第86回外貨建取引と為替換算について

※この文章は、税理士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、2022年11月7日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問税理士などの専門家とご相談ください。

企業間での取引や個人の投資などで外貨建ての取引を行っていることも多いと思います。今進んでいる急激な円安は、年初に1ドル=115円前後であったものが、10月には一時1ドル=150円台を付けるまでになり、取引の環境は激変しています。
外貨建取引とは、その取引の支払いが、ドルやユーロのような外国通貨で行われる取引のことをいいます。円払いの取引は、たとえその取引契約書などに記載された金額が外国通貨によるものであったとしても、外貨建取引には該当しません。
外貨建取引を行った場合であっても、法人税や所得税の計算・申告・納付は日本円で行うことになりますので、そのためのルールが設けられています。本コラムでは、外貨建取引に関する税務上の取り扱いについて解説します。

1.法人が行った外貨建取引

(1) 期中に行った外貨建取引の為替換算

外貨建取引を日本円に換算する際には、「いつの」「どの相場により」換算するかが問題となります。
期中に行った外貨建取引については、原則として「その取引日」における電信売買相場の「仲値(TTM)」※1により換算することとされています。ただし、例外も認められています(図表1)。

「いつの」については、例外として、継続適用を要件として、取引日の属する月の前月末日・当月初日、取引日の属する週の前週末日・当週初日の相場や、ひと月以内の一定期間における相場の平均値を使用することができます。なお、前渡金や前受金のような、事前に支払ったり受け取ったりした金額については、その支払いや受け取り時の為替相場によることもできます。
また、「どの相場により」についても、例外として、こちらも継続適用を要件として、収益や資産については取引日の電信買相場(TTB)※1、費用や負債については電信売相場(TTS)※1によることも認められています。このほか、円を支出して外国通貨を購入後すぐにその外国通貨で支払いをしたり、外国通貨により支払いを受けてすぐに円にして受け入れたりした場合には、実際に支出したり受け入れたりした日本円の金額により、換算することもできます。

以後、本コラムでは、原則の取り扱いに則って処理を行っているものとして説明を行うことにします。

<図表1> 法人の期中取引の為替換算

いつの相場 使用する相場
[原則]取引日
[例外]前月末日・当月初日
[例外]前週末日・当週初日
[例外]前月平均・前週平均()など
[原則]電信売買相場の仲値(TTM)
[例外]収益・資産:電信買相場(TTB)
[例外]費用・負債:電信売相場(TTS)
  • )前月平均・前週平均の場合使用する相場は、ひと月以内の一定期間における電信売買相場の仲値(TTM)、電信買相場(TTB)または電信売相場(TTS)の平均値となります。

相場は日々変動しますので、売掛金や買掛金の発生時の相場と、その入金や支払の際の相場は異なることが通常です。 例えば1ドル=120円の時に100ドルの売上(売掛金)を計上し、1ドル=140円の時にその売掛金が入金されたものとします。すると、当初の売掛金12,000円(120円×100ドル)に対して、14,000円(140円×100ドル)が入金されたとして処理されます。この差額2,000円(14,000円-12,000円)は、為替差益として法人の利益となります。

  • ※1:仲値(TTM)とは、金融機関が当日の東京外国為替市場を基準にして決める基準値で、電信売相場(TTS)と電信買相場(TTB)の平均値となります。電信売相場(TTS)とは、金融機関で円を外貨に交換する際に適用される為替レートで仲値(TTM)に手数料を上乗せしたレートです。電信買相場(TTB)とは、金融機関で外貨を円に交換する際に適用される為替レートで仲値(TTM)から手数料を差し引いたレートです。
     TTM=Telegraphic Transfer Middle Rate
     TTS=Telegraphic Transfer Selling Rate
     TTB=Telegraphic Transfer Buying Rate

(2) 期末に存在する外貨建の資産・負債の為替換算

期中取引の結果生じた外貨建資産・負債が期末に残っている場合、その外貨建資産・負債は「発生時換算法」または「期末時換算法」のいずれかにより評価することになります。

発生時換算法は、期末時において有する外貨建資産・負債について、その外貨建資産・負債の取得または発生の基因となった外貨建取引の円換算に用いた外国為替の売買相場により換算した金額を期末時における円換算額とする方法です。原則として、前述した(1)の金額と同額となります。
期末時換算法は、期末時において有する外貨建資産・負債について、その期末時における外国為替の売買相場により換算した金額を期末時における円換算額とする方法です。したがって、(1)の金額との差額について、為替差損益が発生することになります。
また、例外として、(1)と同じように、継続適用を要件として、資産については電信買相場(TTB)により、負債については電信売相場(TTS)により換算することができます。

発生時換算法と期末時換算法は、外貨建資産・負債の種類によって、いずれか一方しか適用できないものもあれば、法人がどちらかを選択できるものがあります。どちらかを選択することができるものについては、どちらを選択するのか税務署に届け出る必要があります。届け出た換算方法については、届け出た換算方法の採用から3年経過した後に、合理的な理由があるときは変更申請を行うことができます。

<図表2> 期末の外貨建資産・負債の換算方法

外貨建資産・負債の種類 換算方法
発生時換算法 期末時換算法
債権・債務 1年以内に支払期限の到来するもの
上記以外
有価証券 売買目的有価証券 ×
償還期限・償還金額の定めのあるもの
上記以外 ×
預金 1年以内に満期日の到来するもの
上記以外
通貨 ×
  • (注)◎:法定換算方法(換算方法を届け出ていない場合に採用される換算方法)
    ○:選択可能な換算方法
    ●:他方が選択不可能な換算方法
    ×:選択不可能な換算方法

2.個人が行った外貨建取引

(1) 外貨建取引の為替換算

個人には、法人と異なり、所得区分が存在しますので取り扱いが若干異なります。
個人の外貨建取引も原則として適用される為替相場は、取引日における電信売買相場の仲値(TTM)です。
取引日については、不動産所得、事業所得、山林所得または雑所得の計算において、例外として、継続適用を要件として、取引日の属する月の前月末日・当月初日、取引日の属する週の前週末日・当週初日の相場や、ひと月以内の一定期間における相場の平均値を使用することができます。このほか、外国通貨表示によって、損益計算書または収支内訳書を作成している場合には、継続適用を条件として、年末における為替相場、年間の平均値による為替相場により換算することも認められています。
また、不動産所得、事業所得、山林所得または雑所得の計算において、継続適用を要件に、収益や資産については取引日の電信買相場(TTB)、費用や負債については電信売相場(TTS)によることも認められています。

個人については、年末の外貨建資産・負債について為替換算による為替差損益を認識するということはありません。
なお、株式など有価証券の譲渡を外貨建てで行う場合には、原則として、収入金額については譲渡の約定日における電信買相場(TTB)により換算し、譲渡所得を計算する際の取得費については、取得の約定日の電信売相場(TTS)により行います。

<図表3> 個人の期中取引の為替換算

【有価証券の譲渡所得の計算の場合】

いつの相場 使用する相場
譲渡対価の額:譲渡の約定日
取得費の額:取得の約定日
譲渡対価の額:電信買相場(TTB)
取得費の額:電信売相場(TTS)

【有価証券の譲渡所得の計算以外の場合】

いつの相場 使用する相場
[原則]取引日
[例外]前月末日・当月初日
[例外]前週末日・当週初日
[例外]前月平均・前週平均()など
[原則]電信売買相場の仲値(TTM)
[例外]収益・資産:電信買相場(TTB)
[例外]費用・負債:電信売相場(TTS)
  • )前月平均・前週平均の場合使用する相場は、ひと月以内の一定期間における電信売買相場の仲値(TTM)、電信買相場(TTB)または電信売相場(TTS)の平均値となります。

(2) 外貨建預金・外国通貨の為替差損益の認識

個人が外貨建預金により貸付用の建物を購入した場合や、外貨建預金により外貨建MMFに投資した場合には、その外貨建預金の預入時の為替相場と外貨建建物や外貨建MMFの取得時の為替相場との差額については、為替差益を所得として認識する必要があります。
また、外国通貨を他の外国通貨に交換する場合、例えば、ドルからユーロに交換する場合にも、元の外国通貨の取得時の為替相場による円換算額と新たな外国通貨への交換時の為替相場による円換算額との差額については、為替差益を認識する必要があります。一方、ドル通貨をドル預金にする場合や、金融機関にあるドル預金を別の金融機関のドル預金とする場合などには、為替差益を所得として認識する必要はありません。

以上、外貨建取引の取扱いについて簡単に解説しました。
例年であれば、為替差益の金額はほとんど発生していないか、あるいは発生していても少額であるケースがほとんどでしたが、今年は円安の影響で、金額が大きくなるケースが想定されます。法人では、期末換算により、想定外の所得・納税が発生する可能性もあるため、あらかじめ自社の影響を把握しておいた方がよいでしょう。また、個人の為替差益については、雑所得の金額として確定申告を行う必要があります。特に個人の場合には、過去の外国通貨や外貨預金の取得時の情報が把握しづらいことが多いですので、該当する方は事前に顧問税理士などの専門家に相談しておくことをお勧めします。

【執筆者】

税理士法人名南経営  税理士 鷹取 俊浩氏

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。