第63回あらためて振り返る!テレワーク運用の問題と改善策

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、2020年11月30日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

1.はじめに

「Tele=離れたところで」「work=働く」の造語であるテレワークは、新型コロナウイルス感染拡大防止策として急速に導入が進み、今や多くの労働者にとって働き方のひとつとして定着してきた感を受けます。通勤時間の短縮などのメリットを多くの労働者が享受したことで、もはや元のような働き方には戻れないという声も多方面から耳にします。
しかしながらテレワークを導入した企業の中には、計画的に取り入れたというよりも、会社への出勤を自粛するよう要請されたことで、やむを得ず導入したケースも少なくなく、そのような企業では現在も自社に合ったテレワークの運用方法を、試行錯誤を繰り返しながら模索している状況のようです。また、図表1の通り「できる業務が限られているから」などという理由でテレワークの導入が進まない企業も依然として多く、完全なる普及や定着にはもう少し時間がかかりそうです。

<図表1> テレワークを導入・実施していない理由

  • (出典)厚生労働省「テレワークの労務管理等に関する実態調査」P12
    https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000694957.pdf

2.テレワークの運用における問題と改善策

当初、テレワークについて多くの企業は情報セキュリティ面を不安視していましたが、実際にテレワークを推進していくと、それ以外の想像もしなかったさまざまな問題が浮かび上がってきました。ここでは次の(1)~(7)の問題と改善策について解説します。

  1. (1)コミュニケーションについて
  2. (2)業務怠慢または過重労働について
  3. (3)社員の健康について
  4. (4)職場の一体感について
  5. (5)通勤手当とテレワーク補助について
  6. (6)業務の生産性について
  7. (7)人事評価制度運用について

(1)コミュニケーションについて

会社へ出勤すれば、上司部下、同僚同士において仕事上はもちろん雑談などの会話が少なからずあります。しかし、テレワーク下では仕事を処理することに集中してしまい、一人暮らしをしている人からは一日中誰とも会話をしない日が続いたという声もありました。
パソコンに向かってひたすら資料を作成し、昼食も一人で黙々と食べるという状況では、確かに孤独に陥りやすくなるでしょう。また、電子メールによるやり取りに終始するため、上司から部下に対しては簡潔に結論やゴールのみが伝えられ、そこに至る進め方についての相互理解がなされにくく部下が混乱をするといったケースも多く発生しているようです。会社に出勤していれば、上司は部下の顔を見ながら伝達するため理解度がその場で把握できますが、電子メールだけのやり取りではその把握は難しいでしょう。
こうしたコミュニケーションの問題を解消するためには、電話などによる直接対話も交えながら業務を遂行することが必要です。在宅勤務をしているから電話はお互いに控えようというのは単なる遠慮に過ぎず、必要に応じて出勤時と同様に直接のコミュニケーションを図るべきです。
企業によっては、グループウェア内において、勤務時間中であったとしてもちょっとした雑談がチャット形式でできるように、「雑談室」などを敢えて仕組みとして採り入れているところがあります。孤立の防止やコミュニケーション不足を補うために、こうした仕組みを取り入れることも一案でしょう。もちろん、通常の業務を横に置き、雑談ばかりが続くということは問題ですので、利用ルールも併せて整備しておくことも必要と考えます。

(2)業務怠慢または過重労働について

一般的にテレワークはサテライトオフィスで仕事をするよりも自宅で仕事をするケースが多く、会社や上司の監視が十分に行き届かないことで業務が怠慢になる可能性が指摘されています。テレビの報道番組などで、「早々に仕事を切り上げて好きなことをやっていた」「仕事をする振りをしてゲームをやっていた」「業務をやりながら自宅のいらないモノをフリマアプリで売っていた」などとインタビューで答えている映像もみられますので、現実にそういう業務怠慢な社員というのは一定数存在しているのでしょう。
テレワーク下の部下管理はなかなか難しい問題です。しかし、上司が部下に対し、自宅で業務をしていないのではないかと疑い、頻繁に電子メールや電話をするというような行為は、上司と部下との信頼関係を崩すことになります。怠慢(かもしれないこと)への対応については慎重さが必要です。
逆に、部下が出勤時以上に自宅で深夜遅くまで仕事をしているケースもあります。その場合、部下が自ら労働時間を申告しない限り、上司は過重労働をなかなか把握することができません。
こうした問題に対して、会社が貸与したパソコンの使用状況を把握するソフトウェアを導入するなどの対策を講じている企業もあります。しかし部下が業務怠慢になるのか過重労働に繋がるのかという問題は、基本的には上司の部下に対するマネジメントの問題であり、まずはこの点を改める必要があります。
部下の業務怠慢が問題だと騒いでいる上司の部下管理を紐解いてみると、多くの場合、今日一日部下が自宅でどういった仕事をどのような段取りで行うのか、部下が抱えている仕事はどのくらいの工数が発生してアウトプットがいつでき上がるのかという点を把握していない、つまり業務の管理ができていないようです。
過重労働についても同様です。きちんと業務管理をしていないので部下が過剰な仕事を抱えていることがわからず、さらに信頼関係が成り立っていないと部下は上司からさぼっていると疑われているのではとアウトプットを出すまで仕事をし続け、結果として長時間労働に繋がるのです。日常的に上司による部下の業務管理が徹底されていれば、多くの場合防げる問題であると考えます。

(3)社員の健康について

毎日会社に出勤をしていた頃は、多くの労働者は1日何千歩というかなりの歩行があったはずですが、専ら自宅に居て外出をしないようなテレワーク生活では、「コロナ太り」という言葉に表されるような健康上の問題が発生することがあります。
こうした問題を防止するには、運動を奨励することが一番ですが、新型コロナウイルスの感染が拡大している中で外出すること自体がリスクであることもあり、企業の人事担当者にとっては頭の痛い問題です。
テレワーク対象者に対して、自宅で静かに運動ができるようにバランスボールを買い与えるといった企業もあるようですが、運動の仕方や利用する道具は個人の好みの問題がありますので、「運動費用購入一時金」を付与して、好みの運動グッズを購入してもらい運動を心掛けてもらう方法も考えられます。
また、金銭の付与ではなく、朝礼の時間帯、昼の時間帯、15時頃の時間帯など1日に何回かラジオ体操を自宅でやってもらうという方法もあります。ラジオ体操を自宅でやるかどうかはもちろん社員次第ですが、意外にも息抜きにもなりますので、こうした方法を採り入れている企業では、多くの社員が実際に自宅でラジオ体操をして、長く続いているといった声が聞かれます。

(4)職場の一体感について

テレワークが毎日続いていると、自分は一体誰のために何をやっているのだろうという思いに駆られることがあります。会社に出社していた頃は、仕事帰りに同僚と会食をしたり、歓送迎会が開かれたり、毎朝の朝礼で仲間と顔を合わせたりと、無理なく仕事仲間とのつながりを感じることができていました。それが崩れ、組織としての一体感が無くなってきているという声がしばしば経営者などから聞かれます。
オンライン飲み会を企画する企業もありますが、あまり続いていない、あるいは評判が良くない印象を受けます。興味本位からまずはオンライン飲み会を開催してみるものの、居酒屋などと違って自宅では生活の延長にしか過ぎず、かつ自宅に同居家族がいれば、発言内容が家族に聞かれないようにと気を使わなければならず、非日常な空間ではないことが理由のようです。結果として、1回開催すればもういいということで2回目の開催がない企業は少なくないようです。
そもそも、テレワークで孤立を感じている点をもう少し紐解くと、同僚は何を考えて何をやっているのだろうという思いを抱いているようです。従って、まずは毎日全員が今日一日何をやったのか日報を書いてもらい、それを他の同僚も見ることができるようにすると同時に、上司も部下に対して毎日何らかのメッセージを出し続けることが第一歩として必要ではないかと考えます。日報も仕事のことのみならず、ちょっとしたプライベートのことを書いてもらったり、一日の感想を川柳で書いてもらうなどの仕掛けがあれば、お互いの日報を読むことで親近感がわいたり、その内容を元にコミュニケーションが生まれることもありますので、プラスαの仕掛けも有効です。加えて、上司はテレワークをしている者同士を組ませて仕事をさせるなどの工夫も必要で、テレワーク従事者を孤立させないよう、上司のマネジメント能力が強く求められます。

(5)通勤手当とテレワーク補助について

自宅でテレワークが続く場合、会社に出勤をすることがありませんので、通勤手当の必要性が問われます。テレワークを積極的に推進している企業では、通勤手当を廃止し、実際に出勤をした場合に後日実費精算をするといった方法も取り入れているようです。
他方で、自宅においての仕事が増えれば、社員の家庭において通信回線に要する費用や光熱費の増加につながり、どの程度それらを会社が負担をするのかという問題が発生します。
通勤手当については実際の出勤日数に合わせて支給するよう規則を修正し、合わせて、自宅における通信費用や光熱費などの増加分を補填するための在宅勤務手当を創設、在宅日数に合わせて日額で支給をするよう検討するのもよいでしょう。

(6)業務の生産性について

テレワークがなかなか進まない企業の理由の一つに生産性の問題が挙げられていることは、マスメディアによる報道においてもしばしば伝えられています。特に、紙を用いて仕事をしている割合が高ければ高いほど、テレワーク下では生産性が低下すると言われています。
テレワーク推進に伴って発生する業務の生産性の問題は良い機会と捉えて業務のやり方を抜本的に見直すべきです。昨今の押印廃止が典型例ですが、システム内にて社内決裁を完了する、契約書も電子化するなど、今やさまざまなサービスが用意されていますので積極的に活用しましょう。こうしたサービスの活用を進めることは、業務プロセスの見直しと標準化を進めることにもなり、○○の業務はAさんでなければわからない(できない)といった業務の属人化を排除することにもなるため、前向きに取り組むべきと考えます。

(7)人事評価制度運用について

テレワーク導入下では部下に対する人事評価がやりづらい、といった声もしばしば聞かれます。「積極性」「責任性」「規律性」「協調性」といった情意評価がテレワークによって十分に把握することができず、適切に人事評価ができないというわけです。
「○○ができる」といった能力面を測る評価項目についても、テレワークによって業務内容や遂行方法が変わり、従来の評価項目が適切でなくなっていることもあるでしょう。多くの企業がこの問題に対して困惑している状況です。
そもそも人事評価制度における評価項目は、部下にこうあってもらいたいというメッセージであり、例えば「協調性」という項目があれば、周りの社員と協調性を保って仕事をしてくださいということです。テレワークが日常の環境となっている現在、評価項目の見直しが必要であると同時に、出勤時と同レベルの状況把握ができるよう、部下とのコミュニケーションの方法や頻度について工夫が必要と考えます。

3.まとめ

テレワークを進めたものの、課題が多く元通りに戻ってしまった企業も少なくありません。一方でテレワークをさらに加速させている企業もあり、二極化がみられます。テレワークを推進することで、地方の優秀な人材の確保や、離職を予防し定着率の向上などの効果が期待できます。世の中の流れは確実に変わってきており、今後労働力人口が減少していくなかで、テレワークという働き方を受け入れながら柔軟に会社のあり方を考えていくことは時代の趨勢であると考えます。

【社会保険労務士法人 名南経営】

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。