除額の推移
ふるさと納税期間 | ふるさと納税額 | 控除額 | 適用者数 |
---|---|---|---|
平成26年1月1日~12月31日 | 341億円 | 184億円 | 435千人 |
平成27年1月1日~12月31日 | 1,471億円 | 1,001億円 | 1,298千人 |
平成28年1月1日~12月31日 | 2,540億円 | 1,766億円 | 2,252千人 |
- (出典)総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(税額控除の実績等)(平成29年7月28日)」の「ふるさと納税に係る控除額の推移(全国計)」を基に作成。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/file/report20170728.pdf
確定申告の義務がない方は、「ふるさと納税ワンストップ特例制度」によって1年間で5自治体までであれば、確定申告を行わなくても、ふるさと納税の寄付金控除を受けられます。
一方、確定申告の義務がある方は、ふるさと納税についても確定申告をする必要があります。これは、ワンストップ特例制度が確定申告をすると自動的に無効になるためです。確定申告の際には、「寄附金受領証明書」などが必要となるため、確定申告時期まで紛失しないよう保管しておきましょう。
なお、ふるさと納税によって受け取った自治体からの特産品などの返礼品は、「一時所得」として課税の対象となり、年間50万円を超える場合に、その超えた額について課税対象となります。
【3】仮想通貨の取引
ビットコインなどの高騰でたびたびニュースになる仮想通貨ですが、今年9月に国税庁のホームページで、ビットコインを使用することにより生じる損益については原則「雑所得」に区分されることが示されました。
No.1524 ビットコインを使用することにより利益が生じた場合の課税関係
ビットコインは、物品の購入等に使用できるものですが、このビットコインを使用することで生じた利益は、所得税の課税対象となります。
このビットコインを使用することにより生じる損益(邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益)は、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として、雑所得に区分されます。
- (出典)国税庁タックスアンサー
「No.1524 ビットコインを使用することにより利益が生じた場合の課税関係」下線は著者
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1524.htm
ビットコインの使用で生じた損益は「総合課税の雑所得」に区分されますので、給与所得はもちろん、申告分離課税となる株式等やFX(外国為替証拠金取引)との損益通算はできません。
平成29年中に仮想通貨による取引で利益が発生している場合には、確定申告を担当する顧問税理士に必ずご相談ください。
【4】財産債務調書の提出
確定申告の義務がある方で、その年分の退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日において、合計額が3億円以上の財産または合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産(有価証券など)を有する方は、その財産の種類、数量や価額、債務の金額その他必要な事項を記載した「財産債務調書」を提出しなければなりません。
中小企業の経営者で非上場企業の自社株式を保有している場合には、提出対象者に該当する場合もあるので、毎年確認しましょう。
3.その他
平成29年分の確定申告ではありませんが、平成29年度税制改正により、平成30年分から配偶者控除と配偶者特別控除が大幅に改正されました。
これにより、配偶者控除等が適用される納税者本人の収入制限が設けられ、給与収入1,120万円(合計所得金額900万円)を超える場合には、控除額が従来よりも減ったり、そもそも使えなくなったりする制度となります。
<図表3> 配偶者控除と配偶者特別控除の改正
※老人配偶者控除については、納税者本人の給与収入(合計所得金額)に応じて次のとおりです。
- ①~1,120万円(~900万円)の場合 控除額48万円
- ②1,120~1,170万円(900~950万円)の場合 控除額32万円
- ③1,170万円~1,220万円(950~1,000万円)の場合 控除額16万円
- ④1,220万円超(1,000万円超)の場合 適用なし
- (出典)財務省「平成29年度税制改正」(平成29年4月発行)
http://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei17/01.htm
平成30年度税制改正以降でも高所得者に対する所得税の課税強化が見込まれているため、今後の税制改正の動向にもご注目ください。
【税理士法人名南経営】
名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。