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経営者のためのコンサルティング > 経営に役立つヒント 第38回

経営者のためのビジネス講座

2018.9.11 第38回介護離職を防ぐ!-企業における対策のポイント-

この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は2018年7月31日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」※1において、従来の経済政策「アベノミクスの三本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)」の次のステージとして、少子高齢化という日本の構造的問題に取り組む「新たな三本の矢(希望を生み出す強い経済、夢をつむぐ子育て支援、安心につながる社会保障)」が提唱されました。その一つ「安心につながる社会保障」の具体的目標に、「介護離職ゼロ」が掲げられています。
2017年の「就業構造基本調査」※2によれば、2016年10月から2017年9月の1年間に「介護・看護のため」に前職を離職した者は9万9千人で、女性が約8割を占めています。2012年調査の10万1千人からほとんど変わっておらず、相変わらず年間約10万人が介護離職している状況です。
団塊の世代が70歳を超えていく2020年代が目前となった今、政府は、介護をしながら仕事を続けられるようにすることが、労働参加の拡大、引いては潜在成長率の底上げにつながり、新たな第一の矢「希望を生み出す強い経済」を成立させるとしています。

介護にはさまざまな問題が発生しますが、企業の理解や支援があれば、離職せずに仕事を続けることができるケースは少なくありません。そこで今回は、介護離職を予防するための企業における対策について解説します。

  1. ※1:首相官邸ホームページ「ニッポン一億総活躍プラン」
    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/pdf/plan1.pdf
  2. ※2:総務省統計局「平成29年就業構造基本調査 結果の概要」P6
    http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kgaiyou.pdf

1.介護離職の社会的背景

2017年の「就業構造基本調査」によりますと、2017年10月1日現在で、介護をしながら働いている雇用者は299万9千人となっています。内訳は、女性が173万2千人、男性は126万7千人、年齢階級別にみると40歳代から増加して「55歳から59歳」が男女ともに最も多くなっています(図表1)。
かつて日本の家庭においては、介護の役割は主に専業主婦の女性が担う場合が多く見られました。しかし、兄弟姉妹の減少や未婚率の上昇による1人当たりの負担の増大や、共働き世帯の増加により、男女を問わず、働きながら介護に携わらざるを得ない状況になってきていることが伺えます。
全人口の約28%が65歳以上※3という超高齢社会である日本において、介護は誰もがいずれは直面する問題です。しかし、その社会的サポート体制は十分とは言い難く、介護に直面した従業員が、仕事と介護の両立が困難となり、やむなく離職せざるを得ない介護離職が大きな問題となっています。

<図表1> 年齢階級別 介護をしている雇用者

<図表1> 年齢階級別 介護をしている雇用者

  • (出典)総務省統計局「平成29年就業構造基本調査 結果の概要」P5(表Ⅰ-6 男女,就業状態,従業上の地位,年齢階級別介護をしている者及び割合-平成29 年)の一部をグラフに加工
  1. ※3:総務省統計局「人口推計-平成30年7月報-」
    http://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/201807.pdf

2.介護離職が発生する理由

介護の大きな特徴は「突然始まる」場合が多いことです。そしてこの「突然始まる」介護の初動として、要介護認定の手続きや適切な介護サービスの選定を行うことが、その後の介護を進めていく上で最も重要です。この初動時点で、介護保険や介護サービスの概要、職場の相談窓口や仕事と介護の両立支援制度など、介護に関する予備知識が十分でないと、不安に駆られ、介護のためにとりあえず仕事を辞めるという決断を下してしまう恐れがあります。

育児・介護休業法※4では仕事と介護の両立支援制度として、介護休業や介護休暇、所定外労働の制限(残業の免除)などが制定されています。この内、介護休業は、対象家族一人につき通算93日を3回に分けて取得できます。例えば、1回目は、要介護認定の手続きや介護サービスの選定のために利用し、2回目以降は容態変化や看取りのために利用するといった使い方をすることもできます。また、介護休業中は原則として無給ですが、雇用保険の被保険者であれば、介護休業給付金の支給を受けることができる場合があります。
ところが、「平成29年度雇用均等基本調査(確報)」によりますと、2016年度に介護休業を取得した者がいた事業所の割合は2.0%(2015年度は1.3%)でした。育児休業者がいた事業所の割合が女性の場合で88.5%(2015年度は85.9%)、男性の場合で7.5%(2015年度は5.4%)と比較しても極端に低いことがわかります※5。このことから、介護休業の存在や内容を知らなかったため有効活用されず、結果として介護離職につながっていると考えられます。

また、介護はプライベートだからという心理や、人事評価や昇進に影響があるのではないかという不安から、上司や同僚に相談せず、その結果介護離職に追い込まれてしまうというケースも多くあります。さらに、介護をする世代というのは、管理職で多くの部下を抱えていたり、責任のある仕事を任されていたりすることが多く、自分から休むということを言い出しづらい環境にあることも少なくありません。
特に介護が始まったばかりの時期は、行政手続きやケアスタッフとの打合せなどで頻繁に休暇を取得せざるを得ず、また、勤務時間中に介護関連の私用電話がかかってくることも多くなりがちです。必要な相談もせずに介護をすることは本人も辛く、詳しい状況を知らない上司や同僚に不信感を与えることになりかねません。
介護は誰もが直面する可能性があり、自分だけの問題ではないという認識が職場で共有されておらず、介護をしていることの報告や相談をしづらい職場環境が、介護離職を引き起こしていきます。

介護離職の理由には、「仕事と介護の両立が難しい職場だった」、「自身の心身の健康状態が悪化した」というのもあるでしょう。しかし、以上のように介護に関する制度などの知識不足、十分とは言えない支援体制と周知不足などの理由により、例えば、親の介護は他人に任せられないという価値観や親孝行のつもりで、実際はどうすべきかよくわからないまま、突然の事態に短絡的に離職を選択してしまうこともあるのです。

  1. ※4:厚生労働省「育児・介護休業法について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
  2. ※5:厚生労働省「平成29年度雇用均等基本調査(確報)」
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-29r.html

3.介護離職させないための企業における対策のポイント

no1介護が始まる「前」の情報提供と継続した周知活動の重要性

いくら社内に仕事と介護の両立支援制度があったとしても、従業員がそれを知らない、あるいはわかりづらいのであれば、その制度は利用されず、結局は介護離職を防ぐことはできません。介護はあらかじめ始まる時期を予測することが難しいため、従業員が介護に直面する「前」から積極的に情報提供を行うことが重要です。
情報提供のタイミングは、職場の規模や年齢層にもよりますが、自身の給与から介護保険料の徴収が始まる「40歳」が一つの目安となるでしょう。40歳代は、実際に介護に直面する状況が増加し、介護を自分のこととして捉える必要がある時期です。まずは「介護に直面しても仕事は続けることができる」という意識を持つことが、介護離職を防ぐ第一歩となります。
また、介護に関する知識や社内制度が実際に活用されるように、周知活動を継続することも重要です。厚生労働省の仕事と介護の両立支援における調査※6では、自社の仕事と介護の両立支援制度について54.8%が「制度があるかどうか知らない」、32.4%が「制度があることは知っているが内容はわからない」と回答しています。周知方法は、イントラネットへの掲示やハンドブックの作成、集合研修の実施など、さまざまな方法を採ることが望ましいでしょう。
継続した周知活動は、いざ介護が始まったときに上司や相談窓口へ報告するきっかけづくりとなるとともに、すべての従業員に対して「仕事と介護の両立を支援する」という企業のメッセージを送り続けることになります。

  1. ※6:厚生労働省 平成27年度仕事と介護の両立支援事業
    「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル」P22
    http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000119918.pdf

no2管理職の役割の重要性

介護は、要介護者を取り巻く親族の数やその関係性、介護をする人の家族観や人生観などによってさまざまな方法があり、介護の数だけ支援の仕方があります。企業としては、介護に直面した従業員の仕事と介護の両立支援を考えるためにも、その従業員が求めている支援を聞き出さなくてはなりません。ここで重要な役割を果たすのが、身近で日常的にコミュニケーションをとっている管理職です。
介護が始まったばかりのころは「何に困っているかわからない状態」であることが多く、なかなか相談できないまま精神的に追い詰められ離職に追い込まれるケースもあります。日頃から相談しやすい環境を作り、まずは介護が始まった事実だけでも報告してもらい、それから一緒に考えたり話を聞くことができることを伝えるようにしましょう。
また、管理職にとって、同じ職場で働く同僚への配慮も重要な役割です。特に介護が始まったばかりのころは頻繁に休暇を取得することが多く、一時的に業務の引き継ぎや支援が必要になることがあります。周囲への理解を求めるとともに、仕事の見える化や業務の見直しを行うことで、特定の人に業務が偏らないよう継続した配慮や工夫をするなど、誰がいつ介護に直面しても「お互いさま」と考えられるような職場環境を整備することが求められます。

no3企業全体で取り組む働き方改革と意識改革の重要性

介護に直面した従業員には、休暇を取得せざるを得ない状況や、残業ができなくなる状況がしばしば発生します。職場として長時間労働が常態化し、休暇が取得しづらい環境では、両立支援制度があったとしても利用することが躊躇され、仕事と介護を両立させることは困難でしょう。柔軟な労働時間制度や休暇制度などの働き方改革は、すべての従業員を対象として取り組むべき課題です。
この働き方改革と併せて重要なものが、管理職をはじめとした企業全体の意識改革です。管理職自身に介護の知識や経験がなく、両立支援制度を知らなければ、相談対応や支援を考えることは困難であり、管理職自身にその気が無くても、結果として、介護休業や社内制度などを利用させないといった、いじめや嫌がらせの「ケアハラスメント」につながる恐れがあります。無知や無理解から介護離職が発生することがないよう社内教育や周知を徹底するなど、企業全体としての取り組みが求められます。

介護に直面する世代は、長年の経験を積んできたベテランや管理職であることが多く、企業にとってこのような中核人材を介護離職によって失うことは大きな損失です。一方、介護に直面した従業員にとっても、いったん離職してしまうと再就職することは困難であることが多く、経済的な困窮に陥ったり、一人で介護を抱え込んで「介護うつ」になったりする危険性があります。
介護は誰にでも直面する可能性がある、決して他人事ではない身近な出来事です。介護離職を予防するための対策を、それぞれの企業全体の問題として考え、積極的に実践していくことが、介護をしながら安心して働き続けられる社会へとつながるでしょう。

【社会保険労務士法人 名南経営】

名南コンサルティングネットワークグループの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。

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