第37回派遣先企業における労働者派遣法への対応
-平成27年9月改正から丸3年となる今年の留意点-
※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。
※この文章は、2018年6月30日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。
平成27年9月30日に改正労働者派遣法(以下、改正法)※1が施行されました。この改正法には、施行日から3年という期間を経て影響が生じるポイントがいくつか盛り込まれています。そこで本コラムでは、改正法の施行からまもなく3年を迎える今、再認識しておくべき改正法の内容と関連する他の法制度をまとめ、派遣先企業における必要な対応について解説します。
- ※1:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律
1.労働契約申込みみなし制度
労働契約申込みみなし制度は、平成27年改正法の前、平成24年10月1日施行の改正労働者派遣法に盛り込まれましたが、その影響力が大きいことから施行までに3年の猶予期間が設けられ、平成27年10月1日に施行されました。
労働契約申込みみなし制度とは、派遣先企業が図表1に掲げる違法派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先企業が派遣労働者に対して直接雇用の申し込みをしたものとみなされ、派遣労働者本人が望めば、派遣先企業における直接雇用に切り替わるという制度です。ただし、派遣先企業が違法派遣に該当することを知らず、かつ、知らなかったことに過失がなかった場合は除きます。
<図表1> 労働契約申込みみなし制度の対象となる違法派遣
- ① 労働者派遣の禁止業務(港湾運送、建設、警備、病院などにおける医療関連業務)に
従事させた場合 - ② 無許可の事業主から労働者派遣を受け入れた場合
- ③ 期間制限に違反して労働者派遣を受け入れた場合
- ④ 労働者派遣法などの規定の適用を免れる目的で行われるいわゆる偽装請負の場合
平成27年改正法の施行から3年経過後の平成30年9月30日以降は、②および③の違法派遣が管理の不備によって発生する可能性があるため、より一層の注意が必要となります。
2.特定労働者派遣事業を継続できる経過措置の終了
従来、労働者派遣事業は「特定労働者派遣事業(届出制・常時雇用者のみ)」と「一般労働者派遣事業(許可制)」という2種類に区分されていました。しかし平成27年の改正法により許可制へ一本化されました。
ただし、平成27年9月30日の改正法施行日以前から旧制度の「特定労働者派遣事業」を営んでいる事業者に対しては経過措置が設けられており、平成30年9月29日までは許可がなくても引き続き派遣事業を行うことができます。しかし、平成30年9月30日以降は許可を受けなければ派遣事業を継続することができません※2。
派遣先企業においては、今年の9月30日以降、許可を受けていない事業者から派遣を受け入れることは法違反※3になります。また、労働契約申込みみなし制度の対象となる可能性もありますので留意しなければなりません。
派遣元が許可を取得しているかは、厚生労働省が運営する「人材サービス総合サイト」※4で検索することができます。派遣元からの話を鵜呑みにするのではなく、必ずこのサイトで確認をしておきましょう。なお、届出番号が「特**-******」である事業者は、未だ旧制度の「特定労働者派遣事業」を続けている事業者であり、今現在は許可を受けていない状態であるため、派遣契約の締結を検討する場合は、許可申請の動向を確認した上で慎重に行うべきです。
- ※2:平成30年9月29日までに事業者から許可の申請がなされた場合、その申請について許可または不許可の処分がある日までの間は、引き続き旧制度の「特定労働者派遣事業」を行うことができます。
- ※3:労働者派遣法第24条の2で、無許可の事業者からの派遣受け入れを禁止しています。
- ※4:厚生労働省職業安定局ホームページ https://www.jinzai-sougou.go.jp/
3.労働者派遣の二つの期間制限
平成27年改正法の施行前は、ソフトウェア開発や通訳・秘書などの「専門26業務」の派遣には期間制限はありませんでした。また、それ以外の業務では、派遣元や派遣労働者を替えても、同一の職場において派遣労働者を受け入れられるのは3年が上限であるという「職場ごとの期間制限」が設けられていました。平成27年の改正法では、この期間制限の概念が一新され、すべての業務において、「個人単位の期間制限」と「事業所単位の期間制限」という新たな二つの期間制限へと見直されました。
①個人単位の期間制限
派遣先企業は、「同一の組織単位」(図表2)において同一の派遣労働者を受け入れることができるのは3年が上限です。ただし、別の組織単位へ異動させれば、3年を限度として同一人物を継続して受け入れることは可能です。別の組織単位へ異動させない場合に、同一人物を再度受け入れるためには、クーリング期間として3カ月を超える間隔を空ける必要があります。
同一の派遣労働者を継続して受け入れたい場合は、雇用安定措置の観点から「派遣先企業で直接雇用にする」または「派遣元で無期雇用にしてもらう」検討が必要になります。
<図表2> 組織単位の定義
「同一の組織単位」とは、いわゆる「課」や「グループ」ですが、組織の名称によって判断されるわけではありません。組織単位が異なるか否かの判断要素としては、「従事する業務として類似性や関連性があるか」「業務の配分や労務管理上の指揮監督権限を有している者が異なっているか」という2点です。この2点に実質的な変化がなければ、組織単位は変わっていないと判断される可能性が高いといえます。派遣先企業において、別の組織で同一人物の受け入れを継続する場合には、上記2点の観点から、別の組織単位であることを明白にしておく必要があります。
<図表3> 個人単位の期間制限事例
- (出典)厚生労働省「平成27年労働者派遣法改正法の概要」P5より抜粋
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000098917.pdf
②事業所単位の期間制限
派遣先企業は、「同一の事業所」(図表4)において3年の派遣可能期間を超えて派遣労働者を受け入れることはできません。派遣可能期間が終了すれば、その事業所においては派遣労働者の受け入れをすべて終了しなければなりません。再度派遣労働者の受け入れを行うには、クーリング期間と呼ばれる3カ月を超える間隔を空ける必要があります。
ただし、派遣先企業の事業所の過半数労働組合または過半数代表者(以下、過半数労働組合等)に「意見聴取」(※)を行うことで、派遣可能期間を3年を限度として延長することができます。さらに再延長したい場合には改めて意見聴取を行う必要があります。なお、延長した場合は、個人単位の期間制限を超えて、同一の派遣労働者を引き続き同一の組織単位に派遣することはできません。
<図表4> 事業所の定義
「同一の事業所」とは、雇用保険法における概念と同様のものとされています。よって、事業所単位の期間制限を管理する上では、必ず自社の雇用保険の適用事業所の状況を確認しておく必要があります。雇用保険法においては、原則として、次の①~③のすべてに該当する場合に、一つの独立した事業所として判断されています。なお、規模が小さく独立性がないものは、雇用保険の手続きとして、非該当承認を受けることで、直近上位の組織に包括して一つの事業所として取り扱われます。
- ① 場所的に他の(主たる)事業所から独立していること。
- ② 経営(または業務)単位としてある程度の独立性を有すること。すなわち、人事・経理・経営(または業務)上の指導監督、労働の態様などにおいてある程度の独立性を有すること。
- ③ 一定期間継続し、施設としての持続性を有すること。
<図表5> 事業所単位の期間制限事例
- (出典)厚生労働省「平成27年労働者派遣法改正法の概要」P4より抜粋
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000098917.pdf
(※)「意見聴取」の実施方法と注意点
意見聴取は、派遣先の事業所ごとに、労働者派遣の開始日から事業所単位の期間制限の次の日(抵触日)の1カ月前までの間(意見聴取期間)に行う必要があります。例えば、平成27年10月1日が派遣雇用の開始日であれば、意見聴取期間は抵触日である平成30年10月1日の1カ月前、平成30年9月1日までとなります。
<図表6> 意見聴取の流れ
- (出典)厚生労働省「平成27年労働者派遣法改正法の概要」P8より抜粋
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000098917.pdf
意見聴取は、次に掲げる(ア)~(エ)の事項を書面による通知で行います。意見聴取を行うにあたっては、過半数労働組合等が確認するために十分な考慮期間を設けた上で、意見の提出期限を設定することができます。また、事前通知を行えば、期限までに意見提出がなければ意見がないものとみなして取り扱うこともできます。
- (ア)労働者派遣の役務の提供を受けようとする事業所その他派遣就業の場所
- (イ)延長しようとする派遣期間
- (ウ)部署ごとの派遣労働者の数
- (エ)各々の派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受けた期間などに係る情報
(ただし、(ウ)および(エ)は、過半数労働組合等から求めがある場合)
この意見聴取において、過半数労働組合等から異議が述べられた場合は、事業所単位の期間制限の抵触日の前日までに、過半数労働組合等に対し、書面により次の(オ)~(キ)の事項を説明しなければなりません。また、書面に記載した事項を労働者に周知し、書面は抵触日から3年間保存しておく必要があります。なお、異議があることによって派遣可能期間の延長が禁止されるということはありません。
- (オ)延長しようとする期間
- (カ)延長しようとする理由
- (キ)過半数労働組合等の異議への対応に関する方針
③その他の留意事項
二つの期間制限は、平成27年の改正法以降に締結・更新された労働者派遣契約に基づく労働者派遣が対象になります。派遣先企業は、改正法の施行から3年経過後の平成30年9月30日以降の派遣労働者に対する対応が必要な場合があります。期間制限に違反する場合、労働契約申込みみなし制度が適用される可能性や、労働局が行う指導・助言・勧告や企業名公表の対象となりますので、違反しないように十分な管理が必要です。
ただし、次の図表7に掲げる者は期間制限の対象となりません。
<図表7> 期間制限の対象とならない派遣労働者
- ① 無期雇用派遣労働者に係る労働者派遣(=派遣元で無期雇用)
- ② 雇用の機会の確保が特に困難である派遣労働者であってその雇用の継続などを図る必要があると認められるものとして厚生労働省令で定める者に係る労働者派遣(=60歳以上)
- ③ 事業の開始などのための業務であって一定の期間内に完了することが予定されている業務などに係る労働者派遣(=有期プロジェクト、日数限定業務)
- ④ 当該派遣先に雇用される労働者が労働基準法第六十五条第一項および第二項の規定により休業する場合などにおける当該労働者の業務に係る労働者派遣(=産前産後休業、育児休業、介護休業などの取得者の代替)
4.雇用安定措置の実施など
平成27年の改正法では、派遣元は同一の組織単位に継続して1年以上派遣される見込みがあるなど一定の場合に派遣労働者の雇用安定措置を講じなければならないとされました。中でも、「同一の組織単位に継続して3年間派遣される見込みがある」場合には、「派遣先への直接雇用の依頼」や「派遣元での無期雇用」などの選択肢の中から雇用安定のための措置を実施しなければなりません。派遣先企業としては、派遣元から直接雇用の打診をされる可能性がありますので対応を考えておくべきです。
その他にも、派遣元における派遣労働者に対するキャリアアップ措置の導入など、派遣労働者のより一層の雇用の安定、キャリアアップを図る趣旨の改正が行われました。
5.有期契約の派遣労働者における無期転換権の行使(無期転換ルール)
また、平成25年4月施行の改正労働契約法において導入された「無期転換ルール」も、平成30年4月から権利行使が開始されています。同一の使用者(企業)との間で、有期の労働契約が反復更新され通算5年を超えたとき、労働者が希望すれば、契約期間を無期へ転換できるというこのルールは、雇用安定措置とともに、派遣元の経営に影響を及ぼすものであるため、派遣元に生じる変化として認識しておきましょう。
参考
平成27年9月の法改正直後から派遣労働者の受け入れを開始している派遣先企業においては、今年の8月末までには期間制限への対応を行っておく必要があります。また、他のポイントについても漏れがないか十分に確認しておきましょう。
【社会保険労務士法人 名南経営】
名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。