第60回ハラスメント防止規程を作成するときの着眼点

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、2020年7月31日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

2020年6月1日、改正労働施策総合推進法など※1の施行により、職場のパワーハラスメントを防止するために、企業に雇用管理上の措置を講ずることが義務付けられました(中小企業は2022年4月より義務化。それまでの間は努力義務)。これにより、すでに対策が義務付けられていたセクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに加えて、パワーハラスメントに関しても、トラブル発生を防ぐ取り組みとトラブル発生時の適切な対応が求められるようになりました。
一方で、現場の人事・労務担当者からは、「ハラスメント対策を行ってはいるが、今の取り組みで十分なのか不安だ」「実際にハラスメントのトラブルが起きたときに、現状の仕組みはきちんと機能するのか心配だ」「具体的にどのような対策を取れば良いのかよくわからない」といった実務面の不安の声が聞こえてきます。このように、何らかのハラスメント対策を講じてはいるものの、実効性の部分ではさまざまな不安を抱えているという企業も数多く見られます。
ところで、ハラスメント対策と一口にいってもさまざまな方法があります。その中でも本コラムでは、ハラスメント対策における手引き書であり、従業員へハラスメント防止のメッセージを伝えるためのツールでもある「ハラスメント防止規程」に着目し、どのような規定を設ければハラスメント対策として効果的なのかを解説します。先ずは、最初のステップとして、法律で求められているレベルを目指し、その上で、ハラスメント対策により実効性を持たせるための工夫についても詳説します。

  • ※1:2019年6月5日に女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律が公布され、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法が改正されました。

1.法改正によって企業に求められる取り組み

(1)事業主が雇用管理上講ずべき措置

はじめに、ハラスメント対策の基本となる法律上の義務について確認しておきます。セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント、パワーハラスメントについては、それぞれ根拠となるべき法律は異なるものの、企業に義務付けられている雇用管理上講ずべき措置の内容は共通しています。措置の具体的な内容は指針(以下、ハラスメント指針)によって定められており、以下10項目で構成されています(妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントは11項目)※2

■ハラスメントを防止するために講ずべき措置

<事業主の方針の明確化およびその周知・啓発>
  1. ①ハラスメントの内容およびハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
  2. ②ハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則などの文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
<相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備>
  1. ③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
  2. ④相談窓口の担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。ハラスメントが現実に生じている場合だけではなく、発生するおそれがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること。
<職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応>
  1. ⑤事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
  2. ⑥事実関係の確認ができた場合は、被害者に対する配慮のための措置を適正かつ速やかに行うこと。
  3. ⑦事実関係の確認ができた場合は、行為者に対する措置を適正に行うこと。
  4. ⑧再発防止に向けた措置を講ずること。
<併せて講ずべき措置>
  1. ⑨相談者・行為者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること。
  2. ⑩事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局の援助制度を利用したことなどを理由として、解雇その他不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
<職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの原因や
 背景となる要因を解消するための措置>
  1. ⑪業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること。
  • ※2:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」 P19
    https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf

(2)就業規則などに規定しておくべき事項

これらの措置の内容を踏まえ、就業規則もしくはハラスメント防止規程などに最低限規定しておくべき事項は以下の通りです。すでに規程を設けている企業では、これらの事項がすべて規定されているか確認しておきましょう。なお、これから新たに規程を作成する、もしくは一から作り直すという場合は、厚生労働省が作成しているハラスメント防止規程の雛型※3が参考になります。ただし、この雛型をベースとする場合は注意すべき点があるので後述します(2.ハラスメント防止規程を作成するうえでの注意点を参照)。

■就業規則やハラスメント防止規程等に規定しておくべき事項

  1. ①セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント、パワーハラスメントの内容(定義・具体的な言動)
  2. ②ハラスメントを行ってはならないこと
  3. ③ハラスメントに該当する行為を行った者に対する懲戒規定
  4. ④相談窓口に関する事項
  5. ⑤相談や協力をしたことを理由に不利益な取り扱いをされないこと
  6. ⑥相談者や行為者等のプライバシーが保護されること
  • ※3:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」P34対応例
    https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf

(3)ハラスメント防止規程が果たす役割とは

企業によっては、ハラスメントに関する事項を就業規則本則の一規定として設けているところや、就業規則の本則に委任規定を設けた上で、詳細をハラスメント防止規程に定めているところがあります。いずれの場合も、必要事項が規定されていれば措置を講じていることになりますが、可能であればハラスメント防止規程という形で就業規則から独立させて定めることをお勧めします。その理由として、ハラスメント防止規程は、「①ハラスメントに関する社内ルールを定めた規程」であると同時に、「②会社のメッセージを伝えるツール」や「③問題発生時の対応の手引き」という役割も担うべきであるからです。①の役割だけを果たすのであれば、就業規則の服務規定や懲戒規定などに定めればよいのですが、②や③といった機能を盛り込もうとすると就業規則の本則の厚みが増して規定が埋もれてしまうことも考えられるため、独立させてより具体的に定めたほうが効果的です。また、ハラスメントに関しては頻繁に法改正や指針の見直しが行われているため、その点においても就業規則内に定めるよりも独立した規程にしておいたほうが内容の改定にも対応しやすくなります。

2.ハラスメント防止規程を作成するうえでの注意点

(1)分かりやすい表現・正しい言葉を用いること

ハラスメント防止規程に必要事項を定めておけば、ひとまずは法律で求められている措置を満たしたことになります。とりわけ、厚生労働省が公表しているハラスメント防止規程の雛型を用いれば、比較的容易に対応することができます。ただし、ハラスメント防止規程が持つ「会社のメッセージを伝えるためのツール」という役割を追求するのであれば少し工夫が必要です。厚生労働省の雛型は、法律や指針の内容に忠実に準拠している反面、表現や言葉遣いが難解な部分もあります。例えば、従業員の責務について「職場における健全な秩序ならびに協力関係を保持する義務を負う」と表現している部分や、セクシュアルハラスメント行為の内容について「性的な言動により、他の従業員の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為」と表現している部分などが挙げられます。こうした部分について、従業員が規定を読んだときに明確に理解できるかを考えた上で、分かりやすい表現に変える工夫をすると、会社のメッセージがより伝わりやすくなります。
一方で、表現を変える場合の注意点もあります。ありがちなのは「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」を、一般によく使われている「マタニティハラスメント(マタハラ)」にすべて置き換えてしまっている場合です。イメージだけであれば「マタハラ」という言葉で説明したほうがわかりやすいのですが、「マタニティ」という言葉には「母性」という意味があり、この言葉で表現しようとすると女性の妊娠・出産・育児に対するハラスメントという範囲に限られてしまいます。しかしながら、法律では、育児休業を取得しようとする男性従業員や、介護休業を取得しようとする従業員に対する嫌がらせなどの防止措置も含まれており、「マタハラ」という言葉ではそれらが除外されてしまい、従業員が誤って解釈してしまうおそれがあります。この点は、労働局による調査でも指摘を受ける部分であり、正しくは、指針にも用いられている「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」という表現を使うようにしましょう。

(2)判断に迷う部分ができる限り明らかになっていること

ハラスメント防止規程の役割の一つである「問題発生時の対応の手引き」という機能を備えておくためには、問題発生時に判断に迷いやすい部分をできる限り明確にしておくことが必要になります。例えば、トラブル発生時の実務対応で迷いやすい部分として、以下のようなものが挙げられます。
 ・訴えられた言動がハラスメントに該当するかどうか
 ・ハラスメントに該当するかどうかを誰がどのようなプロセスで判断するか
 ・ハラスメントに該当した場合にどの程度の懲戒処分とするか

これらの迷いやすい部分について詳細かつ具体的に規定しているのが、国家公務員に適用される人事院規則(図表1)およびそれに附随する運用指針(図表2)です。労働基準法が適用される一般企業とはやや詳細が異なる部分もありますが、「手引書」として非常に参考になります。こうした規則を参考にした上で、実際のトラブル発生をイメージしながら考えるとより実務的な規定とすることが可能になります。

<図表1> 人事院規則から「パワー・ハラスメントになり得る言動」

パワー・ハラスメントになり得る言動として、例えば、次のようなものがある。
  1. 一 暴力・傷害
    1. ア 書類で頭を叩く。
    2. イ 部下を殴ったり、蹴ったりする。
    3. ウ 相手に物を投げつける。
  2. 二 暴言・名誉毀損・侮辱
    1. ア 人格を否定するような罵詈雑言を浴びせる。
    2. イ 他の職員の前で無能なやつだと言ったり、土下座をさせたりする。
    3. ウ 相手を罵倒・侮辱するような内容の電子メール等を複数の職員宛てに送信する。
  3. (注)「性的指向又は性自認に関する偏見に基づく言動」は、セクシュアル・ハラスメントに該当するが、職務に関する優越的な関係を背景として行われるこうした言動は、パワー・ハラスメントにも該当する。
  4. 三 執拗な非難
    1. ア 改善点を具体的に指示することなく、何日間にもわたって繰り返し文書の書き直しを命じる。
    2. イ 長時間厳しく叱責し続ける。
  5. 四 威圧的な行為
    1. ア 部下達の前で、書類を何度も激しく机に叩き付ける。
    2. イ 自分の意に沿った発言をするまで怒鳴り続けたり、自分のミスを有無を言わさず部下に責任転嫁したりする。
  6. 五 実現不可能・無駄な業務の強要
    1. ア これまで分担して行ってきた大量の業務を未経験の部下に全部押しつけ、期限内に全て処理するよう厳命する。
    2. イ 緊急性がないにもかかわらず、毎週のように土曜日や日曜日に出勤することを命じる。
    3. ウ 部下に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる。
  7. 六 仕事を与えない・隔離・仲間外し・無視
    1. ア 気に入らない部下に仕事をさせない。
    2. イ 気に入らない部下を無視し、会議にも参加させない。
    3. ウ 課員全員に送付する業務連絡のメールを特定の職員にだけ送付しない。
    4. エ 意に沿わない職員を他の職員から隔離する。
  8. 七 個の侵害
    1. ア 個人に委ねられるべき私生活に関する事柄について、仕事上の不利益を示唆して干渉する。
    2. イ 他人に知られたくない職員本人や家族の個人情報を言いふらす。
  9. (注)第1号から第7号までの言動に該当しなければパワー・ハラスメントとならないという趣旨に理解されてはならない。
  • (出典)人事院「人事院規則10―16(パワー・ハラスメントの防止等)の運用について」から一部抜粋
    https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/10_nouritu/1032000_R2shokushoku141.html

<図表2> 人事院「懲戒処分の指針について(一部抜粋)」

  1. (14) セクシュアル・ハラスメント(他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動)

    1. ア 暴行若しくは脅迫を用いてわいせつな行為をし、又は職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び若しくはわいせつな行為をした職員は、免職又は停職とする。
    2. イ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞、性的な内容の電話、性的な内容の手紙・電子メールの送付、身体的接触、つきまとい等の性的な言動(以下「わいせつな言辞等の性的な言動」という。)を繰り返した職員は、停職又は減給とする。この場合においてわいせつな言辞等の性的な言動を執拗に繰り返したことにより相手が強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患したときは、当該職員は免職又は停職とする。
    3. ウ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞等の性的な言動を行った職員は、減給又は戒告とする。
  2. (15) パワー・ハラスメント
    1. ア パワー・ハラスメント(人事院規則10―16(パワー・ハラスメントの防止等)第2条に規定するパワー・ハラスメントをいう。以下同じ。)を行ったことにより、相手に著しい精神的又は身体的な苦痛を与えた職員は、停職、減給又は戒告とする。
    2. イ パワー・ハラスメントを行ったことについて指導、注意等を受けたにもかかわらず、パワー・ハラスメントを繰り返した職員は、停職又は減給とする。
    3. ウ パワー・ハラスメントを行ったことにより、相手を強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹(り)患させた職員は、免職、停職又は減給とする。
  3. (注)(14)及び(15)に関する事案について処分を行うに際しては、具体的な行為の態様、悪質性等も情状として考慮の上判断するものとする。
  • (出典)人事院「懲戒処分の指針について(一部抜粋)」
    https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html

3.ハラスメント防止規程をより効果的にするためのポイント

(1)トラブル発生時の対応フローは可能な限り具体的に定める

判断に迷いやすい部分を明確にしておくべきということを前述しましたが、特にトラブルが発生したときにどのようなプロセスで問題解決を進めるかという部分については、可能な限り具体的に記しておくことが望まれます。先ほどは、規程を「手引書」として用いる人事総務担当者の目線で考えましたが、この規程を目にする従業員、特にハラスメント被害を受けて会社への相談をしようとしている従業員の目線で見ると別の観点で考える必要があります。ハラスメントを会社に相談しようとしている従業員は、「本当に会社が解決を図ってくれるのか」「公平に判断をしてくれるのか」といった不安を抱えています。この不安が解消されなければ、会社への相談をためらい、さらに被害に耐えるか、労働局や弁護士事務所など外部に相談をすることになります。会社としては、早期にトラブルを把握することが求められるため、被害者が安心して相談できるように、会社の対応フローを分かりやすく図で示しておくと効果的です(図表3)。

<図表3> 相談・苦情への対応の流れの例

相談・苦情への対応の流れの例
  • (出典)厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」P40
    https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf

(2)その他の規定

ハラスメント指針には、義務化された措置以外に「行うことが望ましい取り組み」というものも定められています。これらはプラスαの取り組みという位置付けですが、ハラスメント防止や従業員の保護という観点から考えれば規程に盛り込んでおくと効果的です。

■ハラスメント指針における「行うことが望ましい取り組み」

  1. ①雇用する労働者以外の者(取引先の従業員、就職活動中の学生、フリーランスなど)に対しても、ハラスメントを行ってはならない旨の方針を示したり、被害の相談を受けた場合は適切な対応を行うよう努めたりすること
  2. ②顧客などからの著しい迷惑行為について相談に応じ適切に対応すること
  3. ③各種ハラスメントの一元的な相談体制を整備すること
  4. ④ハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための取り組みを行うこと
  5. ⑤必要に応じて労働者や労働組合などの参画を得ること

このうち②は、いわゆる「カスタマーハラスメント」と呼ばれるもので、2020年6月の改正法施行にあわせてはじめて言及されました。従業員が顧客などから理不尽な要求や嫌がらせの被害を受けた場合に、会社に相談しやすい体制を整えておくことで、従業員を守ることにもつながります。
また、⑤にあるように、ハラスメント防止規程を会社側だけで作成するのではなく、一般の従業員や管理職、あるいは労働組合などと話し合いながら作り上げることで、より実態に即した規程にすることができます。こうした労使協議には、社内の衛生委員会などの場を利用するとよいでしょう。

4.おわりに

ここまで、ハラスメント防止規程には3つの役割があると解説してきました。これにもう一つ役割を加えるとするならば「自社のハラスメント対応の歴史を記す」というものがあると思います。さまざまな企業・組織のハラスメント規程を見ていますと、まれに、ある特定の部分だけ特に詳しく規定されているものを見つけることがあります。ハラスメント防止規程は一度作ればよいというものではなく、実際に規程をもとに運用して不足があれば、その部分を見直し、追加や修正を加えることで、ケガをした部分の皮膚が分厚くなるように、よりトラブルに強い規程に進化させることができます。ハラスメントのトラブルが起きた際に行う再発防止策は、教育研修だけではなく、こうした規程の見直しまでセットで行うものと考えるとよいでしょう。

【社会保険労務士法人 名南経営】

名南コンサルティングネットワークグループの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。