第87回社会の変化で見直しが進められる家族手当の新潮流

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、令和4年11月18日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

1.多くの企業で導入されている家族手当 その内容と平均支給額

通常、企業の賃金制度は、基本給と諸手当から構成されていますが、その中でも導入率が高い手当が家族手当です。家族手当とは、扶養家族がいる従業員に対して企業が支給する手当全般を指し、そのうち、配偶者がいる従業員に支給される手当のことを配偶者手当といいます。

人事院の「令和3年職種別民間給与実態調査の結果」※1によれば、家族手当の導入状況は以下のようになっており、4社に3社の割合で採用されていることがわかります。

  • ●家族手当制度がある企業は74.1%
  • ●家族手当制度がある企業のうち、配偶者に家族手当を支給しているのは74.5%
  • ●配偶者に家族手当を支給している企業のうち、配偶者の年収による制限がある企業は86.7%。収入制限の額は、103万円が45.4%、130万円が36.9%。

家族手当の中小企業における平均支給額は、東京都を例にとりますと図表1のように配偶者が概ね月額10,000円、子どもが概ね月額5,000円程度となっています。

<図表1> 家族手当の平均支給額

<図表1> 家族手当の平均支給額
  • (出典) 東京都産業労働局「中小企業の賃金事情(令和3年版)」P19 Ⅱ調査結果の概要 2.賃金事情
    https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/toukei/koyou/chingin/r3/index.html
  • ※1:人事院「令和3年職種別民間給与実態調査の結果」3手当の支給状況
    表12 家族手当の支給状況及び配偶者の収入による制限の状況
    https://www.jinji.go.jp/kyuuyo/minn/minnhp/minR03_index.html

2.従来型の家族手当の問題点

このように多くの企業で導入されている家族手当ですが、近年の社会環境の変化によりさまざまな課題が出てきています。

図表2のグラフは、1980年以降の勤労者世帯における専業主婦世帯数(男性雇用者の無業の妻から成る世帯)と、共働き世帯数の推移を表したものです。1980年には614万世帯の共働き世帯に対して、専業主婦世帯は1,114万世帯と、専業主婦世帯が圧倒的に多くなっていました。しかし、その後、その両者の数値は接近し、1990年代には拮抗、2000年代以降は逆転し、共働き世帯が年々増加しました。そして直近の調査である令和3年の結果を見ると、専業主婦世帯が566万世帯まで減少したのに対し、共働き世帯は1,247万世帯まで増加し、グラフは1980年と真逆の形に変化しています。

<図表2> 専業主婦世帯数と共働き世帯数の推移

<図表2> 専業主婦世帯数と共働き世帯数の推移
  • (出典) 内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年版」共働き世帯数と専業主婦世帯数の推移
    https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo02-15.html

かつて我が国の中心であった専業主婦世帯の状況は、サザエさんをイメージするとよいでしょう。夫(波平さん・マスオさん)のシングルインカムで家族を養い、妻(フネさん・サザエさん)は専業主婦として家事や育児を行っているわけです。この家族の形であれば、仕事をせず、専業主婦として夫、そして家庭を支える妻(配偶者)に対して手当を支給するということに一定の意味はあったと考えられます。

しかし、時代は変わりました。いまでは夫婦ともに正社員として働き、育児休業などを取得することで、仕事と育児の両立を図ることが当たり前の時代になっています。その結果、長年、我が国の女性労働の課題と言われていたM字カーブ(結婚・子育て期に女性が仕事を離れ、労働力率が低下し、子育てが終わると再び仕事を始めることでそのカーブがアルファベットのMの形になるという問題)もほぼ解消しています(図表3)。

<図表3> 女性の年齢階級別労働力率(M字カーブ)の推移

<図表3> 女性の年齢階級別労働力率(M字カーブ)の推移
  • (出典) 内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年版」女性の年齢階級別労働力率(M字カーブ)の推移
    https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo02-04.html

このような環境変化が見られる中では、家族手当の意味合いも大きく変わっていきます。ここからは、特に配偶者手当について考えてみます。
1.で「配偶者に家族手当を支給している企業のうち、配偶者の年収による制限がある企業は86.7%。収入制限の額は、103万円が45.4%、130万円が36.9%。」というデータを紹介しました。多くの企業で配偶者手当を受給できるのは、その収入が130万円以下の配偶者に限られるという要件が設けられている以上、夫婦共働きの多くの世帯では配偶者手当を受給することができません。そのため、家族手当の対象から配偶者を外し、その原資を子どもの手当てに振り向けるような事例が増加しています。

3.政府も配偶者手当の見直しを求める時代に

一方、政府も女性活躍推進の観点から、企業に配偶者手当の見直しを求めています。それは配偶者手当の収入要件が女性の就業調整の原因となっているためです。

少子化によって労働力人口が減少する中、政府としては1億総活躍社会の実現を目指していますが、そのためには女性がフルタイムで働くことができるような環境作りが重要となっています。しかし、現実にはフルタイムで働き、収入が一定額を超えると税制や社会保障の面で不利になってしまうことに加え、「配偶者手当がもらえなくなる」ために就業調整を行うという回答が23.4%に上っています(図表4)。

<図表4> 女性パートタイム労働者の就業調整の理由

<図表4> 女性パートタイム労働者の就業調整の理由
  • (出典) 厚生労働省「「配偶者手当」の在り方の検討に向けて
    ~配偶者手当の在り方の検討に関し考慮すべき事項~(実務資料編)令和3年1月改訂版 P3
    https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000713579.pdf

政府は、「経済の好循環の継続に向けた政労使の取組について(平成26年12月16日)」※2の中で、「配偶者手当についても、官の見直しの検討とあわせて、労使は、その在り方の検討を進める」という方針を示し、それを受けて、厚生労働省では「配偶者手当の在り方の検討に関し考慮すべき事項(平成28年5月9日基発0509第1号)」※3という通達を発出しました。この中では、配偶者の収入要件がある「配偶者手当」について、配偶者の働き方に中立的な制度となるよう見直しを進めることが求められています。

  • ※2:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/seirousi/26-4th/siryo2.pdf
  • ※3:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000123902.pdf

4.家族手当見直しの方向性と手順

実際に家族手当の見直しを行う際には、次のABのような方法が考えらます。

A. 家族手当の廃止・縮小

家族手当制度自体を廃止・縮小するという方法です。
その際、総額原資は保証し、全従業員の基本給ベースアップなどを行うことが一般的です。

B. 配偶者手当の廃止・縮小

配偶者手当を廃止・縮小し、その原資を子どもへの手当の増額や基本給ベースアップなどに振り向けるという方法です。
子どもの手当については単純に増額するという方法もありますが、子どもの医療費や公立学校の学費無償化などが進められる中、本当に苦しいのは大学生の学費などと言われることが多くなっています。そのため、例えば大学生の4年間限定で月額2万円など比較的高額な子女教育手当を設定し、重点的に支援するという方法も考えられます。また従来は高校卒業までとしていた支給期間を、大学卒業まで延長するという事例も多く見られます。そのほか、配偶者10,000円、子ども5,000円という支給基準を、第一扶養10,000円、第二扶養5,000円と改定することで、配偶者が扶養の範囲を外れている場合には、子どもが第一扶養となり、10,000円の手当を支給できるようにするという方法も考えられます。

このほかにもさまざまな方法が考えられますが、実際の検討の際には、以下のような流れで進めていくことが重要です。

① 従業員の生活扶助を行うのか否かのコンセプトの立案

そもそも労働契約とは、労務の提供に対して、対価である賃金を支払うという契約ですから、本来は労務提供と直接関係がない家族手当を支給する必要はありません。しかし、従業員に対して一定の生活扶助を行うことによって、その生活の安定を実現し、企業に対するロイヤルティを高めることを狙い、多くの企業では家族手当を支給してきました。これまで見てきたような環境変化の中、今後、家族手当の廃止・縮小の方法を選択するのか否か、どのような方針で行くのかを議論します。

② 対象家族の検討

議論の結果、企業は従業員の生活扶助を行うという方針により、家族手当を存続する場合には、どのような家族を対象として支援を行うのかを検討します。配偶者手当の廃止・縮小は基本路線とし、それを原資として、子どもについて増額を行うのか、介護・障害など対象者を拡大するのか、それとも手当の拡充ではなく基本給のベースアップを行うのかなどについて議論します。

③ 新制度案の作成とコスト試算

以上の検討により方向性が決まれば、新制度の案を作成し、そのコストを試算します。配偶者手当は支給要件を満たす限り、年齢に関わらず、定年まで支給されるのに対し、子ども手当は18歳までなど年齢上限が設定され、支給期間が配偶者よりも短くなることが通例ですので、制度変更によってコストがどのように増減するのかを試算しておく必要があります。

④ 移行措置の検討

家族手当の見直しの際には、その基準変更により有利になる従業員と不利になる従業員が出てしまいます。例えば、配偶者手当を廃止し、その原資で子ども手当の支給額を引き上げる場合、子どもがすでに学校を卒業し、就職をしているベテラン従業員にとっては、単に配偶者手当が廃止されるだけでメリットはないとなりがちです。これは時代の変化に合わせた企業の方針の見直しですので仕方のない部分はありますが、少なくとも当該従業員への十分な説明と数年間の移行措置の実施は検討したいところです。

このように家族手当の見直しは、多くの従業員に影響が出ることから、労働組合や従業員代表などと十分にコミュニケーションを取り、その納得を得ながら進めることが重要です。

5.家族手当改定事例

それでは以下では、厚生労働省の「配偶者手当の在り方の検討に向けて(実務資料編)」の中から、民間企業の家族手当改定事例の中で、大手製造業の事例をご紹介しましょう。

<図表5> 配偶者手当が廃止された事例

項目 内容
業種 製造業
従業員数 1万人以上
見直しの
背景・経過
  • ●若手から65歳まで成長・活躍し続けるための人事・処遇制度全般の見直しの一環として、それまで扶養家族の生活費補填として設けられていた家族手当について、フラットに見直しを検討。
  • ●従業員の家族の在り方などの変化を踏まえ、子育て・介護・障害者などに対する手当へと見直すことについて、約1年間の話し合いを経て、労使合意。
見直しの
ポイント
  • ●社員の「子どもの教育費・親の介護」などに対する不安を軽減し、安心して仕事に集中できるよう、より対応の必要性の高い家族を対象とした手当へと、見直しの前後で原資の総額の増減がないよう見直し。
  • ●労働組合は、見直しの方向性について理解を示し、大きな異論はなかったものの、見直しにより支給額が減る社員に対する最大限の配慮を会社に求め、5年間の経過措置を設けた。
  • ●労使の話し合いの内容を随時周知するとともに、労使合意後は、社内イントラネットへの掲載、上司・組合からの説明などを実施。
  見直し前の内容 見直し後の内容
対象家族
  • ●配偶者
  • ●18歳未満の子
  • ●障害を有する本人の親族など
    (いずれも税制上の控除対象扶養親族
    (配偶者は年収103万円未満))
  • ●18歳未満の子
  • ●障害を有する「本人・配偶者の親族」
    (税制上の控除対象扶養親族)
  • ●介護を要する「本人・配偶者の親族」
支給額 対象家族1人当たり約2万円
(2人目以降は減額、人数に上限なし)
対象家族1人当たり約2万円
(人数に上限なし)
  • (出典) 厚生労働省「「配偶者手当」の在り方の検討に向けて
    ~配偶者手当の在り方の検討に関し考慮すべき事項~(実務資料編)令和3年1月改訂版 P36
    (一部加工)
    https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000713579.pdf

制度改定前後を比較すると、対象家族について、配偶者が外れていますが、「介護を要する親族」が追加され、その親族の範囲は配偶者の親族にも拡大されています。その上で、従来、二人目以降の手当が減額されていたものを対象家族一人当たり20,000円に引き上げています。
これは文字通り、近年の勤労者世帯のニーズの変化に対応した内容となっています。つまり、共働き世帯の増加に対応し、配偶者手当を廃止する代わりに、多くの家庭において最大の不安要因である「子どもの教育費・親の介護」に対して重点的に支援を行うという内容になっているのです。
またその改定においては、約1年間の話し合いを経て労働組合と合意し、制度移行においても5年間の経過措置を取るという家族手当改革の見本のような対応がなされており、参考になります。

なお、厚生労働省の本資料では、この大手製造業以外にも全18社の家族手当改定事例が掲載されていますので、参考にされるとよいでしょう(図表6)。

<図表6> 見直しが実施された企業事例一覧

<図表6> 見直しが実施された企業事例一覧
  • (出典) 厚生労働省「「配偶者手当」の在り方の検討に向けて
    ~配偶者手当の在り方の検討に関し考慮すべき事項~(実務資料編)令和3年1月改訂版 P30
    https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000713579.pdf

6.最後に

今回は、家族手当の中でも配偶者手当の見直しの動きについて取り上げましたが、家族手当についてはいわゆる同一労働同一賃金の問題にも対応することが求められており、さらには一人世帯や子供のいない世帯の社員の意識も考慮しなくてはなりません。それを契機として、制度廃止も含め、家族手当そのものの在り方を見直す企業も増えつつあります。

今回見てきたように、さまざまな環境変化によって、いまや家族手当はターニングポイントにあります。この機会に、家族手当見直しの議論から、自社の賃金システムの課題について検討してみてはいかがでしょうか。

【執筆者】

社会保険労務士法人 名南経営
 大津 章敬氏
 社会保険労務士法人 名南経営 代表社員
 株式会社名南経営コンサルティング 代表取締役副社長
 株式会社名南経営ホールディングス 取締役
 保有資格:社会保険労務士

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。