第71回男性の育休取得などを促進! ~育児・介護休業法改正~

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、令和3年8月6日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

1.はじめに

2020年5月29日に閣議決定された少子化社会対策大綱※1では、男性の育児休業取得率を2025年に30%にするとの数値目標を掲げています。一方、厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」によると図表1の通り2020年度における男性の育児休業取得率は12.65%でした。前回調査(2019年度7.48%)より大幅に増加しましたが、目標達成にはまだ程遠い状況です。
このような状況下、男性の育児休業取得などを促進するため「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」という)が改正され(2021年6月9日公布)、今後、順次施行されることになっています。

<図表1> 男性の育児休業取得率の推移
<図表1> 男性の育児休業取得率の推移
  • (出典)厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」P18
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r02/07.pdf
  • ※1:内閣府「少子化社会対策大綱」
    https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/law/taikou_r02.html

2.育児・介護休業法の改正概要

今回の改正の趣旨は、出産・育児などによる労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児などを両立できるようにするため、子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設、育児休業を取得しやすい雇用環境整備および労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付けなどの措置を講ずることとされています。
以下では、その中で、男性の育児休業に関連するものを中心に取り上げます。

(1) 出生時育児休業の創設

これは、男性の育児休業取得促進のため、男性の取得ニーズが高い子の出生直後の時期※2において、柔軟で取得しやすい新たな仕組み(出生時育児休業)として、現行の育児休業に加えて設けられました。具体的には、子の出生後8週間以内に4週間まで取得することができるようになります。
また、この出生時育児休業の回数は2回までとし、4週間を例えば2週間と2週間のように分けて取得することができます。申出期限については、原則休業の2週間前までとなっていますが、職場環境の整備などについて、「今回の制度見直しにより求められる義務を上回る取り組みの実施」を労使協定で定めている場合は、1カ月前までとすることができます。交替制勤務のようにシフトで勤務を決定しているような場合は、申出期限を2週間前とするとシフトの調整が難しいことから、労使協定を締結する形で対応することが望まれます。なお、「今回の制度見直しにより求められる義務を上回る取り組みの実施」の詳細については、今後、省令で示されます。

この出生時育児休業の大きな特徴として、現行の育児休業と異なり就業することができるという点があります。従来、育児休業中は、休業であることから就業することは不可とされてきましたが、男性の育児休業の取得を促進するにあたり、完全休業ではなく一部就業を可能とした方が育児休業を取得しやすいのではないかという考えから、今回の改正によって就業することができるとされました。ただし、就業にあたっては、労使協定の締結を必須とし、労働者の意向を踏まえて、事業主が必要に応じ事前に調整し、労働者と合意した範囲内で就業を認めることとし、以下のような手順を必要とします。

・労使協定の締結
  ↓
・労働者が就業しても良い場合は事業主にその条件を申出
  ↓
・事業主は、労働者が申し出た条件の範囲内で候補日・時間を提示
  ↓
・労働者が同意した範囲で就業

就業可能日などの上限として、休業期間中の労働日・所定労働時間の半分という基準を設ける予定で、今後省令で示されます。また、この出生時育児休業が育児休業給付の対象となるよう、雇用保険法上の手当ても行われることになっています。
この出生時育児休業の施行日は、2021年6月9日の公布日から1年6月を超えない範囲内の政令で定める日とされています※3

  • ※2:厚生労働省「男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集」P4
    「男性の育児休業取得時期」について、「男性・正社員」では、「末子の出産後8週間以内」が46.4%で最も回答割合が高い、と記されています。
    https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/000704768.pdf
  • ※3:2021年7月15日に開催された厚生労働省の第39回労働政策審議会 雇用環境・均等分科会【資料2-2】「育児・介護休業法の改正に伴う政令で定める施行期日(案)」にて、施行期日案は「2022年10月1日」とする、と掲げられています。
    https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/000806820.pdf

(2) 育児休業の分割取得

これは、男性の育児休業に限定するものではありませんが、出生直後の時期に限らず、その後も継続して夫婦でともに育児を担うことができるようにするため、夫婦交代で育児休業を取得しやすくするなどの観点から改正が行われました。
まず、1歳に満たない子について取得する育児休業(出生時育児休業を除く)について2回まで分割取得が可能となり、1歳以降の育児休業についても厚生労働省で定める特別の事情がある場合に再取得が可能となります。なお、育児休業の申し出が2回まで可能となることに伴い、現行のパパ休暇(子の出生後8週間以内に父親が育休取得した場合には再度取得可)に関する規定は削除されます。
次に、保育所に入所できないなどの理由により1歳以降も延長して育児休業を取得する場合、現行制度では延長した場合の育児休業の開始日が各期間(1歳から1歳6カ月、1歳6カ月から2歳)の初日に限定されているため、各期間の初日でなければ夫婦交代ができないように制限されていましたが、今後は開始日を柔軟化することで各期間途中でも夫婦交代が可能になります。
この育児休業の分割取得の施行日は、出生時育児休業の施行日と同じく、2021年6月9日の公布日から1年6月を超えない範囲内の政令で定める日とされています※3

新制度の出生時育児休業と育児休業の分割取得の改正による、改正前後の育児休業取得のイメージは図表2の通りです。

<図表2> 制度改正により実現できる働き方・休み方のイメージ
<図表2> 制度改正により実現できる働き方・休み方のイメージ
  • (出典)厚生労働省「男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集」P24
    https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/000704768.pdf

(3) 雇用環境整備と個別の周知・意向確認の義務化

新制度である出生時育児休業および現行の育児休業を取得しやすくするよう、雇用環境の整備が事業主に義務付けられました。具体的には、育児休業に関する研修の実施や相談窓口を設置するといった、複数の選択肢からいずれかを選択して雇用環境の整備を行わなければなりません。そのほか、短期はもとより1カ月以上の長期の休業の取得を希望する労働者が、その希望する期間を取得できるよう、事業主が配慮することを指針で示される予定です。
また、労働者または配偶者が妊娠・出産した旨の申し出をしたときに、その労働者に対し新制度や現行の育児休業制度などを周知し、これらの制度の取得意向を確認することが義務付けられました。現行制度では自社の育児休業制度を個別に周知させることが努力義務とされているのみでしたが、今回の改正により配偶者が今後出産する予定があると労働者が事業主に相談した場合、自社の育児休業制度(現行/新制度)を説明し、かつ、育児休業取得への声掛けを行う対応が義務として必要になります。

内閣府委託事業「男性の子育て目的の休暇取得に関する調査研究」(2019年9月)によると、末子の妊娠中から出生後2カ月以内の休暇について、配偶者出産休暇制度(制度)に加え、男性の育児休暇取得を促進する勤務先の取り組み(取組)や、男性の家事・育児に理解のある上司の有無(上司)で分類したところ、(制度)・(取組)・(上司)のうち二つ以上がそろっている職場では取得した者の割合が高い傾向にあります※4。会社や上司からの意向確認・声掛けという働きかけは、育児休暇取得への大きな推進力になると期待できます。
個別周知の方法については、面談での制度説明、書面などによる制度の情報提供などの複数の選択肢からいずれかを選択とする予定で、省令で示されます。また、取得意向の確認については、育児休業の取得を控えさせるような形での周知・意向確認を認めないことを指針で示される予定です。
この育児休業を取得しやすい雇用環境整備および妊娠・出産の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付けは、2022年4月1日より施行されます。今後の詳細情報を確認したうえで、早めに準備を進め、育児休業を控えさせるような誤った運用が行われないように、管理職向けの研修を検討しておくのも良いでしょう。

  • ※4:内閣府「男性の子育て目的の休暇取得に関する調査研究」
    3.調査結果のポイント(PDFファイルP18)3-2休暇を取得した父親の職場の特徴②
    https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/r01/zentai-pdf/index.html

(4) そのほかの改正概要について

上記のほか、次の改正がなされました。

①有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

有期雇用労働者の育児休業および介護休業の取得要件のうち「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件が廃止され、無期雇用労働者と同様の取り扱いになります。(育児休業の取得要件のうち「1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでない」という要件は継続されます。)ただし、労使協定を締結した場合には、無期雇用労働者と同様に、事業主に引き続き雇用された期間が1年未満である労働者を対象から除外することも可能となります。この取得要件の緩和は2022年4月1日より施行されます。

②育児休業取得状況の公表義務

常時雇用する労働者数が1,000人を超える事業主に対し、育児休業の取得の状況について公表が義務付けられ、2023年4月1日より施行されます。具体的な公表内容は、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等および育児目的休暇※5の取得率」であり省令で定められる予定です。

  • ※5:育児目的休暇とは、育児・介護休業法第24条に基づき、子どもが就学するまでの間、育児に関する目的で利用できる休暇制度を設けることを事業主の努力義務とした制度。それに対し、育児休業とは、育児・介護休業法第2条に基づき、子どもが1歳未満(最長で2歳未満)までに休業を取得できる労働者の権利。

3.両立支援等助成金(出生時両立支援コース)

男性労働者が育児休業や育児目的休暇を取得しやすい職場風土作りに取り組む事業主を支援するため助成金制度が設けられており、育児休業や育児目的休暇を取得した男性労働者が生じた場合に支給されます。2021年度の出生時両立支援コース助成金制度は図表3の通りです。

<図表3> 2021年度 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)※6

< > 内は、生産性要件※7を満たした場合の支給額

  中小企業※8 中小企業以外
1人目の育児休業取得※9 57万円<72万円> 28.5万円<36万円>
  個別支援加算 10万円<12万円> 5万円<6万円>
2人目以降の育児休業取得※10 a.育休5日以上: 14.25万円<18万円> b.育休14日以上: 23.75万円<30万円> c.育休1カ月以上: 33.25万円<42万円> a.育休14日以上: 14.25万円<18万円> b.育休1カ月以上: 23.75万円<30万円> c.育休2カ月以上: 33.25万円<42万円>
  個別支援加算 5万円<6万円> 2.5万円<3万円>
育児目的休暇の導入・利用※11 28.5万円<36万円> 14.25万円<18万円>
  • ※6:厚生労働省「両立支援等助成金のご案内(リーフレット)」
    https://www.mhlw.go.jp/content/000811565.pdf
    厚生労働省 支給要領「両立支援等助成金(出生時両立支援コース)」
    https://www.mhlw.go.jp/content/000792049.pdf
  • ※7:厚生労働省「労働生産性を向上させた事業所は労働関係助成金が割増されます」をご参照ください。
    https://www.mhlw.go.jp/content/000759761.pdf
  • ※8:「中小企業」の範囲は、<図表4>の「資本金の額・出資の総額」か「常時雇用する労働者の数」のいずれかを満たす事業主が該当します。

<図表4> 中小企業の範囲

産業分類 資本金の額・出資の総額 常時雇用する労働者の数
小売業(飲食店を含む) 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下
  • ※9:男性の育児休業取得者が初めて生じた事業主が対象。1事業主あたり1人目に対し1回限り支給。
  • ※10:男性の育児休業取得者が2人目以降の事業主が対象。1事業主あたり1年度10人まで支給。
  • ※11:1事業主1回限り支給。

それぞれの支給要件は次の通りです。

(1) 「1人目の育児休業取得」と「2人目以降の育児休業取得」の支給要件について

主な支給要件は、以下の①②のいずれもの要件を満たしていることが必要です。

①男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土作りの取り組みを行っていること

次のア~エのような、男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土作りの全社的な取り組み(いずれか一つで可)が全労働者に対して周知されていて、その取り組みが支給申請の対象となった男性労働者の雇用契約期間中に行われており、かつ、当該男性労働者の育児休業開始日の前日までに行っていることが必要です。

  1. ア.男性労働者の育児休業取得に関する研修の実施
  2. イ.男性労働者の育児休業制度の利用を促進するための資料配布など
  3. ウ.男性労働者の育児休業取得促進について企業トップなどから社内呼びかけ、および厚生労働省のイクメンプロジェクトサイト内の「イクボス宣言」や「イクメン企業宣言」による外部への発信
  4. エ.育児休業を取得した男性労働者の事例の収集および社内周知

②育児休業の取得

雇用保険被保険者として雇用する男性労働者に、次のア~ウのすべてを満たす育児休業を取得させることが必要です。

  1. ア.連続した14日以上(中小企業にあっては連続した5日以上)の育児休業であること
  2. イ.育児休業が、子の出生後8週間以内(子の出生日当日を含む57日間)に開始していること
  3. ウ.育児休業取得の直前および職場復帰時において在宅勤務している場合については、個別の労働者との取り決めではなく、在宅勤務規定を整備し、業務日報などにより勤務実態(勤務日・始業終業時刻)が確認できること

<個別支援加算>

男性労働者の育児休業の申出日までに個別面談を行うなど、育児休業の取得を後押しする取り組みを実施した場合に支給されます。

育児休業期間が5日以上14日未満の場合は所定労働日が4日以上、育児休業期間が14日以上の場合は所定労働日が9日以上含まれていることが必要です。また、育児休業等支援コース(育休取得時・職場復帰時)との併給はできませんので注意が必要です。

(2) 「育児目的休暇の導入・利用」の支給要件について

主な支給要件は、以下の①②③のいずれもの要件を満たしていることが必要です。

①育児目的休暇制度を新たに導入していること

育児目的休暇の制度を2018年4月1日以降新たに導入し、労働協約または就業規則への規定、労働者への周知を行っていることが必要です。

②男性労働者が育児目的休暇を取得しやすい職場風土作りの取り組みを行っていること

次のア~エのような、男性労働者が育児目的休暇を取得しやすい職場風土作りの全社的な取り組み(いずれか一つで可)が全労働者に対して周知されていて、その取り組みが支給申請の対象となった男性労働者の雇用期間中に行われており、かつ、当該男性労働者が当該休暇を取得する日より前に行っていることが必要です。

  1. ア.男性労働者の育児目的休暇取得についての研修の実施
  2. イ.男性労働者の育児目的休暇制度の利用を促進するための資料配布など
  3. ウ.男性労働者の育児目的休暇促進について企業トップなどから社内呼びかけ、および厚生労働省のイクメンプロジェクトサイト内の「イクボス宣言」や「イクメン企業宣言」による外部への発信
  4. エ.育児目的休暇を取得した男性労働者の事例収集および社内周知

③育児目的休暇の取得

次のア、イのいずれも満たしていることが必要です。

  1. ア.雇用保険被保険者として雇用する男性労働者が、子の出生前6週間から出生後8週間の期間中(出生日も含む)に、合計して8日以上(中小企業にあっては5日以上)の所定労働日に対する育児目的休暇を取得していること
  2. イ.育児目的休暇取得の直前および職場復帰時において在宅勤務で就業している場合については、個別の労働者との取決めではなく、在宅勤務規定を整備し、業務日報などにより勤務実態(勤務日・始業終業時刻)が確認できること

男性の育児休業を支援するための取り組みを実行し、この助成金制度の要件に該当する場合は、機会損失とならないよう、ぜひ活用しましょう。また、来年度以降の助成金制度については今後見直しが行われる可能性があるため、最新情報の確認が必要です。
なお、助成金の活用にあたっては、上記のほか細かな要件がありますので専門家に相談するなどして事前に詳細を確認しましょう。

4.最後に

新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点からテレワークが進むなどして働き方が変わり、これに伴い労働者も仕事と生活(家庭)とのバランスを考えるきっかけとなり、働くことへの意識の変化が現れるなどしています。
法改正により、より柔軟な育児休暇取得が可能になりますが、男性の育児休暇取得について、あまり前例のない企業では浸透するまで時間がかかるでしょう。労働者のニーズを拾いながら、企業として今後どのような取り組みをしていくのか、より積極的に検討していく必要があると考えます。

【社会保険労務士法人 名南経営】

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。