第6回「平成28年度税制改正の大綱」の概要について
-法人税改革のさらなる推進-
※この文章は、税理士法人名南経営によるものです。
※この文章は、平成27年12月25日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問税理士などの専門家とご相談ください。
※本内容は、平成28年度税制改正の大綱に基づき作成していますが、改正法は国会の審議を経て決定するものであり、大綱とは内容が変わる可能性がありますのでご留意ください。
1.平成28年度税制改正の大綱における「法人税改革」
平成27年12月24日に「平成28年度税制改正の大綱」(以下「大綱」)が閣議決定されました。平成27年度税制改正ではデフレ脱却・経済再生をより確実に行う措置等として、法人税改革に着手しましたが、今回の大綱では、さらなる法人税率の引き下げや法人事業税の外形標準課税の拡大によって、いよいよ法人実効税率は目標の「20%台」に引き下げられます。
2.法人実効税率の「20%台」への引き下げ
①法人税率の引き下げ
法人税率は、本則税率が次のとおり引き下げられます。中小法人等(資本金1億円以下の法人等)についても所得金額のうち年800万円を超える部分については減税の対象になります。
開始事業年度 | H27.4.1~ H28.3.31 |
H28.4.1~ H29.3.31 |
H29.4.1~ H30.3.31 |
H30.4.1 以後 |
|
---|---|---|---|---|---|
大法人 (例:資本金1億円超) |
23.9% | 23.4% | 23.4% | 23.2% | |
中小法人等※1 | 年800万円超の 所得金額 |
23.9% | 23.4% | 23.4% | 23.2% |
年800万円以下の 所得金額 |
15%※2 | 15%※2 | 19% | 19% |
- (※1)期末資本金1億円以下の普通法人(資本金5億円以上の法人による完全支配関係がある法人等を除きます。)をいいます。
- (※2)本則税率では19%ですが、軽減税率の特例として15%が適用されます。
②法人事業税の見直し
下表のとおり、資本金1億円を超える大法人の、法人事業税の外形標準課税(付加価値割、資本割)と所得割が、現行の平成27年度税制改正において決定された平成28年4月1日開始事業年度の税率からさらに見直されました。
資本金1億円超 法人事業税の税率 | 現 行 | 大 綱 | ||
---|---|---|---|---|
開始事業年度 | H27.4.1~ H28.3.31 |
H28.4.1~ H29.3.31 |
H28.4.1~ H29.3.31 |
|
付加価値割 | 外形標準課税対象 | 0.72% | 0.96% | 1.2% |
資本割 | 0.3% | 0.4% | 0.5% | |
所得割 | 年400万円以下の所得 | 3.1% | 2.5% | 1.9% |
年400万円超 年800万円以下の所得 |
4.6% | 3.7% | 2.7% | |
年800万円超の所得 | 6.0% | 4.8% | 3.6% |
現行では、平成28年4月1日以後開始事業年度から付加価値割と資本割の税率は0.96%、0.4%としましが、今回の大綱では見直され、それぞれの税率は1.2%、0.5%とさらに拡大します。一方、所得割については、年800万円を超える所得の場合、現行では平成28年4月1日以後開始事業年度からの税率は4.8%としましたが、今回の大綱では3.6%とさらに低減します。外形標準課税の拡大により、赤字の大法人にとっては税負担が増加し、黒字の大法人にとっては所得割の税率の低減により税負担がさらに減少すると見込まれます。
③法人実効税率の「20%台」への引き下げ
上記の結果、大法人における法人実効税率は次のとおりとなります。
平成27年度税制改正では、平成28年4月1日以後開始事業年度において、31.33%まで引き下げ、平成29年度以降は20%台を目指すとされましたが、今回の大綱で20%台に引き下げられました。
開始事業年度 | H27.4.1~ H28.3.31 |
H28.4.1~ H29.3.31 |
H29.4.1~ H30.3.31 |
H30.4.1 以後 |
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---|---|---|---|---|---|
現 行 | 32.11% | 31.33% | 平成29年度以降は20%台を目指す | ||
大 綱 | 29.97% | 29.97% | 29.74% |
3.課税ベースの拡大
上記2の実行によって不足すると懸念される財源確保の観点から、次の課税ベースの拡大が行われます。
①建物附属設備・構築物の「定額法」一本化
減価償却については、平成28年4月1日以後に取得をする建物と一体的に整備される建物附属設備や、建物同様に長期間安定的に使用される構築物について定率法が廃止され、償却方法が次のとおり定額法に一本化されます。
取得時期 | H10.3.31 以前 |
H10.4.1~ H19.3.31 |
H19.4.1~ H24.3.31 |
H24.4.1~ H28.3.31 |
H28.4.1 以後 |
---|---|---|---|---|---|
建物 | 旧定額法 または 旧定率法 |
旧定額法 | 定額法 | ||
建物附属設備 構築物 |
旧定額法 または 旧定率法 |
定額法 または 250%定率法 |
定額法 または 200%定率法 |
定額法のみ | |
機械装置 工具器具備品 車両運搬具 船舶・航空機 |
定額法 または 200%定率法 |
||||
無形固定資産 | 旧定額法 | 定額法 |
200%定率法の償却率は、定額法の償却率を「2倍」したものであることから、特に初期投資をしたときの減価償却費は、従来の2分の1に減少します。
具体的には、取得価額1,000万円の建物附属設備(例:耐用年数15年)の初年度償却額は、200%定率法(償却率0.133)では133万円だったものが、定額法(償却率0.067)では67万円と約2分の1になります。設備投資資金の早期回収という観点からは、定率法の方が優れていますので、定額法に一本化されますと、特に、工場の新設など大規模な設備投資を行う際には、返済計画などの見直しが必要といえます。
②生産性向上設備投資促進税制の適用廃止
生産性向上設備投資促進税制は、平成29年3月31日までに取得かつ事業の用に供した対象設備をもって当初の適用期限どおり「廃止」されることが法律上、明確化されます。
この税制は、生産性を向上させると認められる設備投資について、即時償却または最大5%の税額控除(平成28年4月1日から平成29年3月31日までの間は、最大50%の特別償却又は最大4%の税額控除)という非常に大きな減税措置となっており、しかも製造業に限らず業種の制限もなかったことから、小売業、卸売業、飲食店業、医療業、サービス業、娯楽業など多種多様な設備投資が対象となっています。
経済産業省の「平成28年度 経済産業関係 税制改正について」では、このように、廃止期限を明確化することで、「期限内の設備投資を強力に後押し」して、「やるなら今でしょ」という状況を創り出すために行われることが説明されています。
なお、上記(1)により償却方法が定額法のみとなる建物附属設備・構築物についても、平成29年3月31日までに取得かつ事業の用に供した設備投資については、生産性向上設備投資促進税制の特別償却を活用することにより、早期の資金回収を行うことができます。
③欠損金の繰越控除制度のさらなる見直し
(1) 控除限度額
大法人の欠損金の繰越控除の控除限度額は、平成27年度税制改正により平成27年4月1日以後開始事業年度から所得金額の65%、平成29年4月1日以後開始事業年度から50%に引き下げられましたが、法人税改革に伴う企業経営への影響を平準化する観点から、大綱では、平成28年4月1日以後開始事業年度から所得金額の「60%」、平成29年4月1日以後開始事業年度から「55%」と段階的な引き下げになるよう見直しが行われています。
開始事業年度 | H27.4.1~ H28.3.31 |
H28.4.1~ H29.3.31 |
H29.4.1~ H30.3.31 |
H30.4.1~ H31.3.31 |
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---|---|---|---|---|---|
大法人 | 所得×65% | 現行:所得×65% 大綱:所得×60% |
現行:所得×50% 大綱:所得×55% |
所得×50% | |
中小法人等 | 所得×100% |
(2) 繰越期間
また、平成27年度税制改正で平成29年4月1日以後開始事業年度において生ずる欠損金額の繰越期間が9年から10年になりましたが、大綱ではこの適用時期が1年延期され、平成30年4月1日以後開始事業年度において生ずる欠損金額から適用されます。この取扱いは中小法人等も同様です。
4.今後注目すべき中小法人課税の動向
最後に、大綱では、中小法人課税について「資本金以外の指標を組み合わせること等により、法人の規模や活動実態等を的確に表す基準に見直すことについて検討」という文言が明記されています。
例えば、「中小企業者等の少額減価償却資産(30万円未満)の取得価額の損金算入の特例」の適用期限が、現行では平成28年3月31日までですが、大綱では平成30年3月31日までと2年延長されました。それと同時に、「常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人」が対象外となり、資本金1億円以下の法人であっても、今後は従業員数1,000人超の法人は、この特例が利用できなくなります。
つまり、「資本金基準」に「従業員数基準」を組み合わせることで、大規模な法人を中小法人の優遇措置の対象から除外するものとなっています。
今回は「従業員数1,000人超」のため、影響を直接受ける法人は少ないと考えられますが、既に「取引相場のない株式等(いわゆる非上場株式等)」の評価では、従業員数基準が導入され、従業員数100人以上の法人は「大会社」として区分されています。その点では、今後の見直しで「従業員数基準」が1,000人超から下がる可能性も考えられ、その動向に注目しつつ、設備投資計画などを検討する必要があるでしょう。
中小法人の主な優遇措置の概要を下表にまとめました。
区 分 | 中小法人の主な優遇措置の概要(財務省資料を基に作成) | |
---|---|---|
1.軽減税率 | 所得800万円以下の部分は税率19%(軽減税率の特例:税率15%) | |
2.貸倒引当金 | 貸倒引当金を一定の限度額の範囲内で損金算入可能 | |
3.欠損金関係 | 欠損金の繰越控除について、所得金額の100%まで損金算入可能 | |
欠損金の繰戻し還付(1年間)が可能 | ||
4.留保金課税 | 特定同族会社に対して課される留保金課税の適用除外 | |
5.政策減税 | 研究開発税制:総額型の税額控除率(大法人よりも有利) | |
所得拡大促進税制:給与等支給額の増加要件・税額控除の上限(大法人よりも有利) | ||
中小企業投資促進税制(中小企業者等のみ) | ||
中小商業・サービス活性化税制(中小企業者等のみ) | ||
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 ⇒ 大綱:従業員1,000人超の法人を除外 |
大綱は、平成28年夏の参議院議員選挙や平成29年4月からの消費税率10%への引き上げなどを配慮したものとなっており、中小法人課税については、ほとんど議論が表に出ていませんが、平成29年度以降の税制改正では、法人税改革の中で、中小法人課税の見直しがどのように行われるのかが注目されるところです。
【税理士法人名南経営】
名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。