第5回いよいよ始まるストレスチェックの義務化とその対応
※この文章は、株式会社名南経営コンサルティングによるものです。
※この文章は、平成27年9月28日現在の情報に基づいて作成しています。
具体的な対応については、貴社の社会保険労務士などの専門家とご相談ください。
うつ病に代表されるメンタルヘルス不調は、多くの企業で問題となっており、近年の人事労務管理における大きなテーマとなっています。このような背景より、労働安全衛生法が改正され、平成27年12月1日から、従業員数50人以上の事業場に対しストレスチェックを実施することが義務付けられます。ストレスチェックとは、ストレスに関する質問票(選択回答)に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるかを調べる簡単な検査です。そこで今回は、直前に迫ったストレスチェック制度を運用する際のポイントを確認しておきましょう。
1.制度の目的と基本事項の確認
①ストレスチェックの実施目的
働く人のメンタルヘルス不調の原因は、必ずしも仕事に起因するものばかりとは限りませんが、仕事や職業生活に関して強い不安や悩み、ストレスを抱えている人は少なくありません。その状況を放置することでメンタルヘルス不調を抱え、さらにはメンタルヘルス疾患に繋がることにもなりかねません。それを防ぐためには、働く人自身が自らストレスに気づき、ストレスの程度を把握して対策を取ることが重要だと考えられています。ストレスチェック制度は、この働く人自身の気づきなどを促すために実施されることとなりました。
②ストレスチェックの実施が義務付けられる事業場
ストレスチェックは、従業員数50人以上の事業場に実施が義務付けられています。これは、企業単位ではなく、本社・支店といった事業場単位で考えることがポイントです。従業員数50人未満の事業場における実施は努力義務ですが、当然実施することが望ましく、実施した場合には、後述する助成金が受給できる可能性もあります。
③ストレスチェックの対象となる従業員
ストレスチェックの対象者は、雇用契約期間が1年未満の従業員や、労働時間が正社員の4分の3未満のパートタイマーを除き、全従業員となっています。ただし、ストレスチェックの実施時期に休職をしているような従業員は実施しなくても構いません。また、派遣社員については、派遣元において実施義務があります。
④定期健康診断とストレスチェックの違い
ストレスチェック制度は、1年に1回の実施が義務付けられていることから定期健康診断とよく似た扱いとなります。例えば、ストレスチェックの対象となる従業員の範囲や、ストレスチェックにかかる費用は会社負担であること、終了後には労働基準監督署への結果報告を提出しなければならないことなど、多くの共通点があります。
一方で異なる点もあります。定期健康診断は従業員に受診する義務がありますが、ストレスチェックについては、検査を受ける義務はありません。また、結果の通知に関しても、定期健康診断の場合には、原則、従業員の同意なく会社が受け取ることができますが、ストレスチェックに関しては従業員の同意を必ず得なければなりません。
2.ストレスチェックの全体の流れ
ストレスチェックの流れを簡単にまとめると下図のようになります。ストレスチェックは、今後、毎年1回実施することになりますが、実施にあたってはその方法やルールを決めておく必要があります。特に質問票の配布や回収、結果の通知などにはプライバシー保護を意識した対応を決めておかなければなりません。
1)導入前の準備
導入前の準備として、いつ、誰が、どのような方法でストレスチェックを実施し、その結果を受けて医師の面接指導をどのようにセッティングするのか、といった実施方法、役割分担、社内のルールなどを作らなければなりません。この準備は衛生委員会(※1)で行うことが適当であり、衛生委員会でルールを作り、社内規程に落とし込み、さらに従業員への周知も行います。この際に、ストレスチェックの実施目的を従業員に伝えて受検率を高め、ストレスチェックの結果により従業員がセルフケアを実施できるようにしましょう。
2)ストレスチェックの実施
ストレスチェックの具体的な質問項目は、法律で定められているわけではなく、「職場のストレス要因」、「心身のストレス反応」、「周囲のサポート」の3つに関する質問が含まれていれば良いとされています。会社でこの3点に沿った質問項目を作成しても良いでしょうし、厚生労働省が推奨する57項目の質問票(※2)があり、これを利用する方法も考えられます。また、外部の業者に委託することもできますので、どのような方法が自社にとって適当なのか、検討しておきましょう。
なお、ストレスチェックの実施手段については、質問票を紙で配布し回収する方法のほか、パソコンの利用など、ITツールを利用して実施することもできます。
3)本人への結果の通知・医師の面接指導
ストレスチェック実施後は、従業員にストレスチェックの結果を通知するとともに、セルフケアのアドバイス、医師の面接指導の要否を通知します。面接指導が必要な対象者には、事業場に対し申し出ることになっている面接指導の申出窓口と、その申出方法も知らせておく必要があります。面接指導の申し出があった場合には、従業員からストレスチェックの結果を提出してもらうなどして、面接指導の対象者かどうかを確認の上、面接指導の日程などを調整します。申し出から医師の面接指導まで1カ月以内に実施できるように進めましょう。
4)面接指導とその後の対応
医師による面接指導を実施した後、その医師から就業上の措置の必要性の有無とその内容について、事業者は意見を聴くことになります。面接指導の結果によっては、メンタルヘルス不調の未然防止のために、就業場所の変更、労働時間の短縮、時間外労働の制限など就業上の措置を実施しなければならないこともあります。
5)集団分析および職場環境の改善
ストレスチェックの結果を職場や部署単位で集計し分析することで、ストレスが高い人が多い部署が明らかになります。この結果に加え、業務内容や労働時間といった他の情報から、ストレスが高い人が多い原因が推測できることも多く、職場環境の改善に取り組むことができるとされています。この集団分析や職場環境の改善は努力義務に留まりますが、ストレスチェックの実施を企業としてより効果的なものにするためにも、積極的に取り組みたいところです。
6)面接結果の記録・保存と労働基準監督署への結果報告
面接指導の結果については、任意の様式で記録を作成し5年間保存しなければなりません。また、ストレスチェックと面接指導の実施状況を、毎年、所轄の労働基準監督署に所定の様式で報告する必要があります。報告する主な内容は、企業の基本的な情報のほか、在籍労働者数、ストレスチェックを受けた人数、面接指導を受けた人数などです。報告書には、産業医の記名押印も必要になります。報告漏れのないように、全体の流れに組み込んでおきましょう。
- (※1)衛生委員会:従業員の健康障害の防止や健康の保持増進を図るための基本となるべき対策を調査審議するための委員会。業種に関わらず、常時雇用する従業員が50人以上の事業場では労働安全衛生法に基づき設置する必要がある。
- (※2)厚生労働省ホームページ:職業性ストレス簡易調査票
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/kouhousanpo/summary/pdf/stress_sheet.pdf
3.ストレスチェックに利用できる助成金
最後にストレスチェックに関する助成金について確認しておきましょう。
従業員数50人未満の事業場(以下、小規模事業場といいます)が一定の要件のもとストレスチェックを実施したときには、助成金が支給されることがあります。その概要は次のとおりです(※3)。なお、従業員数50人以上の事業場はストレスチェックの実施が義務化され、また、この助成金の対象外となります。
①助成金を受給するための要件
この助成金を受給するためには、以下の5つの要件を全て満たす必要があります。特にこの助成金の特徴として、ストレスチェックを実施する前に複数の事業場で集団を構成する必要があります。なお、この事業場については、労働者災害補償保険の適用事業場単位を指し、同一都道府県内であれば、同じ会社の出張所、営業所、支店であっても問題ありません。
②助成金の対象と助成額
助成金の対象は、ストレスチェックの実施とストレスチェックに係る産業医活動の二つに分かれており、各々次の費用が助成されます。
助成額の500円と21,500円はそれぞれの上限額ですので、実費額が上限額を下回る場合は実費額が支給されます。
この助成金は、厚生労働省の産業保健活動総合支援事業の一環として行われており、独立行政法人労働者健康福祉機構が届出・申請先となっています。届出・申請期間は、小規模事業場団体登録届は平成27年12月10日まで、ストレスチェック助成金支給申請書は平成28年1月末日までですので、助成金の申請を検討する場合には、早めに対応するようにしましょう。なお、助成金には予算があるため、届出・申請期間中でも受付が終了されることもあります。
- (※3)独立行政法人労働者健康福祉機構のホームページより引用
http://www.rofuku.go.jp/sangyouhoken/stresscheck/tabid/1006/Default.aspx
ストレスチェック制度は、平成27年12月1日から施行されますが、改正法施行後、1年以内(平成28年11月30日まで)にストレスチェックを実施すればよいことになっています。ただし、初回となる今回は、検討することも多くあるため、早めに準備を進めるようにしましょう。
関連情報
【株式会社名南経営コンサルティング】
名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。