第69回70歳までの就業確保措置と企業の実務対応

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、令和3年6月10日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

1.はじめに

少子高齢化の進展により労働力人口は減少しており、従業員の年齢構成の高齢化が多くの企業において経営課題のひとつとして論じられることが増えてきました。実際、飲食業や小売業といった従来では比較的若年層が多く働いていた職場においても、いわゆるシニア人材を活用している企業は少なくなく、今や高齢者の就労は当たり前の光景として日常生活に溶け込んでいます。
そうした環境の中、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下「高年齢者雇用安定法」という)の改正法が2021年4月1日に施行され、事業主に対し、労働者の70歳までの就業機会確保に向けた措置を講じること(努力義務)が求められるようになりました。

<図表1> 15~64歳人口及び総人口に占める割合の推移(平成元年~30年)
  • (出典)総務省統計局「統計トピックスNo.119 統計が語る平成のあゆみ」1.人口
    人口減少社会、少子高齢化
    https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1191.html

2.高年齢者雇用安定法の改正概要

今回の改正は、従来の65歳までの雇用義務を残しつつ、さらに70歳までの就業確保に努めることを求めるものです。要は、義務である「65歳までの雇用確保措置」に、努力義務として「70歳までの高年齢者就業確保措置」が加わったものであり、図表2<対象となる措置>の①~⑤のいずれかの対応に努めることが求められています。

<図表2> 高年齢者就業確保措置について
<図表2> 高年齢者就業確保措置について
  • (出典)厚生労働省「改正高年齢者雇用安定法が令和3年4月から施行されます」
    https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000694688.pdf

労働者が65歳を超えた場合には、直接雇用だけではなく他社雇用、さらには業務委託を含む何らかの方法で70歳まで働く場を用意するよう努力すること、としているため、「雇用確保措置」ではなく「就業確保措置」という新たな言葉が使用されています。ただし努力義務であり、未対応によって法律違反を問われることはありません。

3.70歳までの定年の引上げの対応

既に定年を65歳まで引き上げている企業があります。厚生労働省の「令和2年「高年齢者の雇用状況」集計結果」によると、企業全体の18.4%が65歳定年制としており、中小企業ほどその割合が高いことがわかります(図表3)。

<図表3> 65歳定年企業の状況
<図表3> 65歳定年企業の状況
  • (出典)厚生労働省「令和2年「高年齢者の雇用状況」集計結果を公表します」P6
    https://www.mhlw.go.jp/content/11703000/000715048.pdf

企業において、元気に生き生きと活躍している60歳超の方は少なくなく、しかも60歳前と同様の働き方を続ける方が多い現状を考えると、あえて定年が60歳である必要はなく、特に人材不足が顕著な中小企業においては65歳まで引き上げるということは自然な対応であると考えることもできます。
これをさらに70歳まで引き上げるということは、従業員にとっては大変な安心感がありますが、一般的に体力・能力の衰えが予想されるため、働き方と賃金額とのバランスをどう保つのかという賃金制度の在り方を整理しておかなければ混乱することが想定されます。また、退職金制度において、その支給方法が退職時の基本給を基礎額として計算する方法を採用している企業においては、設計方法によっては退職金額が増加し続けることになりますので、その点の対応も考えなければなりません。
さらに、定年を引き上げて雇用し続けることによって、主要なポストが空かずに後進が育たないといった組織風土上のリスクを考慮して、役職定年制の導入を検討することも必要でしょう。また、高年齢者の処遇を手厚くすることによって、これから会社を支えてくれる若年層の賃金原資を増大させられないという問題も想定されますので、定年を引き上げるにあたっては、さまざまな角度からの事前検討が大切です。

4.定年制の廃止についての対応

企業によっては、自社においてしっかりと仕事さえしてくれればよく、年齢は無関係との考えから定年制を廃止しているところもあります。確かに若くてもパフォーマンスの低い従業員もいれば、65歳でも高いパフォーマンスを発揮し続ける従業員もいます。そして、働き方と賃金の支払いの整合性を保つために、年功要素がなく職務内容と連動した賃金体系を用意し運用することで、従業員に対して納得感を高めることもできます。
しかしながら、経営者にとっては、定年制は雇用管理の区切りであり、何がしかのトラブルや問題を抱える従業員の役割や賃金をいったん見直すことができる機会でもあるため、組織や人事全体を刷新するにあたって都合がよいという考えもあります。従って、定年制を廃止することの是非については、慎重に検討したいところです。

5.70歳までの継続雇用制度の導入対応

今回の法改正においては、多くの企業が図表2における「③70歳までの継続雇用制度の導入」によって運用されるものと考えられます。この70歳までの継続雇用制度では、60歳の定年は維持しつつも65歳までは原則として希望者全員を雇用、または65歳の定年は維持した上で、65歳以降の雇用については何らかの基準を設定して、その基準を満たした従業員のみが70歳まで雇用されるという運用になります。
そうした雇用にあたっては、65歳までの雇用は自社や特殊関係事業主といわれる子会社や関係法人などにおいて雇用義務がありますが、65歳以降は他社における就業も適用対象となるため、取引先などに対して直接雇用をお願いするというケースも対象となります。
なお、今回の法改正によっていきなり70歳に引き上げるのではなく、組織面を考慮してまずは67歳までの継続雇用制度を設けて段階的に対応を引き上げていくということも認められておりますので、運用方法は柔軟に考えていきたいところです(図表4)。

<図表4> 継続雇用制度の段階的な対応
<図表4> 継続雇用制度の段階的な対応
  • (出典)厚生労働省「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)」
    https://www.mhlw.go.jp/content/11700000/000689973.pdf

65歳以降70歳までの間は、前述のとおり希望者全員を雇用しなければならないということではなく何らかの基準を満たした場合に雇用することになりますので、その基準の設定が必要となります。基準を設けたとしても対象者が一人も発生しないような高齢者を排除する目的が背景にあったり、公序良俗に反したりする内容は認められませんので注意しなければなりません。また、「会社が必要と認めた従業員に限る」といったような抽象的な基準は、基準がないことに等しいと厚生労働省のパンフレットにも不適切例として記載されていますので、その基準は可能な限り具体的に設定しなければなりません(図表5)。

<図表5> 留意すべき対象者の基準
<図表5> 留意すべき対象者の基準
  • (出典)厚生労働省「高年齢者雇用安定法改正の概要」P3
    https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000694689.pdf

6.70歳までの継続雇用制度における就業規則の定め方

70歳までの継続雇用制度を導入する場合、その基準を就業規則などに定めることになります。図表6の記載例をご参考にしてください。

<図表6> 就業規則などへの記載例

①既に65歳まで定年を延長している場合

第○条(定年)
  1. 1.従業員の定年は満65歳とし、定年に達した日の直後の賃金締切日をもって退職日とする。
  2. 2.定年到達者は、以下の基準を満たした場合に嘱託社員として1年間の雇用契約の更新によって継続雇用する。なお、会社における最大雇用年齢は、原則として70歳到達後の直後の賃金締切日までとする。
    1. (1)健康状態が良好で健康診断の結果において就労制限がない場合
    2. (2)過去1年間の間に病気療養などによる欠勤が30日以上ない場合
    3. (3)過去1年間に出勤停止以上の懲戒処分を受けていない場合
  3. 3.嘱託社員の処遇は、従業員の能力、体力、希望などを総合的に勘案して1年毎に決定する。

②定年は60歳で65歳まで希望者全員を雇用している場合

第○条(定年)
  1. 1.従業員の定年は満60歳とし、定年に達した日の直後の賃金締切日をもって退職日とする。
  2. 2.定年到達者については、本人が希望する場合には、65歳到達後の直後の賃金締切日まで嘱託社員として1年間の雇用契約の更新によって継続雇用する。
  3. 3.嘱託職員で65歳に到達した者は、以下の基準を満たした場合に70歳到達後の直後の賃金締切日までさらに1年間の雇用契約の更新によって継続雇用する。
    1. (1)健康状態が良好で健康診断の結果において就労制限がない場合
    2. (2)過去1年間の間に病気療養などによる欠勤が30日以上ない場合
    3. (3)過去1年間に出勤停止以上の懲戒処分を受けていない場合
  4. 4.嘱託社員の処遇は、従業員の能力、体力、希望などを総合的に勘案して1年毎に決定する。

(作成/社会保険労務士法人 名南経営)

なお、継続雇用にあたっての条件のひとつに過去の人事評価結果を設定したい場合もあるかと思います。例えば、「過去3年間の人事評価結果においてC評価以下がないこと」という記載をして運用する場合には、人事評価の結果が適切に本人にフィードバックされている必要があります。それが制度運用における客観性でもあり、人事評価結果が本人に知らされない状態で直前になって不該当であることを通知すれば、労使トラブルに発展する危険性があります。

7.「65歳超雇用推進助成金」の活用

65歳を超え70歳までの就業機会確保に向けて検討するにあたって、70歳までの継続雇用制度の導入や定年の延長、廃止を行う場合には、「65歳超雇用推進助成金」の活用を検討されることをおすすめします※1。この助成金には、次の三つのコースが用意されています。

  1. (1) 65歳超継続雇用促進コース
  2. (2) 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
  3. (3) 高年齢者無期雇用転換コース

このうち、「(1) 65歳超継続雇用促進コース」については図表7の通りであり、例えば、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入においては、最大で100万円受給できる場合があります。

<図表7> 65歳超継続雇用促進コース
  • (出典)厚生労働省「「65歳超雇用推進助成金」のご案内」
    https://www.mhlw.go.jp/content/000763756.pdf
  • ※1:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「高齢者雇用の支援 > 助成金」
    https://www.jeed.go.jp/elderly/subsidy/index.html

8.創業支援措置としての70歳までの業務委託などへの対応

今回の法改正においては、創業支援措置として、65歳以降は直接雇用をすることなく、対象者に対して業務委託、あるいは事業主自らが実施する社会貢献事業などへの参画によって就業の機会を与える方法も認められています。例えば、これまで従事してもらっていた業務を個人事業主となる元従業員に対して業務を委託するという方法です。
このような措置を導入する場合、対象者は本当に業務を委託してくれるのかという不安を抱えたり、不当な条件などで委託されるのではないかといった疑念を抱いたりすることがありますので、計画書を作成した上で過半数以上の労働組合などの同意を得ることが前提となります。

<図表8> 創業支援等措置を講じる場合の計画書の記載事項
<図表8> 創業支援等措置を講じる場合の計画書の記載事項
  • (出典)厚生労働省「高年齢者雇用安定法改正の概要」P9
    https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000694689.pdf

ただし、過半数以上の労働組合などの同意を得るとしても、労働組合などが十分な知識や情報を有していないことによって同意をしてしまうということも想定されます。同意があって計画書が策定されていればどのような委託方法であったとしても認められるわけではありませんので注意が必要です。
例えば、運送業界では業務委託を巡ってのトラブルが少なくなく、バイク便のライダーが業務委託として荷物を運んでいるのは労働者か委託業者か、といった労働裁判は複数存在しています。事故やけがなどの補償の問題において、業務委託であって直接雇用ではないので自社に責任はないという企業側のスタンスが、トラブルの要因となっています。今回の法改正では、厚生労働省が各都道府県労働局長に宛てた通達(図表9)において、創業支援等措置として不適正な方法がみられる場合には、措置の改善に向けての指導を行う旨が示されています。

<図表9> 通達「高年齢者雇用対策の推進について」
<図表9> 通達「高年齢者雇用対策の推進について」
  • (出典)厚生労働省「高年齢者雇用対策の推進について」(令和3年3月28日職発0326第10号)P5
    https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000761241.pdf

なお、労働者であるか委託業者であるのかの判断は、「仕事の依頼や業務従事の指示等に対しての諾否の有無」「業務遂行上の指揮監督の有無」「拘束性の有無」「代替性の有無」などによりされることになりますので、形式的に業務委託契約を締結したとしても労働者であることが少なくないのが現状です。

9.最後に

2021年4月、経済財政諮問会議において2021年の出生数が80万人を割るといった推計データが示されました。2020年の出生数が約87万人ですので約1割減となります。刻々と減少し続ける人口は、労働力人口の減少にも繋がり、企業間による人材争奪戦はますます激化することが想定されます。そういった背景を考えると、企業内において長期にわたって働き続けることができる環境を用意することは時代の趨勢であり、早い段階から人事戦略を考え、体制を整備していくことが必要であると思います。

【社会保険労務士法人 名南経営】

名南コンサルティングネットワークグループの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。