第36回中小企業のM&Aについて③ -進め方のポイント-
※この文章は、名南M&A株式会社によるものです。
※この文章は、2018年5月31日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や税理士などの専門家とご相談ください。
中小企業のM&Aについて、第1回目の現状と方法では、M&A案件が増加していること、中小企業のM&Aは株式譲渡による方法がほとんどであることを述べました。また、第2回目の事業承継問題と解決策では、後継者がおらず、廃業せざるを得ない企業が増えている状況の中で、M&Aによる事業承継と企業の存続の意義について解説しました。
今回は、中小企業がM&Aの手続きを進める際のポイントについて解説します。
1.M&Aアドバイザー
中小企業のM&Aの特徴について、大企業のM&Aと比較しますと次の3点が挙げられます。
- ① 大企業のM&Aでは友好的M&Aのほか、敵対的M&Aもあるが、中小企業のM&Aの場合、友好的M&Aがほとんどである。
- ② 大企業のM&Aでは、仕掛け型と呼ばれる、買収側から譲渡候補先へ戦略的にM&Aを提案するケースもあるが、中小企業のM&Aの場合、譲渡側から買収候補先へM&Aを提案するケースがほとんどである。
- ③ 大企業のM&Aでは、社内のM&Aを担当する専門部署などが手掛けるケースもあるが、中小企業のM&Aの場合、外部の専門家に委託するケースがほとんどである。
ここで③の専門家とはM&Aアドバイザーと呼ばれ、M&Aに関する各種アドバイスと契約成立までの取りまとめを行います。M&Aアドバイザーは、企業価値評価や資金調達に関わる支援などを同時に行う場合も多く、M&Aを進める上で必要となる税務や会計、会社法、労働法、対象となる業界に関係する業法など、さまざまな法律に関する知識や経営に関するノウハウなどが求められます。また、相手方との交渉も行うため、ネゴシエーション能力や営業力、コミュニケーション能力なども必要とされています。
中小企業のM&Aの場合、初めてM&Aを経験する経営者がほとんどである上に、条件の交渉や契約に関する手続きなど専門的な知識が求められますので、M&Aアドバイザーのサポートが欠かせません。M&Aアドバイザーは、金融機関やM&A専門会社などに属しており、中小企業基盤整備機構が全国47カ所に設置する「事業引継ぎ支援センター」にも常駐していますので、M&Aアドバイザーを決定する際には、これまで述べてきた点を元に検討、相談することが肝要です。
2.M&Aの手続きについて
中小企業の事業承継などで多く行われている譲渡希望企業から買収候補先企業へM&Aを提案するケースにおいて、M&Aアドバイザーがサポートする場合の一般的な手続きは次のとおりです。M&Aアドバイザーの立場で説明します。
項目 | 内容 | 所要期間 の目安 |
---|---|---|
Ⅰ.個別相談 | (1)譲渡希望企業へのヒアリング (2)M&Aの可能性を検討 |
1週間 |
Ⅱ.アドバイザリー契約 | (1)譲渡側企業とアドバイザリー契約の締結 (2)譲渡希望企業から資料などを回収 (3)ノンネームシートおよび企業概要書の作成 |
2週間 |
Ⅲ.買収候補先企業の探索 | (1)買収候補先企業のリスト化 (2)買収候補先企業への打診 (3)買収候補先企業と秘密保持契約の締結 (4)ノンネームシートおよび企業概要書の開示 (5)買収候補先企業とアドバイザリー契約の締結 |
1カ月間 |
Ⅳ.交渉開始 | (1)トップ面談の実施 (2)会社訪問や工場見学の実施 (3)詳細資料の開示 (4)譲渡条件のすりあわせ |
3カ月間 |
Ⅴ.基本合意契約 | (1)基本合意契約の締結 (2)買収監査(デューディリジェンス)の実施 (3)譲渡条件の決定 |
2カ月間 |
Ⅵ.最終合意契約 | (1)ディスクローズ(公表)方法の決定 (2)最終合意契約の締結 (3)譲渡代金の受け渡し |
1カ月間 |
Ⅰ. 個別相談
譲渡希望企業からの個別相談を受け、M&Aアドバイザーは譲渡の目的・希望条件などについてヒアリングを実施し、実現可能性などについてアドバイスをします。また、会社を譲渡する際に最も関心が高いのは、自社がいくらで売れるのかということです。ほとんどのM&Aアドバイザーは簡易評価を実施し、M&A市場も勘案したうえで、いくらぐらいで売れるのかを算定します。
Ⅱ. アドバイザリー契約
譲渡希望企業がM&Aアドバイザーへ相談をする中で、譲渡の意思が固まったら、M&Aアドバイザーとアドバイザリー契約を締結します。アドバイザリー契約とは、不動産媒介契約でいう専任媒介契約のようなもので、当該M&AアドバイザーにM&A業務の全てを委託する契約をいいます。状況によっては、M&A業務の一部を委託する契約を締結する場合もあります。
アドバイザリー契約の締結後、M&Aアドバイザーは、譲渡希望企業のさまざまな資料を収集し、「ノンネームシート」と呼ばれるA4用紙1枚程度の譲渡希望企業の社名を伏せた簡単な説明資料と、「企業概要書」と呼ばれるA4用紙20~30枚程度の社名も掲載した詳細な説明資料の二つの資料を作成します。
Ⅲ. 買収候補先企業の探索
M&Aアドバイザーは相手となる買収候補先企業をリストアップしていきます。リストアップの際のポイントは、業種・企業規模・地域・事業内容・資力などがあり、これらから条件に合う企業を30社程度ピックアップします。譲渡希望企業は、そのリストの確認と持ち込みについての可否、ならびに持ち込みの順位付けを行います。
M&Aアドバイザーは、リストアップした企業へ順次、譲渡希望企業の紹介を行っていきますが、その際には秘密保持契約書を締結したうえで情報の開示を行います。「会社を売りたい」という情報が譲渡希望企業の従業員や取引先などに漏れると、動揺などから業務に支障をきたす恐れがありますので、秘密保持契約書をきちんと締結した上で、情報を提供します。秘密保持契約締結後、まず、「ノンネームシート」で買収候補先企業の関心の有無を確かめます。関心があれば「企業概要書」を開示した上で、プレゼンテーションを行います。譲渡希望企業の条件や今後のスケジュールについても説明を行います。
買収候補先企業が企業概要書とM&Aアドバイザーからのプレゼンテーションにより興味を持った場合、M&Aアドバイザーとアドバイザリー契約を締結します。この契約により、買収候補先企業は買収に向けて一歩踏み出すことになります。
Ⅳ. 交渉開始
譲渡希望企業と買収候補先企業の経営者とのトップ面談を実施し、それぞれが自己紹介や質疑応答を行います。お互いの会社や工場などを見学したりもします。この場はあくまでも「交流」の場であり、「交渉」の場ではありません。お互いの人と成りを確認することが目的です。
次に条件交渉を行いますが、条件交渉については直に交渉することが難しいこともありますので、M&Aアドバイザーが「緩衝材」の役割を担い条件のすり合わせを行います。ここでいう条件とは、例えば譲渡金額や譲渡予定日などです。
Ⅴ. 基本合意契約
基本合意契約とは、トップ面談や条件交渉を通じて、譲渡側・買収側企業双方とも概ねお互いを理解し、M&Aを進めることに合意したことを確認するための契約です。これは仮契約であり、本契約ではありません。基本合意契約はあくまでもM&Aの検討をお互いに引き続き進めますよ、という契約で、この契約の中に譲渡予定金額や譲渡予定日、買収監査の進め方、独占交渉権の付与などが記載されます。
基本合意契約の締結後、ただちに買収監査(デューディリジェンス)を実施します。買収監査とは、これまで書面で確認してきた譲渡側企業の各種情報について、証拠書類まで遡って正しいか否かを買収側企業の立場で確認する作業であり非常に重要なものです。
財務面では、書面で示された資産が実在しているか、書面に記載のない負債が隠れていないか、損益計算書は正しく作成されているか(粉飾はないか)などをチェックします。
法務面では、企業が締結しているさまざまな契約書はM&Aを進めるうえで妨げにならないか、法令を遵守した経営がなされているか、などをチェックします。
労務面では、就業規則、賃金規定、退職金規定などの各種規程や残業代や有給休暇、組織上の内規や稟議のルールなどについてチェックします。
ビジネス面では、営業の進め方、在庫管理方法、集金方法などについてチェックします。
買収監査によって基本合意契約締結以前に確認していた内容と相違が生じたら、最終契約に向けて、再度条件調整を行っていきます。
Ⅵ. 最終合意契約
買収監査の結果による条件調整などが完了すると、最終的に合意したことを示すための契約書を作成します。この契約書がM&Aによる売買契約書となり、両社の完全な合意事項を示す書類になります。そのため、両社で合意したさまざまな事項を記載します。
最終の契約書が完成したら、両社で押印を行い締結し、その当日か、または別途定める日において取引を実行します。金銭の受け渡し、株式譲渡であれば株券の受け渡し、事業譲渡であれば譲渡資産の受け渡し、役員変更登記なども順次行います。保証人の変更などは役員変更登記が終わり、登記簿謄本が取得できるようになってから順次行います。
これら一連の取引は、おおよそ半年から1年程度、業種などによっては2年以上かかる場合もあります。M&Aは決断をしたらすぐに行えるものではなく、ある程度の時間がかかるものとご認識ください。
関連情報
【名南M&A株式会社】
名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまなM&に関するコンサルティングなどを実践している。