第78回選択的週休3日制の導入と運用ポイント

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、令和4年3月7日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

1.はじめに

企業規模を問わず、選択的週休3日制の導入が経営者や人事担当者の関心事となってきています。大手企業が導入を検討するというマスメディアによる報道があったり、中小企業においても率先して導入を始めたところも散見されたり、今までにない働き方が今後、広がっていくものと考えられます。
選択的週休3日制とは、希望する従業員に対して1週間に3日間の休日を付与するという制度で、2021年6月18日に閣議決定された、骨太方針2021といわれる「経済財政運営と改革の基本方針2021」※1において、働き方改革のフェーズⅡとして導入を促進し普及を図ると掲げられ、注目を集めるようになってきました。
働き方改革のフェーズⅠにおいては、労働時間の削減が目指され、残業時間の上限規制や、年次有給休暇の5日間の取得義務化など、法的義務を伴うハード面の改革によって実現されてきました。そしてフェーズⅡでは、ジョブ型雇用への転換を進めて従業員のやりがいを目指すというソフト面の改革へと舵が切られました。前述した骨太方針2021において選択的週休3日制について「育児・介護・ボランティアでの活用、地方兼業での活用などが考えられる」と説明されており、今後、多様な働き方の一つの形になると考えられます。

  • ※1:内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2021 日本の未来を拓く4つの原動力~グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策~」P23
    https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2021/2021_basicpolicies_ja.pdf

2.現在の状況

2021年3月に東京都産業労働局が公表した「働き方改革に関する実態調査(概要版)」(図表1)によれば、週休3日制を既に導入している企業割合は2.2%となっており、今後導入をしたい企業割合は5.9%です。一方、導入する予定はないと回答した企業割合は60.5%と過半数を占めており、他社の導入状況について様子見であったり、そもそもそうした制度自体を否定的に捉えていたりする企業も少なくないのが現状です。
しかし、従業員への調査によると今後導入して欲しい制度は、週休3日制が54.5%と最も多くなっています。現時点においては導入状況が十分ではないものの、週休3日制というキーワードがしばしば使われ始めたのが最近であることを考えますと、関心が高まっていることは事実であり、これから普及していくものと思われます。

<図表1> 多様で柔軟な働き方

<図表1> 多様で柔軟な働き方 1 <図表1> 多様で柔軟な働き方 2
  • (出典) 東京都産業労働局「働き方改革に関する実態調査(概要版)」P17-18
    https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/toukei/koyou/docs/gaiyou_hatarakikatakaikaku.pdf

3.選択的週休3日制の導入メリット

選択的週休3日制の導入の最大のメリットは人材の確保や定着にあります。
企業内を見渡しますと、さまざまな環境に置かれている従業員が少なくないのが実態です。例えば、従業員全体の平均年齢の上昇に伴い、がんをはじめさまざまな病気に罹患し、定期的な通院を必要とする従業員が増えてきた、親の介護のために働き方を制限する従業員が増えてきた、共働きでの育児のために今までのような勤務が困難になった従業員が増えてきた、などです。
働くにあたってのこのような制約事項は、始業時刻から終業時刻まで働いた上に恒常的な長時間残業が当たり前であった時代では離職要因となっていましたが、働き方改革の推進によって、仕事と生活とのバランスを図るという意識や機運が高まり、働き続けることができるようになってきています。さらに週休3日制で働くことが選択肢として加われば、従業員が離職せず働き続けられるチャンスがますます広がることでしょう。
また、求職者が週休3日制を導入している企業を優先して応募することも考えられ、現在働いている従業員のみならず、外部人材の確保という点でも有効な制度であると考えます。

4.選択的週休3日制の導入デメリットと対策

しかしながら、多くの従業員が週休3日によって働くようになれば、現場における労働力はその分不足をすることになりますので、企業側としてはコストアップに繋がることがあります。例えば、単純計算をすれば、1日8時間労働をして1週間に5日働いている従業員が100人いるとして、1日8時間労働で1週間に4日しか働かなくなると、同じ生産性で仕事をするのであれば125人の従業員で仕事を回す必要が生じ、増員のための採用費や人件費などの増加リスクが伴います。IT化を促進するなどによって生産性を高めたり、顧客サービスのあり方を見直したりといった対応は同時に検討しなければならない問題ですが、これらにも初期投資やその後の運用などにコストがかかります。制度の導入にあたり、さまざまなコストアップは経営面に影響が生じるのではないか、といった懸念材料の払拭は不可欠でしょう。
したがって、選択的週休3日制といった表現のとおり、すべての従業員に対して週休3日制という制度の門戸を開くのではなく、あくまでも希望者のみに限定する、さらには何らかの条件、例えば育児・介護・病気の場合に限定してスタートを切るという方法がまずは現実的なのではないかと考えます。限定的に人員を絞りながら運用し、徐々に対象を拡大していくと運用面の課題の修正も行いながら導入できますので、安定的な運用が実現できるのではないかと考えます。

5.選択的週休3日制の運用

(1) 労働時間や出勤日数

選択的週休3日制を導入する場合、今までのように1日8時間労働を維持しながら単純に休日を1日増やすという方法と、1日の労働時間を増やして休日を1日増やすという二つの方法が考えられます。前者の場合、仮に1週間の労働時間がこれまで40時間であった場合、週休3日制を導入することによって1週間32時間労働ということになりますので、処遇面を必然的に見直す必要があります。特に対象者が少ない場合においては、単純に32時間労働とした方が迅速な導入ができます。
一方で後者の場合、例えば、1日の労働時間を従来の8時間から10時間に変更することによって1週間の労働時間は40時間で維持できますので、処遇面の見直しは必要ないと考えることができます。
新聞報道などにおいて紹介されている大手企業は、従業員の対象母数が多いため処遇面の見直しが必要ない方がやりやすいためか、後者を選択しているケースが多いようです。
もっとも、1日の労働時間が10時間と設定することによって各日2時間の時間外労働が発生することになり、割増賃金といったコストアップ要因が発生することになります。この点を回避するには、必然的に1カ月単位の変形労働時間制を導入することを視野に入れることになります。
1カ月単位の変形労働時間制とは、1カ月以内の期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間以内になればよいという制度であり、あらかじめ労働日や労働時間を決めておくことで特定の日に8時間を超過したり、特定の週で40時間を超過したりしても、その時間についての割増賃金の支払いは不要となるため、業務の繁閑があらかじめわかっているような業界においては幅広く活用されています。
この制度の活用にあたっては、労使協定や就業規則などによって、起算日や各日の労働時間などを具体的に定めておく必要があり、その期間の労働時間を平均して1週間あたり40時間以内であることが求められます。図表2が厚生労働省で求められている要件一覧になりますが、導入を検討するのであれば、こられを参考に変形労働時間制の運用を考えていってもよいでしょう。

<図表2> 1カ月単位の変形労働時間制の要件

<図表2> 1カ月単位の変形労働時間制の要件
  • (出典) 厚生労働省「1箇月単位の変形労働時間制」導入の手引き
    https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/jikanka/ikkagetutani.pdf

(2) 兼業・副業との併用

兼業や副業について、厚生労働省が2020年11月にモデル就業規則※2においてそれを容認する内容を追記したことを契機に、企業においても兼業や副業を認める傾向が高まっていますが、選択的週休3日制の運用にあたっても、兼業や副業との兼ね合いの問題は検討しなければなりません。特に最近は、自身のプライベートな時間を活用して農業をしたり、趣味などで報酬を得たりというようなことに興味を示す人が増えており、より一層この対応については考えていく必要があります。
例えば、選択的週休3日制の導入に伴い兼業・副業を許可制から届出制として扱い、兼業や副業への自由度を高める、といった対応も考えられます。

  • ※2:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」P6-P8
    https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000695150.pdf

6.導入前の意向調査と試行導入

選択的週休3日制を導入した後に運用面に不都合が生じてしまっても、もはや後戻りができないとの懸念から、導入を躊躇している企業も少なくないのではないかと思います。
そのような場合には、従業員に対してあらかじめ意向調査を行った上で導入準備を進めるのも一手です。経営者側が良かれと思って制度を導入したものの配慮の着眼点が従業員側と異なり、想定外の運用トラブルが生じる可能性も否定できませんので、どのような点が不安であるのか、どういった制度であれば自社においては使いやすいのか、制度が用意されれば自分自身は使いたいと思うのかなど、さまざまな角度から事前調査を実施すれば、従業員の満足度を高める制度設計に有効です。
そして、意向調査を踏まえて設計された制度によって、まずは期間や部門、対象者などを限定するなどして試行的に導入し、それを活用してみた従業員から改めて使いやすさや課題などを抽出して解消策の検討を進めれば、導入後の混乱は最小限に抑制できるものと思います。

7.最後に

かつてのようなモーレツな働き方が時代錯誤となった今、IT系企業を中心に多様な働き方の導入が加速しています。週休3日制や、完全リモートワークで住む場所にこだわらないなど、さまざまな策を講じながら優秀な人材の確保や定着に繋げています。そうでもしないと時代のスピードに合わせた経営や業務ができないということですが、こうした問題はIT系企業に留まることなく、また企業規模を問わずすべての企業において考えていかなければならない問題ではないでしょうか。本文を参考に多様な労働力の確保という観点から多様な働き方の導入を改めてご検討いただければ幸いです。

【社会保険労務士法人 名南経営】

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。