第97回令和6年度 税制改正要望について
※この文章は、税理士法人 名南経営によるものです。
※この文章は、令和5年10月1日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問税理士などの専門家とご相談ください。
1.毎年の税制改正の流れ
例年8月末までに各府省庁から国税は財務省、地方税は総務省に改正要望が提出され、内閣総理大臣の諮問機関である政府の「税制調査会」が中長期的な提言を11月ごろに行います。それを踏まえて与党の「税制調査会」が具体的な税制改正の内容を決定し、12月中旬に「税制改正大綱」にまとめます。「税制改正大綱」には、与党の方針や考えも記載されているため、税制改正の全体像だけでなく、改正の趣旨なども読み取ることができます。その後政府においてほぼ同様の内容で「税制改正の大綱」が閣議決定され、税制改正法案が1月中旬から2月上旬までに国会に法律案として提出され、3月末までに成立・交付されます。通常は4月1日から新しい制度が施行されることになります。なお、令和5年度税制改正の実際の流れは、図表1のとおりでした。
<図表1> 令和5年度税制改正の流れ
令和4年8月31日 | 各府省庁が令和5年度税制改正要望を財務省・総務省に提出 |
令和4年12月16日 | 与党が「令和5年度税制改正大綱」を公表 |
令和4年12月23日 | 政府が「令和5年度税制改正の大綱」を閣議決定 |
令和5年2月3日 | 「所得税法等の一部を改正する法律案」を国会に提出 |
令和5年3月28日 | 「所得税法等の一部を改正する法律」の可決・成立 |
令和5年3月31日 | 「所得税法等の一部を改正する法律」と関連政省令の公布 |
令和5年4月1日 | 「所得税法等の一部を改正する法律」と関連政省令の施行 |
2.経済産業省「令和6年度税制改正要望」のポイント
令和5年8月31日に経済産業省から「令和6年度経済産業省税制改正要望について」※1が公表されました。経済産業省からの要望の中から中小企業の経営者が注目すべき項目について解説します。
- ※1:https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2024/zeisei_r/index.html
①中小企業優遇税制の延長・拡充
中小企業優遇税制のうち、令和6年3月31日がその適用期限となっているものについて、図表2に示すとおり、適用期限の延長や内容の拡充の要望がなされています。
<図表2> 中小企業の優遇税制の延長・見直し要望
項目 | 現行税制の概要 | 要望 |
---|---|---|
中小法人※2の交際費課税の特例 | 中小法人※2の令和6年3月31日までに開始する事業年度の交際費について、年間800万円まで損金算入が可能 | 2年延長 |
中小企業者等※3の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 | 青色申告書を提出する従業員500人以下の中小企業者等※3が令和6年3月31日までに取得などし、事業の用に供した取得価額30万円未満の減価償却資産について年間300万円を限度として取得価額の全額を損金算入することが可能 | 2年延長 |
中小企業事業再編投資損失準備金 | 青色申告書を提出する中小企業者※4のうち、令和6年3月31日までの間に事業承継等事前調査に関する事項が記載された経営力向上計画の認定を受けたものが、その経営力向上計画に従って他の法人の株式などの取得をし、かつ、これを事業年度末まで引き続き有している場合において、株式などの取得価額として計上する金額の一定割合の金額を準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額はその事業年度において損金算入することが可能(5年経過後に5年間で取り崩して益金算入) | 3年延長 手続について所要の見直し |
- ※2:現行税制における中小法人とは、普通法人のうち各事業年度終了の時において資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の法人または資本もしくは出資を有しない法人のことをいいます。詳しくは、中小企業庁「中小企業税制パンフレット 令和5年度版」P6をご参照ください。
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/pamphlet/zeisei_r5.pdf - ※3:現行税制における中小企業者等とは、資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人、資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人、常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主などをいいます。詳しくは、中小企業庁「中小企業税制パンフレット 令和5年度版」P23をご参照ください。
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/pamphlet/zeisei_r5.pdf - ※4:現行税制における中小企業者とは、資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人、資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人などをいいます。詳しくは、中小企業庁「中小企業税制パンフレット 令和5年度版」P61をご参照ください。
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/pamphlet/zeisei_r5.pdf
②法人版・個人版事業承継税制の見直しおよび延長
法人版事業承継税制(特例措置)は令和9年12月末まで、個人版事業承継税制は令和10年12月末までの贈与・相続が対象ですが、その前提となる特例承継計画の提出期限は、法人版事業承継税制がコロナ禍の影響で、令和4年度税制改正において1年延長された結果、どちらも令和6年3月末までとなっています。しかし、その後も物価高騰などの影響もあり、事業承継の具体的な検討が遅れている状況があるのではないかと考えられています。そのため、制度の適用期限はそのままですが、前提となる特例承継計画の提出期限について、延長を行うとともに、事業承継税制の適用期間における事業承継の取組なども踏まえ、円滑な事業承継の実施のために必要な措置について検討することとされています。
<図表3> 現行制度における事業承継税制に係る手続
- (出典) 経済産業省「令和6年度税制改正に関する経済産業省要望【概要】」P28
https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2024/zeisei_r/pdf/1_02.pdf
③大企業向け・中小企業向け賃上げ促進税制の拡充および延長
賃上げ促進税制については、これまでほぼ毎年、見直しや延長が行われてきました。今回の要望では、賃上げに関する企業の計画的な検討を促すために、延長期間を長期化することとしています。
また、本税制については、法人税額の20%が控除税額の上限となっているため、これまで所得が小さく法人税額が少ない事業年度や赤字の事業年度においては、賃上げを行っていても税制優遇が受けられませんでした。そのような場合でも上限を超える金額について翌期に繰り越せるように、繰越控除制度を設けることが要望されています。中小企業者等※5を対象にした中小企業向け賃上げ促進税制のみならず、大企業向け賃上げ促進税制においても、中堅企業については要件を緩和するとともに、繰越控除ができるよう要望されていますので、中堅企業の範囲はまだわかりませんが今後の情報に注視したいところです。
この他、仕事と子育ての両立や女性活躍支援に積極的な企業に対する上乗せ措置を創設することも要望されており、こちらもその内容や要件についての情報が待たれるところです。
<図表4> 現行の賃上げ促進税制
中小企業向け賃上げ促進税制 | 大企業向け賃上げ促進税制 | |
---|---|---|
適用 要件 |
雇用者給与等支給額が前年度から1.5%以上増加 | 継続雇用者給与等支給額が前年度から3%以上増加 【要望】中堅企業の要件を緩和 |
税額 控除 |
給与等支給額の前年度からの増加額の15%の税額控除 | 給与等支給額の前年度からの増加額の15%の税額控除 |
【上乗せ措置①】 雇用者給与等支給額が前年度から2.5%以上増加した場合は15%上乗せし、給与等支給額の前年度からの増加額の30%(15%+15%)の税額控除 |
【上乗せ措置①】 継続雇用者給与等支給額が前年度から4%以上増加した場合は10%上乗せし、給与等支給額の前年度からの増加額の25%(15%+10%)の税額控除 |
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【上乗せ措置②】 教育訓練費の額が前年度から10%以上増加した場合は10%上乗せし、給与等支給額の前年度からの増加額の25%(15%+10%)の税額控除 |
【上乗せ措置②】 教育訓練費の額が前年度から20%以上増加した場合は5%上乗せし、給与等支給額の前年度からの増加額の20%(15%+5%)の税額控除 |
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【①、②の両方の要件をみたす場合】 上乗せ措置の要件をいずれも満たす場合には、それぞれの上乗せ措置が適用され、給与等支給額の前年度からの増加額の40%(15%+15%+10%)の税額控除 |
【①、②の両方の要件をみたす場合】 上乗せ措置の要件をいずれも満たす場合には、それぞれの上乗せ措置が適用され、給与等支給額の前年度からの増加額の30%(15%+10%+5%)の税額控除 |
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【要望】仕事と子育ての両立や女性活躍支援に積極的な企業に対する上乗せ措置 | 【要望】仕事と子育ての両立や女性活躍支援に積極的な企業に対する上乗せ措置 | |
控除 限度額 |
法人税額の20%を上限 【要望】上限を超える部分は繰越し |
法人税額の20%を上限 【要望】中堅企業において上限を超える部分は繰越し |
- ※5:現行税制における中小企業者等とは、資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人、資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人、常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主などをいいます。詳しくは、中小企業庁「中小企業税制パンフレット 令和5年度版」P42をご参照ください。
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/pamphlet/zeisei_r5.pdf
この他、特許などの知的財産から生じる所得に対して優遇税率を適用するイノベーションボックス税制の創設や、カーボンニュートラル税制の拡充および延長、ストックオプション税制の拡充などが要望されています。
昨今はさまざまな補助金などによる経済支援もありますので、税制のみならず、今後の情報に注視する必要があります。