第44回徹底解説!年次有給休暇の年5日の取得義務化

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、2019年2月28日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

前回のコラムでは、働き方改革関連法の2019年4月1日施行分の主な改正事項について解説しました。その法改正の中で「年次有給休暇の年5日の取得義務化」は企業規模や業種に関係なく2019年4月1日に施行されるため、どの企業にとってもインパクトの大きい法改正であると考えます。そこで今回は、この「年次有給休暇の年5日の取得義務化」について、企業として押さえておくべきポイントを解説します。

1.取得義務化の内容

まず、改正された内容を確認しましょう※1

使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与されている労働者に対し、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内において、年次有給休暇のうち5日については取得時季を指定して与えなければならない。

この法改正により、労働者が基準日から1年以内に年次有給休暇を最低でも5日は取得しなければならなくなったのです。義務化された以上、企業としては年5日以上の取得を確実に実施しなければなりません。そのために、次の5つのポイントを押さえておきましょう。

  1. ※1:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」
    https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf

対象者の洗い出し

対象者は、基準日において年次有給休暇が10日以上付与される労働者(管理監督者を含む)です。年次有給休暇の付与日数は労働基準法第39条により規定されており、雇い入れの日から6カ月継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した労働者には最低10日が付与され、その後は継続勤務年数1年ごとに一定日数が加算されていきます。正社員のみならず、契約社員や嘱託社員も対象者であり、また、パートタイム労働者などは、図表1のように年次有給休暇の日数は所定労働日数に応じて比例付与され、10日以上の年次有給休暇が付与されれば対象者となります。

<図表1> 年次有給休暇の比例付与による付与日数

週所定
労働日数
1年間の
所定労働日数
継続勤務年数
6カ月 1年
6カ月
2年
6カ月
3年
6カ月
4年
6カ月
5年
6カ月
6年
6カ月以上
4日 169日~
216日
7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日~
168日
5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73日~
120日
3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48日~
72日
1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日
  • (※)表中太枠で囲った部分に該当する労働者は2019年4月から義務付けられる「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の対象となります。

正社員については年次有給休暇の付与や管理ができている一方で、パートタイム労働者などについては年次有給休暇の付与さえできていないという企業もまだまだ見受けられます。企業としては、早急に対象者となる労働者の洗い出しをする必要があります。

年次有給休暇の確実な取得

年次有給休暇の付与に関しては、従来から基本的な制度として次の①②がありましたが、年5日の年次有給休暇を確実に取得するために今回の改正で新たな制度として③が導入されました。

1)労働者自らの請求・取得

年次有給休暇は原則として、労働者が請求する時季に与えることとされていますので、労働者が具体的な月日を指定した場合には、「時季変更権」※2による場合を除き、その日に年次有給休暇を与えなければなりません。

2)計画年休

「年次有給休暇の計画的付与制度」(以下、計画的付与制度)※3により、労使協定を締結することで、企業が計画的に取得日を定めて年次有給休暇を与えることが可能です。計画的付与制度は、年次有給休暇のすべての日数について認められるわけではなく、労働者が自ら請求・取得できる年次有給休暇を最低5日残す必要があります。

3)使用者による時季指定

労働者に対して「〇月〇日に年次有給休暇を取得してください」と時季を指定して、確実に年次有給休暇を5日取得させるという方法です。また、時季を指定する際は、労働者の意見を聴取し、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるように労働者の意見を尊重するよう努めなければならないとされています。

労働者自らが5日以上の年次有給休暇を取得している場合や、既に5日以上の計画年休を導入している場合においては、時季を指定して年次有給休暇を取得させる必要はありません。要は、「労働者自らの請求・取得」「計画年休」「使用者による時季指定」のいずれかの方法で労働者が基準日から1年以内に年5日の年次有給休暇が取得できていれば問題ないということになります。
なお、この5日に関しては、1日単位の取得だけではなく、半日単位の取得でも5日にカウントされますが、時間単位での取得はカウントされませんので留意が必要です。

  1. ※2:「時季変更権」
    使用者は、労働者から年次有給休暇を請求された時季に、年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合(同一期間に多数の労働者が休暇を希望したため、その全員に休暇を付与し難い場合など)には、他の時季に年次有給休暇の時季を変更することができます。
  2. ※3:厚生労働省「年次有給休暇の計画的付与制度」
    https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kinrou/dl/101216_01e.pdf

年次有給休暇管理簿の作成と保管義務

今回の改正により、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保管することが義務づけられました。年次有給休暇管理簿に決められた様式はありませんが、「基準日」「取得日数」「取得した時季」の3項目は必須の記載事項ですので、それらを盛り込んだ管理簿を作成する必要があります。
また、必要な時にいつでも出力できる仕組みがあれば、管理簿をシステム上で管理しても問題ないとされています。

就業規則への規定

休暇に関する事項は就業規則における絶対的必要記載事項に当たります。よって、時季を指定して労働者に年次有給休暇を取得させるには、その旨を就業規則へ規定しておかなければなりません。年5日取得の計画的付与を導入している企業であっても、時季を指定しなければならない事態が発生しないとも限りませんので、就業規則の見直しはしておいた方がよいでしょう。

罰則

従来の「労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合」に対して6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則に加えて、新たに、「年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合」「時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合」に対して30万円以下の罰金という罰則が設けられました。罰則は対象となる労働者一人につき1罰として扱われます。

2.実務における対応

次に、企業としては、年次有給休暇の取得促進のための取り組みを検討していかなければなりません。最終的に「年5日取得することができなかった」という労働者を一人も出さないように取得促進するには、年次有給休暇を「管理しやすくすること」と「取得しやすくすること」の二つの視点が重要であると考えます。企業における労働者数や担当者の人員数、業務負担などを総合的に考慮した上で、自社に合った管理方法および取得方法を検討していく必要があります。

管理方法

法律通りに入社半年後に年次有給休暇を付与している場合には、労働者ごとに入社日が異なることにより基準日も異なります。基準日から1年以内に年5日の年次有給休暇を取得しなければならないという期限管理を、労働者ごとに細かく把握していかなければならず、労働者の人数が多ければ多いほど実務としては非常に煩雑になります。
よって、その煩わしさを解消する方法の一つとして、例えば、毎年4月1日を基準日と定めて年次有給休暇を斉一的に付与するという取り扱いであれば、1年の開始時期が労働者全員同じであるため、取得の進捗状況が管理しやすくなります。これを「年次有給休暇の斉一的取り扱い」といいますが、このような付与の方式を採ることも一考の価値があるといえます。

通達※4では、「年次有給休暇の付与要件である8割出勤の算定において、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすこと」と、「次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じまたはそれ以上の期間を法定の基準日より繰り上げること」の2要件を満たしていれば、斉一的取扱いをしても差し支えないとされています。ただし、労働基準法で定める付与基準を下回ることは認められませんので留意が必要です(厚生労働省のパンフレット「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」※5P8~P10に、ケース毎における詳細な取り扱い方法が記載されていますのでご参考にしてください)。

企業としては、入社と同時に年次有給休暇を付与するなど、法律を上回る運用に対してデメリットを感じることがあるかもしれませんが、何を優先すべきか自社の状況に応じて判断する必要があります。なお、年次有給休暇の基準日などの運用を変更するのであれば、就業規則などの見直しも必要となります。

  1. ※4:厚生労働省「労働基準法の一部改正の施行について」(H6.1.4基発第1号)
    5.年次有給休暇 (3)年次有給休暇の斉一的取扱い
    https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb1911&dataType=1&pageNo=1
  2. ※5:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」
    https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf

取得方法

日本の年次有給休暇の取得率は諸外国と比べ低いと言われています。その背景には、「業務に追われてなかなか取得できない」または「周りに遠慮して取得することができない」といったケースもあり、取得実績に関しては同じ企業内であっても個人差がある場合があります。しかし、今回の改正においては、そういった事情に関係なく、企業として確実に対象労働者全員に年5日の年次有給休暇を取得させなければならず、取得方法の検討は重要です。
例えば、年次有給休暇の年5日取得を確実なものとする有効な方法のひとつとして、計画的付与制度の導入があり、次のような方法が考えられます。

1)企業または事業場全体で一斉の休業による一斉付与

企業、事業場全体を一斉に休みにすることで、全労働者に対して同一日に年次有給休暇を付与するという方法です。製造業などで、製造ラインをストップさせても客先に迷惑にならないような時期に導入することで効率的に取得を促進させることが可能です。

2)班またはグループ別での交替制付与

企業、事業場全体を一斉に休みにすることが難しい場合には、班やグループ別などの単位で交替に年次有給休暇を付与する方法です。班やグループのメンバーが交替で休みを取ることで、定休日を増やすことなく、業務の稼働停止を回避することができます。

3)年次有給休暇付与計画表による個人別付与

年次有給休暇の計画的付与は、個人別に導入することも可能です。例えば、労働者やその家族の誕生日または各種記念日、個人ごとの夏季休暇といったように、労働者ごとで決められた日数分の取得日を確定させる方法です。一斉付与や交替制付与に比べると、個別に管理する必要があるため多少の煩わしさはありますが、確実な取得ができ、かつ労働者側にとっては取得時季に柔軟性があるため、比較的満足度の高い取得促進方法といえます。

どのような方法を採るかは自社の実態に合わせて選択すればよいわけですが、計画的付与制度は、単なる年次有給休暇の取得促進ではなく、事前に取得日の把握ができるため業務計画が立てやすく、また繁忙期を避けた設定をすることで業務への影響を最小限に抑える効果も見込めるため、企業にとってもメリットのある方法であるといえるでしょう。

労働者が自主的に年次有給休暇を取得できている企業にとっては、今回の法改正はそれほど問題になることはありません。そうでない企業であれば、対応が遅れることがないように、自社に合った取得方法と管理方法を早急に決めなければなりません。
年次有給休暇が取りやすいかどうかは企業風土にも依存しますし、労働者ごとの業務の適正配分などさまざまな問題があり、企業によっては簡単にクリアできる課題ではないことも否めません。
しかしながら今回の法改正をきっかけに、労働者を休ませる仕組み作りに企業が真剣に取り組むことで、働きやすい職場環境へと変化してゆく可能性は大いにあります。まずは、企業がその姿勢を見せ、労働者一人一人の意識を変えていくことが、企業風土の変革になると考えられます。

【社会保険労務士法人 名南経営】

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。