第43回施行直前!働き方改革関連法2019年4月施行分の必須対応

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、2019年2月15日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

2018年6月29日、ついに働き方改革関連法が参院本会議の可決によって成立し、2019年4月以降、順次施行されることになりました。今回の法改正は、労働基準法が制定されてから約70年ぶりの大改革で、改正事項も多岐にわたります。特に、2019年4月1日に施行される次の二つの改正事項は、多くの企業にとって影響が大きいと考えられます。
一つは、時間外労働について罰則付きの上限を設ける「時間外労働の上限規制」の導入、もう一つは、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、そのうちの5日の取得を必須とする「年次有給休暇の年5日の取得義務化」です。
そのほかにも「労働時間の把握義務化」「産業医・産業保健機能の強化」「勤務間インターバル制度の努力義務化」「高度プロフェッショナル制度の創設」「フレックスタイム制の拡充」といった改正事項が同時に施行されます。
本コラムでは、施行が直前に迫った、これら2019年4月1日施行分の主要点について解説します。

1.時間外労働の上限規制

働き方改革関連法の中で最もインパクトが大きいのが、長時間労働に歯止めをかけるための「時間外労働の上限規制」です。この上限規制は罰則付きで強制力をもった適用がなされるため、長時間労働が恒常化している企業は、人員体制や業務の大幅な見直しなどの対応を迫られることになるでしょう。

時間外労働に関する規制の現状

現行の労働基準法は、労働時間について原則1日8時間・週40時間までという法定労働時間を定めています。しかし、時間外・休日労働に関する協定(以下36協定という)を労使間で締結し、労働基準監督署へ届出することで、法定労働時間を超えて時間外労働や休日労働をさせることが可能になっています。その場合に延長できる時間については法律での上限規制がなく、青天井で働かせることができるため、過重労働の原因となっているのではないかという批判がされてきました。

「時間外労働の上限規制」により導入される五つの新ルール

そこで今回、時間外労働の上限が法制化され、五つの新しいルールが導入されます。
まず一つ目として、時間外労働は、原則として、月45時間・年360時間(1年単位の変形労働時間制の場合は月42時間・年320時間)までしかできなくなります。
二つ目のルールとして、臨時的・特別な事情がある場合は、「特別条項付き協定」を労使間で締結することで、年6カ月まで、原則である上限時間を超えて延長することができます。
ただし、三つ目のルールとして、その場合であっても年720時間という年間の上限時間を上回ることはできません。
さらに、時間外労働の時間だけではなく、法定休日に勤務した場合の休日労働の時間も含め、四つ目のルールとして、直前の2~6カ月平均で80時間以内、五つ目のルールとして、単月で月100時間未満でなければならないとされました。

<図表1> 時間外労働の上限規制

時間外労働の上限規制
  • (出典) 厚生労働省:「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」P4
    https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf

このように、五つのルールが合わさった複雑な労働時間管理が求められるため、これらのルールを遵守できているのか否かが確認できるよう、勤怠管理の方法を整えなければならず、勤怠システムの見直しを検討する必要があるでしょう。当然ながら、現状、長時間労働が常態化している職場においては、上限規制に適合した労働時間に抑えられるよう、労働時間の削減、業務の効率化などの対応も必要です。

中小企業への適用は1年間猶予

「時間外労働の上限規制」については、企業規模によって適用開始時期が異なります。ここでいう企業規模は、業種ごとに「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者数」の二つの要件によって判断され、図表2の要件のいずれかに該当する場合には中小企業となります。中小企業に該当する場合は1年間の猶予があり2020年4月1日から適用開始の予定です。自社の適用開始時期がいつからであるか正確に把握をしておく必要があります。

<図表2> 中小企業の範囲

業種
(日本標準産業分類による)
資本金の額または
出資の総額
または 常時使用する
労働者数
小売業 5,000万円以下 50名以下
サービス業 5,000万円以下 100名以下
卸売業 1億円以下 100名以下
その他 3億円以下 300名以下

適用除外・適用猶予事業等

「時間外労働の上限規制」については、一部、適用除外や適用猶予がされる事業・業務が存在します。具体的には図表3の通りです。

<図表3> 「時間外労働の上限規制」の適用除外・適用猶予

事業・業務 2024年3月31日まで 2024年4月1日以降
新技術・新商品等
の研究開発業務
適用除外
建設事業 上限規制の適用猶予
  • ・災害の復旧・復興事業を除き、上限規制がすべて適用。
  • ・災害の復旧・復興事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、2~6カ月平均80時間以内、月100時間未満とする規制は適用されない。
自動車運転
の業務
  • ・特別条項付き36協定を締結する場合の年間時間外労働の上限が年960時間。
  • ・時間外労働と休日労働の合計について、2~6カ月平均80時間以内、月100時間未満とする規制は適用されない。
  • ・時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月までとする規制は適用されない。
医師 省令で定める予定
鹿児島県および
沖縄県における
砂糖製造業
時間外労働と休日の合計について、2~6カ月平均80時間以内、月100時間未満とする規制は適用されない。 上限規制がすべて適用

経過措置と36協定届の様式変更

「時間外労働の上限規制」の施行に当たっては経過措置が設けられています。2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以後の期間を定めた36協定に対して「時間外労働の上限規制」が適用されますが、2019年3月31日(中小企業は2020年3月31日)を含む期間について定めた36協定については、その36協定の初日から1年間は引き続き有効となり適用されません。例えば2018年10月1日から2019年9月30日まで期間1年間の36協定は適用されません(図表4)。

<図表4> 「時間外労働の上限規制」の経過措置

「時間外労働の上限規制」の経過措置
  • (出典) 厚生労働省:「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」P6
    https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf

また、36協定において留意すべき指針が策定され、健康および福祉を確保するための措置を定めることを求められています※1。これらを受けて、今回の「時間外労働の上限規制」の施行と同時に36協定届の様式が変更になります。参考リンク先のURLから36協定届の新様式がダウンロードできます。

  1. ※1:厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」
    https://www.mhlw.go.jp/content/000350731.pdf

2.年次有給休暇の確実な取得実施

年次有給休暇の年5日の取得義務

日本全体では依然として取得率の低い年次有給休暇を確実に取得させるため、年次有給休暇が年10日以上付与される労働者に対して、そのうち年5日について確実に取得させることが義務化されます※2。そのため、今後は対象者すべてが年5日以上年次有給休暇を取得できているか、管理をしていかなければなりません。
正社員の場合は、雇い入れから6カ月後に一定の条件を満たせば10日の年次有給休暇が付与されるため、当然取得義務の対象となります。パートタイマーなど所定労働日数が少ない者については、年次有給休暇の付与日数は所定労働日数と勤続年数に応じて比例付与がされることになりますが、この場合においても年10日以上の付与がされる場合には取得義務の対象となります。
また、年次有給休暇の年5日の取得義務は、年10日以上付与される労働者すべてが対象となるため、労働基準法上の管理監督者も対象となります。経営者と一体的な立場で仕事をし、法律上の労働時間などの制限を受けない管理監督者についても年次有給休暇の取得について今後は把握、管理をしていく必要があります。

  1. ※2:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」P5
    https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf

年次有給休暇管理簿の作成

年次有給休暇の年5日の取得義務化に併せて、労働基準監督署の調査において、その実施がされているかが確認できるよう、年次有給休暇管理簿の作成が義務化されます※3
年次有給休暇管理簿においては、各人ごとの年次有給休暇の基準日、取得日数、取得した具体的な時季(取得した日付を指す。例:○月×日)を記載し、該当期間の満了後3年間保存しなければなりません。
年次有給休暇管理簿は、必ずそれ単体の紙面で作成しなければならないというわけではなく、労働者名簿や賃金台帳と併せて作成することや、必要なときにいつでも出力できる仕組みとした上で、システム上で管理することも差し支えないとされています。自社としてはどのような形式で記録をしていくのか、適用開始前に準備をしておくべきでしょう。

  1. ※3:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」P6
    https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf

就業規則への時季指定の方法の追記

今回、企業が労働者からの意見聴取をもとに年次有給休暇の時季指定を行うという新たな取得方法が導入されます。この方法を実施する場合には、その取り扱いを就業規則に規定することが必須であるとされていますので、例えば次のような条文を追記しておく必要があります。

<就業規則の年次有給休暇の条項への追加規定例>

年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数(前年度の残余の年次有給休暇含む)のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、労働者があらかじめ請求する時季に取得させる、または労使協定による計画的付与を行うことにより、年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。

  • (出典) 厚生労働省:「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」P7規定例を一部加工
    https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf

3.長時間労働者の医師面接と労働時間の把握義務

長時間労働に対する健康確保措置を強化するため、労働安全衛生法について次の二つの見直しが行われます。

医師による面接指導の強化

月80時間超の残業を行った労働者から申し出があった場合には、医師による面接指導を実施しなければならないことが義務化されます※4。ここでいう残業とは、時間外労働だけではなく、休日労働も含め、1週40時間の法定労働時間を超えて行った労働時間のことをいいます。

  1. ※4:厚生労働省「基発0907第2号(労働安全衛生法の施行について)」
    P8 (1)医師による面接指導の対象となる労働者の要件
    https://www.mhlw.go.jp/content/000465065.pdf

管理監督者も含めたすべての労働者に対する労働時間の把握の義務化

医師による面接指導を適切かつ確実に実施できるように、管理監督者や裁量労働制の適用者なども含むすべての労働者を対象として、労働時間の適正把握が義務化されます※5
労働時間を適正に把握する方法としては、「労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること」とされており、その具体的な把握方法としては、原則、タイムカードやICカード、パソコンの使用時間など、客観的な記録を基礎として確認することとしています。例外的に自己申告制とすることも可能ですが、その場合にはサービス残業の強要など、労働者による適正な申告を阻害する要因がないか、対策を講じておく必要があります※6
近年の労働基準監督署の調査においては、使用者が把握している労働時間(例えば、タイムカードの打刻記録)と実際の労働時間(例えば、パソコンのログイン・ログアウト記録)との間に乖離があると指摘されることがよくあります。労働時間の把握に問題がないか、改善点を洗い出し、適切な把握がされている状態を確保することが求められます。

  1. ※5:厚生労働省「基発0907第2号(労働安全衛生法の施行について)」
    P8 (2)労働者への労働時間に関する情報の通知
    P10 (4)労働時間の状況の把握
    https://www.mhlw.go.jp/content/000465065.pdf
  2. ※6:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html

4.産業医・産業保健の機能強化

企業の産業保健機能において、その中心的役割を担っているのが産業医です。産業医は、労働者数50人以上の事業場で選任が義務付けられており、企業と連携して労働者の健康管理や作業環境の整備を行うものとされています。今回の改正では、産業医の機能を強化することで、より効果的に労働者の健康管理に関与していくことが期待され、いくつかの変更が行われています。

産業医の業務内容の周知

まず対応が必要なのは、産業医がどのように活用できるかを知ってもらうために、産業医の業務内容を労働者に周知することです。その事業場において産業医が行っている業務の具体的な内容や産業医に対する健康相談の申し出の方法、産業医による労働者の心身の状態に関する情報の取り扱いの方法を周知します。周知方法は、掲示板への掲示や書面配布、イントラネットでの電子掲示板への掲載などが挙げられます※7

  1. ※7:厚生労働省「基発0907第2号(労働安全衛生法の施行について)」
    P5-6 (10)産業医等の業務の内容等の周知
    https://www.mhlw.go.jp/content/000465065.pdf

健康管理に必要な情報の提供

次に、産業医が企業の実態に応じて適切な対応を行えるよう、健康診断やストレスチェックなどで異常が認められた人に対して企業が実施した「就業上の措置」に関する情報や、1週当たり40時間の法定労働時間を超えて行った残業が月80時間を超えた労働者の氏名と勤怠情報を産業医に提供しなければなりません※8。特に月80時間超の残業者については、その月に80時間を超える対象者がいなかった場合であっても対象者がいないという報告をしなければなりませんので、毎月漏れなく報告を行え、かつ、その記録を残しておくことができる体制づくりをしておく必要があります※9

  1. ※8:厚生労働省「基発0907第2号(労働安全衛生法の施行について)」
    P3-4 (6)産業医等に対する健康管理等に必要な情報の提供
    https://www.mhlw.go.jp/content/000465065.pdf
  2. ※9:厚生労働省「基発1228第16号(労働安全衛生法の解釈について)」P3問5答5
    https://www.mhlw.go.jp/content/000465070.pdf

5.そのほかの改正事項

そのほか、2019年4月1日から適用開始となる改正事項の主な概要を紹介します。

勤務間インターバル制度導入の努力義務化

労働時間設定改善法の改正により、仕事を終えてから次に働き始めるまで一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」を導入するよう、企業に努力義務が課せられます※10。この制度は、前日の夜遅くまで残業をして、翌日の始業時刻までに一定の休息時間が確保できない場合に始業時刻を遅らせるなどの対応をすることで、過重労働を防止し、働く人が生活時間や睡眠時間を確保し健康な生活を送ることができるようにすることを目的としています。EU加盟国では1993年から「EU労働時間指令」において24時間につき最低連続11時間の休息付与が義務付けられていますが、日本において勤務間インターバル制度を導入している企業はわずか1.8%に留まっているという現状が厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」※11により明らかになっており、今後は制度の普及に力を入れていく方針です。

  1. ※10:厚生労働省「勤務間インターバル制度」
    https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/interval/interval.html
  2. ※11:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/

高度プロフェッショナル制度の導入

「残業代ゼロ法案」と言われ、批判の対象となった、高度プロフェッショナル制度が創設されます※12。この制度は、自律的で創造的な働き方を希望する人が、労働時間の枠に縛られずに働くことができるようにするものであり、新たな働き方の選択肢の一つになります。
ただし、長時間労働を強いられ健康を害する事が無いよう、制度導入には企業内に労使委員会を設け5分の4以上の多数の議決が必要であり、働き方にあった健康確保のため、年間104日以上、かつ、4週4日以上の休日を義務付けるなど、新たな規制の枠組みを講ずることとされました。
この制度の適用可能対象者は、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務などの高度専門職のみに限定され、さらには、年収が1,075万円以上の高所得でなければならないことが要件とされています。

  1. ※12:厚生労働省「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて」P13-14
    https://www.mhlw.go.jp/content/000474497.pdf

フレックスタイム制の拡充

変形労働時間制の一つであるフレックスタイム制が拡充されます※13。フレックスタイム制とは、一定の清算期間内において働かなければならない総労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で各日の始業、終業の時刻を自らの意思で決められることで、比較的自由度が高く働ける制度です。これまで清算期間の設定は1カ月以内に限られていましたが、今回の改正により3カ月まで清算期間を拡大して設定することが可能となります。
これにより、例えば、「6・7・8月という3カ月」の中で労働時間の調整が可能となるため、6・7月が繁忙期、8月が閑散期となる場合は、6・7月の繁忙期には長めに働き、その分、8月の閑散期には労働時間を短くすることによって、3カ月の総労働時間をより有効に活用することが可能となります。
活用の幅が広がる一方で、清算期間が3カ月まで拡大されることで、一定期間での業務集中が起きやすい可能性があることから、労働時間が週平均50時間を超えた場合は、その月において割増賃金を支払わなければならないといった新たなルールも設けられるため、賃金計算が煩雑になるという側面もあります。

  1. ※13:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」P6-7
    https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf

2019年4月の施行まで残りわずかです。自社において、いずれの改正事項について対応が必要であるかを見極めた上で、法改正対応の漏れや遅れがないよう再確認を行い、新制度の開始までに必要な準備をしておきましょう。

【社会保険労務士法人 名南経営】

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。