第55回インターンシップ受け入れ時のポイントと注意点

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、2020年3月6日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

このところ、就職を希望する学生数よりも採用する企業数の方が多い売り手市場の状態が続いています。内定を出しても自社への理解度や関心が薄いため内定を辞退されてしまう企業も多く、新卒学生の確保における競争率が激しくなっています。さらに、いざ入社しても、入社3年以内の従業員の離職率は依然として高く、就職前でのミスマッチの防止が学生・企業ともに重要になっています。そのようなことから、新卒学生の採用を行う企業において、インターンシップ(職業体験)が非常に重要な位置づけとなってきており、これを行うことが新卒学生を確保することにつながります。そこでインターンシップとはどのようなものか、どのような点に留意して実施すべきかを解説します。

1.新卒採用動向について

採用活動のスケジュールについては、これまでは、就職活動が学生生活や学業の妨げとならないよう、企業の採用活動の日程を経団連が決め、下表の通り行うよう加盟企業に求めていました。就職ナビサイトの広報公開タイミングはそれに従っていたほか、強制力のない非加盟企業もこのスケジュールを意識して活動を行っていました。

<採用活動スケジュール>

大学3年 大学4年
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
   

3月1日以降
企業説明会
(広報解禁)

6月1日以降
面接開始
(選考開始)

10月1日以降
内定

ただ、すべての企業がこのルール、スケジュールに従っていたわけではなく、面接ではなく面談という名称で事実上の選考を行っていたり、経団連に加盟していない外資系企業などはルールにとらわれず、他社に先駆けて自由に採用活動を行っていたりと、企業間での不公平も発生していました。また、新卒学生を一括で採用するよりも、必要な人材を適時確保する通年採用企業が増加しつつあることなどから、経団連は2021年4月以降に入社する学生からこのルールを廃止することにしました。一方でルール廃止による混乱を避けるため、政府主導による議論がなされ、政府からの要請という形で2021年4月入社の採用活動スケジュールもこれまでと同じ3月広報解禁、6月選考開始で落ち着く形となりました。
とはいえ、実際には、これまでは大学4年生の6月に選考を開始していた企業が、6カ月早めて大学3年生の12月から選考を開始するなど、採用活動のスケジュールを前倒しして設定している企業が散見されます。今後についても、優秀な学生が先に採用されてしまうことを危惧し、採用活動がより早期化していくことが懸念されます。学生としても企業や業界によってスタートタイミングが異なる採用活動に対して、就職活動をいつスタートすべきかわからず不安になり、早く就職活動を始めないと志望する企業に入れないという感覚に陥って就職活動期間がより長期化していくことが懸念されます。
このように、早い段階から接点を持っておかないと、学生は内定を得られない、企業は新卒学生を確保できない、といった状況が高まってきています。このような状況の中で注目を集めているのがインターンシップです。

2.インターンシップ実施の目的

インターンシップの主な目的は、学生との接点づくりとミスマッチの防止の大きく2点が挙げられます。特に、ミスマッチについては学生・企業の双方において深刻な課題となっており、新卒で就職してから3年以内に離職をしてしまう早期離職が問題となっています。厚生労働省の調査によると、大学を卒業した実に32%の若者が3年以内に離職をしていることが報告されています※1。この要因のひとつに、学生が自分自身のことや業界・企業のことをしっかり理解して就職先を選ぶことができなかったことが考えられます。
例えば、自己分析や業界・企業研究に十分な時間が割けなかったり、うまく進められなかったりする学生もいます。また、企業説明会や先輩社員の話を聞くなど、口頭説明だけで企業や仕事内容を十分に把握するのは難しい場合もあります。企業としても、口頭説明だけでは仕事内容や職場環境などの情報を十分に伝えきることができないことがあり得ます。このような不十分な理解のまま入社したことで、入社前後の理想と現実のギャップが生じ、「こんなはずではなかった」とリアリティショックを受け、離職をしたり、ときに精神的・身体的な支障をきたしてしまったりすることが多く見られます。企業としても、せっかく迎え入れた若手社員が早期に離職するなどして、成果を出せずにいることは大きなマイナスです。
企業と学生が十分な時間をとり、リアリティショックを低減しミスマッチを防止するための方法として、インターンシップが非常に有効的とされています。インターンシップで学生が入社前に実際の業務やそれに近い体験をすることで、業務や職場の雰囲気などを肌で感じることができ、理解が進みやすいといえます。

  • ※1:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成28年3月卒業者の状況)を公表します」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00002.html

3.インターンシップの種類

続いて実際のインターンシップはどのように実施されているのか解説します。インターンシップは、開催期間によって大きく分けて三つの種類があります。

(1)企業説明・セミナー型

「1dayインターンシップ」が代表的で、多くは2日以内の短期間で行われます。期間が短いこともあり、企業説明やセミナーが主となります。実際の業務を経験することはあまりなく、グループワークやグループディスカッションによる業務の疑似体験などが行われることが多いようです。このインターンシップのメリットは、期間が短く、成果をあまり問わないことから学生が気軽に参加しやすいことや、企業側も企業説明・セミナー型で定型化しており開催しやすいことが挙げられます。
反面、1dayインターンシップは企業説明に偏っていることが多いといわれ、職業体験の要素が薄くなってしまいがちなため、インターンシップには該当しないとする指摘も見られます。

(2)プロジェクト型

開催期間は2~5日、2週間、1カ月と企業によってさまざまですが、商品開発や新事業提案など、企業から出された課題に取り組むプロジェクトを進めるようなインターンシップです。参加できる人数に限りがあり、一定のスキルを要件としなければならない場面もあるため、企業説明・セミナー型とは異なり、エントリーシートやWEBテストなどによる選考が行われる場合があります。

(3)就業型

その企業の一員として働く位置づけのため、長期的に行われます。場合によっては期限を設定せずに行われることもあります。長期にわたって業務に携わることから、学生は実際の業務の知識・経験を十分得ることができます。また、このインターンシップの多くは企業の実務を任せられることが多いことから、給与の支払いが発生することがほとんどです。企業の一員として働くため、アルバイトとは異なり、責任や裁量が大きく、ビジネスに近い経験を積むことができます。なお、全インターンシップのうち、就業型で行われる比率は1割程度に満たないのが現状です。

4.インターンシップの開催時期

インターンシップの開催時期については、学生はあくまでも学業が本分であることから、授業に支障をきたさず、また試験期間中での実施は避け、多くの場合は7月下旬から9月、または、2月中旬から3月の長期の休暇期間中に行う場合が多いです。また、土日や祝日など、学生の休日に実施する場合もありますが、インターンシップを実施するのが企業の休日にあたる場合、対応するのは従業員であることから、休日出勤が過重にならないよう配慮することも必要です。

<インターンシップ開催事例>

大学3年
4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月
   

申込

実施

   

申込

実施

5.インターンシップ実施の際の注意点

それでは、インターンシップを実施する際には、どのように進めればよいのか順を追って説明します。

(1)テーマ設定

どのようなインターンシップを企画するのかは企業ごとに自由です。しかし、企業が伝えたいことだけを一方的に伝えるインターンシップになってしまうと、学生の満足度は落ち、最も重要な選考を受けてもらえない、という結果を招きかねません。また、最近では参加者がインターネットの掲示板などに書き込むことが容易になっているため、その影響で参加を敬遠され、参加者を集めること自体が難しくなってしまうことも考えられます。そのため、以下①~③のような学生の知りたい情報を押さえてテーマを設定することも重要な考え方です。

①学生が企業研究を行う上で知りたい情報例

  • ・実際の業務内容
  • ・社風
  • ・求める人材像
  • ・給与水準・平均年収
  • ・他社と比べた強み・弱み
  • ・残業・休日出勤の実態
  • ・福利厚生制度
  • ・教育・研修制度
  • ・経営者の考え・ビジョン 等

②学生が就職先を選ぶためのポイント例

  • ・安定している
  • ・自分のやりたい仕事(職種)ができる
  • ・給料がよい
  • ・これから伸びそうな会社である
  • ・勤務制度、住宅など福利厚生が充実している
  • ・休日・休暇が多い
  • ・働き甲斐がある
  • ・社風がよい
  • ・自分の能力・専門性を活かせる 等

③学生が「行きたくない」と考えている会社例

  • ・ノルマがきつそう
  • ・暗い雰囲気である
  • ・休日・休暇が取れない
  • ・転勤が多い
  • ・仕事内容が面白くない
  • ・残業が多い
  • ・給料が安い
  • ・体質が古い 等

学生がインターンシップで求めていることは、自分の希望や能力にあった業務内容かどうかとその業務に実際に触れること、その業務の労働時間や職場環境、働く従業員の雰囲気などが多いようです。このことから、実際の業務や従業員と接点を持てるテーマ設定が望まれます。なお、企業によっては学生の卒業論文に直結するようなテーマ設定や、自己分析の仕方など就職活動に役立つテーマ設定など、学生が参加する価値を感じやすいようにしているケースも多く見られます。

(2)受入体制

①人員の確保

学生が業務内容そのものやその業務を行っている従業員と接点を持ちたいと考えていることから、そのための人員の確保が重要となります。ただし、従業員に通常業務を行いながら学生の対応や面倒をみてもらうことになるため、できるだけ通常業務に支障をきたさないよう他の従業員の協力などの配慮が必要です。また、学生が親しみを持ちやすい新入社員や若手社員が対応できるのが理想です。

②開催場所

自社ではなく貸し会議室を利用しなければならない場合については、同時期にインターンシップを行う企業も多くあるため、早々に確保をしておかなければなりません。業種によっては、建設業のように学生に怪我を負わせるリスクもあるため、安全に配慮する必要もあります。

③備品の準備

インターンシップで利用する、パソコンや電話、名刺などの備品などもあらかじめ確認の上、準備しておくことが重要です。

④学生の移動への対処

インターンシップ実施時の交通費の支給など、学生の参加時の移動について検討しておくことがお勧めです。多くの学生はインターンシップに3社程度参加すると言われています。インターンシップへの参加をすればするほど往復の交通費がかかってしまい、それなりの負担感があります。また、インターンシップ開催場所が車でなければ行けないような場所であると、参加したくても参加できない学生が発生します。交通費の支給や最寄り駅までの送迎などを行い、少しでも参加しやすくすることも工夫の一つです。

(3)参加者の募集

インターンシップ参加者の募集方法としては、企業展への出展や就職ナビサイトを利用してのダイレクトメッセージ、大学で行われるイベントへの参加などが考えられます。ただし、インターンシップを実施する企業が増えている中、応募者を集めるのは至難の業となってきています。そのため、ある程度ターゲットを絞り、そのターゲットに向けて募集活動を行うと効果的です。文系理系を分けた企業展や、運動部所属学生など対象者を絞ったイベントなども行われていますのでそれらの利用検討が必要です。

(4)インターンシップ実施中

①秘密保持誓約書や労働契約書

インターンシップを始める際、特に学生が実際の業務に携わるようであれば、そこで知りえた情報を漏えいしないよう、秘密保持誓約書の提出を求めるようにしましょう。また、有償のインターンシップならば、労働契約書も締結するようにしなければなりません。

②社内コミュニケーション

インターンシップ実施中は、業務にとどまらず、休憩時間中など業務と離れたオフタイムにもコミュニケーションを図ってもらえるよう社内の協力を得ておくことが望まれます。学生は、実際の業務体験だけではなく、日常的に交わされる社員間のコミュニケーションなども関心高く見ていると考えておきたいところです。

③選考との違い

特に短期間のインターンシップでは、選考の場とは切り離して気軽に参加していることが多いといえます。そのため、インターンシップが選考の要素を多く含んでいるように思われると、次回以降の機会に参加するハードルが上がり、選考を受けてもらえないことも考えられます。また、企業も学生の素の状態に触れることもできなくなるでしょう。インターンシップはあくまで選考の機会とは別と考えて実施することが重要です。

④フィードバック

インターンシップの満足度を向上させる策として、学生に対してフィードバックを行うことが挙げられます。社会に出て働くことに対して不安を抱えている学生は、社会人から良かった点だけでなく、反省点やどうしたらよかったのかという自身のマイナス部分についての感想やアドバイスを求める傾向が強いです。インターンシップの終わりには、従業員とともに振り返り時間を設け、意見交換の機会を作っておくとよいでしょう。

(5)インターンシップ参加者とのその後の関わり

せっかく8月ごろ開催のインターンシップに学生を集められたとしても、2月ごろ開催のインターンシップや選考を開始するまで接点がないような状態になると、複数企業のインターンシップに参加することが当たり前になっていることもあり、他の企業に気持ちが傾いてしまうことが考えられます。インターンシップに参加した、特に選考を受けてほしいと思える学生に対しては、学生が他社との比較をする前に接点を持つ機会を検討したいところです。具体的には、若手社員と懇親を深める機会を作ったり、先述のフィードバックを文書にして後日送ったり、一部の学生しか参加できないインターンシップを検討したりするなどの方法で、関係が希薄になりすぎないよう、選考開始までの導線を検討しておくことが望まれます。

【社会保険労務士法人 名南経営】

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。