第81回令和4年度雇用関係助成金を活用した雇用改善について

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、2022年6月1日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

1.コロナ禍により高まった雇用関係助成金への関心

新型コロナウイルス感染症の拡大により、多くの企業で休業が行われました。新型コロナウイルス感染症への感染が疑われる従業員を、企業側が自主的な判断で休業させるなど使用者の責に帰すべき事由により従業員を休業させる際には、労働基準法に基づき、平均賃金の6割以上の休業手当を支給する必要があります。売り上げが上がらない中、休業手当の支払いを行い、雇用を維持するというのは企業にとって非常に大きな負担となりますが、ここで多くの企業を救い、多くの雇用を守ったのが雇用調整助成金です。

雇用調整助成金は、景気の変動、産業構造の変化などの経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、休業、教育訓練、または出向によって、その雇用する労働者の雇用の維持を図る事業主に対して支給されるものです。この助成金の歴史は長く、そもそもは昭和50年に雇用調整給付金として創設され、これまで多くの経済環境の変化から雇用を守ってきました。コロナ禍以前では、リーマンショックの際にも多くの申請が行われましたが、過去の申請は製造業が中心であったのに対し、今回は飲食業や宿泊業なども含むさまざまな業種で、過去に例がない規模での申請が行われました。その結果、雇用関係助成金に対する認識が高まり、ほかにも活用できる助成金がないかと考える企業が増加しています。

そこで本稿では、今年度の雇用関係助成金を活用し、人事労務管理の改善を進めるための手法について取り上げます。

2.助成金制度の活用にあたっては、国の政策を意識しておくことが肝要

雇用関係助成金には、実に多くの制度が存在しますので、企業の経営者や担当者のみなさんが毎年度、その詳細情報を的確に把握し、申請を行うというのは現実的ではありません。よって、まず押さえていただきたいのは、人事労務管理分野における社会のトレンドです。

そもそも助成金は、国の政策を実現するために支給されるものです。雇用関連で言えば、以下のような政策が重要視されていることは、日常的に新聞を読むことなどにより、理解されているのではないでしょうか。

  • ● 雇用が不安定な非正規労働者の雇用の安定を進める
  • ● 少子化対策のために男性の育児参加を促進する
  • ● 業務の高度化に対応し、人材育成を強化する
  • ● 労働力人口減少の中、労働者を成長分野に移動させる
  • ● 障害者や高齢者など就職困難者の雇用を促進する など

雇用関係助成金はこうした政策課題の実現のために、プラスアルファの取り組みを行う企業を支援するために支給されるものです。よって、個別の助成金の詳細の内容を理解するよりも、国の政策を意識し、その方向性にあった取り組みを検討するような場合に、「もしかすると助成金が用意されているかも知れない」と気づくようにしておくと良いでしょう。

なお、以下は、厚生労働省が作成する冊子「令和4年度 雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版)」※1の中で見られる各種助成金の分類です。まずはこうした分野において助成金が設定されていることを頭の片隅に入れておくと良いと思います。

Ⅰ 雇⽤関係助成⾦

  • A 雇用維持関係の助成⾦
  • B 再就職⽀援関係の助成⾦
  • C 転職・再就職拡⼤⽀援関係の助成⾦
  • D 雇⼊れ関係の助成⾦
  • E 雇用環境整備等関係の助成⾦
  • F 両⽴⽀援等関係の助成⾦
  • G 人材開発関係の助成⾦

Ⅱ 労働条件等関係助成⾦

  • A ⽣産性向上等を通じた最低賃⾦の引上げ⽀援関係の助成⾦
  • B 労働時間等の設定改善の⽀援関係の助成⾦
  • C 受動喫煙防⽌対策の⽀援関係の助成⾦
  • D 産業保健活動の⽀援関係の助成⾦
  • E 安全な機械を導⼊するための補助⾦
  • F ⾼齢者の安全衛⽣確保対策の⽀援関係の補助⾦
  • G 溶接ヒュームに係るフィットテスト実施のための補助⾦
  • H 退職⾦制度の確⽴等の⽀援関係の助成⾦
  • ※1:https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000758206.pdf

3.今後重要となる人事労務関連の取り組みと活用できる助成金

ここからは、今後、多くの企業で重要となる次の四つのケースの人事労務関連の取り組みと、それを推進する際に活用できる助成金をご紹介します。

  1. 【ケース1】従業員の定着を促進するため、パートタイマーを正社員化する
  2. 【ケース2】従業員のレベルアップを図るため、計画的に教育訓練を実施する
  3. 【ケース3】増加が予想される男性の育児休業取得に向けた環境整備を実施する
  4. 【ケース4】高齢者雇用を促進し、65歳を超えても働くことができるようにする

【ケース1】従業員の定着を促進するため、パートタイマーを正社員化する

少子高齢化による労働力人口の減少もあり、深刻な人材難となっています。そこで既存従業員の定着を狙い、パートタイマーなどを正社員化する企業が増えています。こうした取り組みは、非正規従業員の雇用の安定化という点で、国の政策にも合致していることから、そのような取り組みを行う企業にはキャリアアップ助成金が支給されます。
キャリアアップ助成金の概要は次のとおりです。

(1) 助成金の概要

キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規従業員の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成する制度です。今回のケースでは、このうち、「正社員化コース」が活用できます。なお、それ以外にも「障害者正社員化コース」、非正規従業員の処遇改善支援を進める際に活用できる「賃金規定等改定コース」、「賃金規定等共通化コース」、「賞与・退職金制度導入コース」、「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」、「短時間労働者労働時間延長コース」が用意されています。

(2) 支給額

正社員化コースについては、以下の金額が支給されます。

(出典) 厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」P6(一部抜粋)
  • (出典) 厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」P6(一部抜粋)
    https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/000923177.pdf

支給申請上限人数は、①、②を合わせて、1年度1事業所当たり20人までとされています。そのほか、さまざまな加算の仕組みも用意されています。

詳細については次のパンフレットをご参照ください。

(出典) 厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」
  • (出典) 厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」
    https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/000923177.pdf

【ケース2】従業員のレベルアップを図るため、計画的に教育訓練を実施する

人材の採用が進まない中、既存人材のレベルアップは重要な課題です。またIT化・機械化などにより仕事の進め方も変化しており、それに対応するためには計画的に教育訓練を実施することが不可欠となっています。こうした取り組みは、労働者の能力向上による生産性の改善という点で、国の政策にも合致していることから、そのような取り組みを行う企業には人材開発支援助成金が支給されます。
人材開発支援助成金の概要は次のとおりです。

(1) 助成金の概要

人材開発支援助成金は、労働者の職業生活設計の全期間を通じて段階的かつ体系的な職業能力開発を効果的に促進するため、事業主などが雇用する労働者に対して職務に関連した専門的な知識および技能の習得をさせるための職業訓練などを計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。今回のケースでは、このうち、「特定訓練コース」、「一般訓練コース」が活用できますが、これら以外にも、「教育訓練休暇等付与コース」、「特別育成訓練コース」、「建設労働者認定訓練コース」、「建設労働者技能実習コース」、「障害者職業能力開発コース」、「人への投資促進コース」が用意されています。
なお、「特定訓練コース」と「一般訓練コース」の概要は下表のとおりとなっています。

特定訓練コース 労働生産性の向上に資する訓練、若年者に対する訓練など、効果が高い10時間以上の特定の訓練や、 OJTとOFF-JTを効果的に組み合わせた訓練として認定を受けた場合に助成するコース
一般訓練コース 職務に関連した知識・技能を習得させるための20時間以上のOFF-JT訓練を行った場合(特定訓練コースに該当するもの以外)に助成するコース

(2) 支給額

これら両コースについては、教育訓練の開催にあたって支出した経費、研修受講時間にかかる賃金などの一定割合が、以下の表に基づき、支給されます。

(出典) 厚生労働省「人材開発支援助成金(特定訓練コース・一般訓練コース)のご案内(詳細版)」
  • (出典) 厚生労働省「人材開発支援助成金(特定訓練コース・一般訓練コース)のご案内(詳細版)」P22(一部抜粋)
    https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000923538.pdf

詳細については次のパンフレットをご参照ください。

(出典) 厚生労働省「人材開発支援助成金(特定訓練コース・一般訓練コース)のご案内(詳細版)」
  • (出典) 厚生労働省「人材開発支援助成金(特定訓練コース・一般訓練コース)のご案内(詳細版)」
    https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000923538.pdf

【ケース3】増加が予想される男性の育児休業取得に向けた環境整備を実施する

近年、男性の育児休業取得率が年々高まっていますが、今年4月1日以降、改正育児介護休業法が段階的に施行され、10月1日には産後パパ育休という男性の育児休業取得促進のための制度が創設され施行されます。こうした環境を受け、今後、多くの男性従業員が育児休業を取得する社会になっていくことが予想されています。しかし、多くの職場ではそれを想定した対応策をあまり実施していないがゆえに、男性従業員が育児休業を取得しようとすると、業務の混乱や、場合によってはハラスメントの問題に繋がるような場面も見られます。しかし、共働きが一般化し、夫婦が共に家事や育児を分担するのが当たり前になっていることを勘案すれば、男性が普通に育児休業を取得できる環境を用意することは、従業員の採用・定着だけでなく、安定した顧客サービスの提供という点からも不可欠です。こうした取り組みは、一億総活躍社会を実現しようとする国の政策にも合致していることから、そのような取り組みを行う企業には両立支援等助成金が支給されます。
両立支援等助成金の概要は次のとおりです。

(1) 助成金の概要

両立支援等助成金は、職業生活と家庭生活が両立できる職場環境づくりのために、仕事と育児・介護の両立支援を実施した場合に、助成金が支給される制度です。今回のケースでは、このうち、「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」が活用できますが、これら以外にも、「介護離職防止支援コース」、「育児休業等支援コース」が用意されています。なお本助成金は中小企業のみが対象となりますので、ご注意ください。

出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)はさらに、次のとおり第1種と第2種に分かれています。

①第1種

男性従業員が育児休業を取得しやすい雇用環境整備の措置※2を複数実施するとともに、労使で合意された代替する労働者の残業抑制のための業務見直しなどが含まれた規定に基づく業務体制整備を行い、産後8週間以内に開始する連続5日以上の育児休業を取得させた中小事業主に支給されます。また、男性従業員の育児休業期間中に代替要員を新規雇用(派遣を含む)した場合には、代替要員加算が行われます。

②第2種

第1種助成金を受給した事業主が、男性従業員の育児休業取得率を3年以内に30%以上上昇させ、育児休業を取得した男性労働者が、第1種申請の対象となる労働者のほかに2名以上いる場合に支給されます。

  • ※2:雇用環境整備の措置とは、育児・介護休業法第22条第1項に規定される雇用環境整備に関する措置のうち、以下のいずれかを言います。
    ・雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施
    ・育児休業に関する相談体制の整備
    ・雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集および当該事例の提供
    ・雇用する労働者に対する育児休業に関する制度および育児休業の取得の促進に関する方針の周知

(2) 支給額

出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)の支給額は以下のとおりとなっています。

(出典) 厚生労働省「2022年度両立支援等助成金のご案内」P1(一部抜粋)
  • (出典) 厚生労働省「2022年度両立支援等助成金のご案内」P1(一部抜粋)
    https://www.mhlw.go.jp/content/000927607.pdf

詳細については次のパンフレットをご参照ください。

(出典) 厚生労働省「2022年度両立支援等助成金のご案内」
  • (出典) 厚生労働省「2022年度両立支援等助成金のご案内」
    https://www.mhlw.go.jp/content/000927607.pdf

【ケース4】高齢者雇用を促進し、65歳を超えても働くことができるようにする

採用難の中、65歳超えの高齢者雇用の促進を図る企業が増加しています。元気な高齢者が増加したことにより、この傾向は今後も続くことになるでしょう。また、令和3年4月には高年齢者雇用安定法が改正され、まだ努力義務ではありますが、70歳までの就業機会を確保することも企業に求められています。一億総活躍時代において、年齢に関わらず働くことができる社会を作ることは国の重要な政策であることから、このような取り組みを行う企業には65歳超雇用推進助成金が支給されます。

(1) 助成金の概要

65歳超雇用推進助成金は、高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことができる生涯現役社会を実現するため、65歳以上への定年引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備など、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して助成されるものであり、次の三つのコースから構成されています。
①65歳超継続雇用促進コース
②高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
③高年齢者無期雇用転換コース

今回のケースでは、このうち、「①65歳超継続雇用促進コース」が活用できます。具体的には、令和4年4月1日以降、以下のいずれかを実施した際に助成金が支給されます。
・65歳以上への定年引き上げ
・定年の定めの廃止
・希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
・他社による継続雇用制度の導入

(2) 支給額

この助成金の支給額は、定年引き上げなどの措置の内容や年齢の引き上げ幅などに応じて、下表のとおりとなっています。

(出典) 厚生労働省「令和4年度65歳超雇用推進助成金のご案内」P1(一部抜粋)
  • (出典) 厚生労働省「令和4年度65歳超雇用推進助成金のご案内」P1(一部抜粋)
    https://www.mhlw.go.jp/content/000763756.pdf

詳細については次のパンフレットをご参照ください。

(出典) 厚生労働省「令和4年度65歳超雇用推進助成金のご案内」
  • (出典) 厚生労働省「令和4年度65歳超雇用推進助成金のご案内」
    https://www.mhlw.go.jp/content/000763756.pdf

4.雇用関係助成金の情報を集めるためには

以上、最近の人事労務管理における重要な四つのケースに基づき、いま活用できる主要な助成金をご紹介しましたが、これら以外にもさまざまな雇用関係助成金が設けられています。それらの情報については、厚生労働省のホームページ※3で簡単に入手することができます。中でも、「令和4年度 雇用・労働分野の助成金のご案内(詳細版)」※4は全343ページと、かなりなボリュームにはなりますが、非常に参考になります。
また、実際に受給を検討する助成金が決まったら、「キャリアアップ助成金 厚生労働省」といったキーワードで検索をすると、その助成金に関する厚生労働省のページを見ることができます。そこでは、Q&Aや支給要領などのさらに詳細な情報を見ることができ、また申請様式もダウンロードできるようになっていますので、ぜひご活用ください。

  • ※3:厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html
  • ※4:厚生労働省「令和4年度 雇用・労働分野の助成金のご案内(詳細版)」
    https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000763045.pdf

5.最後に

このように助成金は、上手に活用すれば、企業の積極的な取り組みを後押しするものになりますので、人事労務管理の改善などを行う際には、活用できる助成金がないか調べてみることをお勧めします。

しかし、最近は助成金に関するトラブルも増加していることから、最後に一点、注意喚起をしておきます。近年、助成金の申請を代行する企業などからDMやFAXなどが多くの企業に届いているようです。そのようなDMには以下のようなキャッチフレーズがよく記載されています。
・簡単に、ノーリスクで助成金を受給できる
・返済不要の助成金を活用
・中小企業でも〇〇〇万円の助成金をゲット

これまで述べたとおり、基本的に助成金は、法律で定められている以上のプラスの取り組みを行う場合に支給されるものであり、なにもせずにお金だけがもらえるようなものではありません。また、不正受給の増加から調査も厳しくなっており、不正受給とされた場合には助成金の返還は当然として、社名公表や場合によっては書類送検などに至る事例も見られます。現実的には、こうした助成金代行会社に絡むトラブルも増加していますので、助成金活用の際には慎重に検討を行うことをお勧めします。昔から「儲け話にはウラがある」と言われますが、それはいまの時代も変わりません。ご注意ください。

【執筆者】

社会保険労務士法人 名南経営
 大津 章敬氏
 社会保険労務士法人 名南経営 代表社員
 株式会社名南経営コンサルティング 代表取締役副社長
 株式会社名南経営ホールディングス 取締役
 保有資格:社会保険労務士

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。