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第49回テレワーク導入の手順と注意点

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、2019年7月31日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

2020年東京オリンピックの開催まで1年を切り、各所でその準備が進められています。東京都心では開催期間中の交通機関の混雑緩和のため、政府や東京都が旗振り役となって、2017年から2020年までの毎年、開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけて、従業員がオフィスへ出社せず自宅などで勤務するテレワークの一斉実施を呼びかけています。
2019年は、2020年東京オリンピック前の本番テストとして、7月22日から9月6日の約1カ月間を「テレワーク・デイズ2019」の実施期間と設定し、全国で3,000団体、延べ60万人の参加を目標に、テレワークの一斉実施が呼びかけられました※1
このように東京オリンピックを契機として注目を集めているテレワークですが、交通機関の混雑緩和などの社会的効果だけではなく、柔軟な働き方を認めることで、育児や介護などの制約を抱えた人の就労継続や、業務効率の向上、災害発生時や感染症流行時などオフィスに出社できないような状況であっても事業継続を可能にするなど、企業経営におけるさまざまな課題解決の手段としても期待されています。
しかしながら、オフィス以外の場所で勤務をするには、仕事の進め方や労働時間、情報セキュリティなどについて、どのように管理していくかが問題となります。そこで今回は、企業がテレワークを導入する際の手順と注意点を解説します。

  • ※1:https://teleworkdays.jp/
  • <参考> 厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」
    https://www.mhlw.go.jp/content/000466673.pdf

1.テレワークとは

テレワークの三つのタイプ

テレワークとは、「テレ(Tele)=離れたところで」「ワーク(Work)=働く」という言葉が意味するように、通常働くオフィスから離れた場所で、通信機器やネットワーク回線を用いて勤務する働き方のことを言います。ICT(情報通信技術)の進歩によって、オフィスに出社しなくても仕事が進められ、従業員一人一人の事情や仕事の特性などに応じて柔軟な働き方が可能になります。このテレワークは、勤務する場所によって図表1の通り三つのタイプに分けられ、その働き方によって、さまざまな効果が期待できます。

<図表1> テレワークの三つのタイプと期待できる効果

在宅勤務 オフィスに出勤せず自宅で業務を行う働き方。
(効果)
  • ・育児や介護などとの両立が行いやすくなる。
  • ・障がいなどで通勤が困難な従業員も働き続けることができる。
サテライト
オフィス勤務
通常勤務するオフィス以外の他のオフィスや遠隔勤務用の施設などで業務を行う働き方。
(効果)
  • ・自宅や顧客先などに近いオフィスを利用することで、通勤や移動時間の削減を図ることができる。
  • ・遊休施設や空き家などを活用する遠隔勤務には、オフィスにかかるコストの削減のほか、地方創生なども期待される。
モバイルワーク ノートパソコンや携帯電話などの情報端末を活用し、場所を決めずに外出先などで業務を行う働き方。
(効果)
  • ・外出が多い営業職などでは、わざわざオフィスに戻る必要がなくなるため、無駄な移動が減り時間を有効活用できる。
  • ・顧客先などで迅速に対応できる。

「働き方改革」とテレワーク

2019年4月から本格施行された働き方改革関連法は、働く人の労働生産性やワーク・ライフ・バランスの向上を目指すとしています。時間を有効活用し効率的に働くことを可能とするテレワークは、その実現につながる仕組みとして期待されています。2019年6月14日に閣議決定された「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」※2では、2020年には、テレワークの導入企業を2012年度比で3倍、テレワーク制度などに基づく雇用型テレワーカーの割合を2016年度比で倍増という進捗目標を掲げテレワークの普及に努めています。他方、労働基準法の改正により長時間労働対策として時間外労働の上限規制が設けられましたが、使用者の管理が及びにくいテレワークは長時間労働を招くおそれがあるということも指摘されています。柔軟さを追求するあまり無秩序な働き方になってしまうのは本末転倒であるため、一定のルールを設けて労働時間や健康面の管理していくことが必要になります。

  • ※2:首相官邸「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(P152 テレワークの普及)
    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20190614/siryou1.pdf

企業の取り組み状況

働き方改革の推進やICTの進歩により取り組みが広がりつつあるテレワークですが、総務省の「平成30年通信利用動向調査※3(P17 テレワークの導入状況(企業))」によれば、テレワークを導入している企業は19.1%となっています。また、企業規模が大きくなるにつれて導入割合も高くなり、資本金10億円以上の企業では約半数がテレワークの仕組みを導入しています。一方で、テレワークを利用する従業員の割合は、「5%未満」が48.4%と最も高くなっており、実際にテレワークを利用している従業員は多いとは言えず、在宅勤務としたい事情のある従業員や外出の多い営業職など、一部に限られていると考えられます。

  • ※3:総務省「平成30年通信利用動向調査」
    http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/190531_1.pdf

2.テレワーク導入の手順と注意点

使用者の管理が及ばない場所で働くことになるテレワークですが、制度の導入にあたっては、さまざまな点を検討した上で、一つずつステップを踏んでいく必要があります。
テレワークを導入する際、一般的には図表2のようなプロセスで進めていきます。テレワークの推進にあたっては、総務部門に限らず、情報システム部門や現場の業務部門などが連携して進めていくことが求められます。また、制度導入の意義や方向性に関する部分は、経営トップがメッセージを発信していくと効果的です。

<図表2> テレワーク導入のプロセス

テレワーク導入のプロセス

導入目的の明確化

さまざまな経営課題の解決策として期待されるテレワークですが、自社への導入にあたっては、「自社のどのような課題を解決するために導入するのか」「テレワークの導入によってどのような効果を得たいのか」など、自社にとっての目的や目指すところを明確にしておく必要があります。参考として、総務省の「平成30年度通信利用動向調査※3(P19 図表4-4テレワークの導入目的(複数回答)」によれば、テレワークの主な導入目的について、「定型的業務の効率性(生産性)の向上」の割合が56.1%と最も高く、次いで「勤務者の移動時間の短縮」(48.5%)、「通勤弱者(身障者、高齢者、育児中の社員等)への対応」(26.0%)となっています。

ルールの策定

テレワークの導入で最も重要なのが、運用ルールの策定です。テレワークは仕事の特性や個人の事情などによって柔軟に設計できる反面、ルールに曖昧な部分があるとトラブルが起こりやすいという側面もあります。管理者の目が及ばない場所で働く、つまり、管理者がその従業員の仕事ぶりを現認することができない、ということを常に念頭に置きながら、次にあげるルールを策定していくことが求められます。

1)実施範囲に関するルール

a. 対象者の範囲

多くの場合、従業員全員が一斉にテレワークで働くのではなく、一定の範囲の中から利用を申し出たり、業務の必要性に応じて会社が指名したりする形で制度の対象者が決まります。そのため、あらかじめ制度の対象となりうる範囲を定めておく必要があります。この基準や条件に関しては、「あの人だけテレワークで働けて不公平だ」などの不満が上がらないように、誰もが納得できる客観的なものとすることが求められます。また、テレワーク導入の目的が育児・介護との両立支援などであれば、事前に対象者のニーズを調査し、どの程度の利用が見込まれるかを把握しておくとよいでしょう。

b. 対象業務の範囲

対象者の範囲を決めたら、テレワークで行うことのできる業務の範囲を設定します。業務の中にはテレワークでは行えないものや行うことが難しいものがあります。例えばオフィスで保管している帳票類の原本を扱う作業や、きわめて機密性の高い情報を扱う作業などはテレワークには向いていません。そのため、テレワークの対象者を決めた段階で、その人のどの業務をテレワークで行うかということも決めておく必要があります。

c. テレワークを行う頻度

テレワークの中でも特に在宅勤務を行う場合は、1週間のうち何日を在宅勤務で行うかを決めておく必要があります。はじめから完全な在宅勤務を行うことも可能ですが、働き方が大きく変わることによる支障や社内メンバーとのコミュニケーションの希薄化を招く可能性があることから、導入初期の段階では、週1~2日程度からスタートし、在宅での勤務に慣れてきたところで日数を増やしていくようにするとよいでしょう。

2)労務管理に関するルール

a. 労働時間管理

テレワークを実施する場合にも労働基準法をはじめとする労働関係法令が適用されます。働き方改革における労働安全衛生法の改正によって、企業に労働時間の適正把握義務が課せられました(第43回コラム「3.長時間労働者の医師面接と労働時間の把握義務」)。これはテレワークでも例外ではなく、原則として労働日ごとの始業・終業時刻を確認しなければなりません。テレワーク時には、従業員が通常の勤務と異なる環境で就業することになりますので、労働時間の管理方法について確認し、ルールを決めておくことが必要です。
労働時間を管理するためには、従業員から何らかの形で報告を受けるか、システムを用いて勤務していることを客観的に把握するかのどちらかの方法をとることになります。報告の方法は、普段から使い慣れているEメールや電話を用いることが最も一般的です。システムを用いた管理については、クラウド型勤怠管理システムなどを利用して始業・終業時間をシステム上で打刻させるものや、PCの操作状況を確認するためにログを保存して労働時間を把握するもの、あるいはWEBカメラの機能を用いて勤務状況をモニタリングするものなどがあります。特に在宅勤務では私用などによる「中抜け時間」が発生することが予想されますので、在席状況を把握できるツールがあるとより正確に労働時間の管理を行うことができます。
なお、厚生労働省が平成29年1月20日に策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」※4では、始業・終業時刻の確認方法は、使用者が自ら現認することによる確認、または、タイムカードやICカード、PCの使用時間の記録などの客観的な記録による確認が原則であり、やむを得ずEメールや電話で自己申告をさせる場合は、その時間が実際の労働時間と一致しているか企業が調査することが必要とされているため注意が必要です。

テレワークで働く従業員に対しても、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合60分以上の休憩を与えなければなりません。この休憩時間は、労働基準法第34条第2項の定めにより、事業場に所属する労働者に一斉に与えなければならないとされていますが、あらかじめ労使協定を締結すれば、テレワークで働く従業員について一斉付与の適用から外し、個別に休憩時間を設定することも可能です。法定の休憩時間以外に中抜けをした場合、その時間を休憩時間として扱い、その分終業時刻を繰り下げる運用をしている企業もあります(この場合、始業・終業時刻の変更可能性を就業規則に規定しておく必要があります)。

このほかに、時間外労働や深夜、休日労働についてもルールを決めておく必要があります。テレワークで働く場合でも時間外労働の考え方や割増賃金の計算方法に変わりはありません。特に在宅勤務の場合には、柔軟な勤務が可能になる反面、ついつい働きすぎてしまうという側面があるため、「深夜・休日労働は行わない」「時間外労働を行う必要がある場合は事前に申請をして許可を受ける」など、あらかじめルールを決めておくことが求められます。あるいは、深夜・休日はシステムへのアクセスを制限する仕組みや、就業時間外に業務メールを送らないなどの運用ルールを検討することも考えられます。

テレワークの労働時間管理に関して、労働時間を細かく把握することなく所定労働時間働いたとみなすことはできないか、という相談を受けることがあります。これについては、労働基準法第38条第2項に規定する「事業場外みなし労働時間制」の取り扱いを確認しておく必要があります。「事業場外みなし労働時間制」とは、労働者が労働時間の全部または一部を事業場の外で勤務した場合、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なときは、原則として、所定労働時間を働いたものとみなすという仕組みです。この仕組みはテレワークでも適用されることができますが、その範囲は限定的で、次の(ア)(イ)要件をいずれも満たす必要があります。

(ア) 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。

これは言い換えると、情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であること、という意味になり、具体的には「ネットワーク回線が接続されているだけで、労働者が自由に情報通信機器から離れることや、通信可能な状態を切断することが認められている場合」や「会社支給の携帯電話などを所持していても、労働者の即応の義務が課せられていないことが明らかである場合」などが該当します。よって、例えばモバイルワークで働く営業職の従業員が、上司からの連絡に即時に対応したり、折り返しの連絡を義務付けられたりしているような場合は認められないということです。

(イ) 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと。

この要件が認められるためには、テレワークで働く従業員が仕事の進め方や顧客とのアポイントメントなどに関して、裁量をもって働いていることが必要になります。「具体的な指示」には、例えば、業務の目的や目標、期限などの基本的事項を指示することなど含まれません。

  • ※4:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
    (P2 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法)
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf
b. 費用負担

テレワークを実施した場合、次のような費用が発生します。

<テレワークによって発生する費用の例>

・通信費(通信回線契約料、切手代、電話代など)
・光熱費
・文具消耗品費 など

そのため、これらの費用を会社と従業員とでどのように負担するかも明確にしておく必要があります。仮に従業員に一部負担させる場合には、その旨を就業規則に規定をしておかなければなりません。なお、費用の立替などの煩雑さを軽減するために、あらかじめ切手や封筒を支給する、あるいは、在宅勤務に関する費用を従業員の負担としたうえで「在宅勤務手当」という形で毎月定額の金額を支給するなどの方法があります。

c. その他

このほかにも安全衛生管理として、テレワークの勤務場所が就業に適した環境であることの確認や、通常の従業員と同じように定期の健康診断やストレスチェック(常時50人以上を使用する事業場では義務)を実施することが求められます。

3)業務遂行に関するルール

テレワークを行う場合、管理者はその従業員の働き方を逐一現認することができないため、図表3に例示するような業務遂行上の課題が発生します。これらの解決策として、業務の「見える化」を図る必要があります。

<図表3> 業務遂行上の課題と解決策

業務遂行上の課題 解決策
  • ・従業員が職務に専念しているか
  • ・業務が順調に進んでいるか
  • ・オフィスで勤務している従業員とのコミュニケーションや情報共有がうまくできているか
  • ・日ごとの業務報告書を提出させる
  • ・プレゼンス(在席)管理ができるツールを用いる
  • ・チャットやテレビ会議を用いる

ICT環境の整備とセキュリティ対策

テレワークの実施にはICTの活用が欠かせません。普段オフィス内で扱う情報を自宅や外出先で扱うことになるため、情報漏洩が起こらないようにセキュリティ対策を万全にしておく必要があります。

1)利用するICT環境の選択

まず、導入するテレワークのタイプによって利用する端末を決定します。モバイルワークでは、タブレット端末やスマートフォンを用いることが大半ですが、会社から貸与されたものを使うのか私物の端末を使うのかを選択することになります。私物の端末であれば、会社としてはコストが抑えられ、本人も使い勝手が良いというメリットがありますが、当然ながら情報漏洩のリスクが高まるため、利用ルールを徹底するなどのセキュリティ面での対策が必要になります。
また、PCを利用する場合には、書類の作成や保存がサーバ上で処理されデータが端末に残らないシンクライアント型を用いることで、紛失や盗難時の情報漏洩リスクを下げることができます。

2)セキュリティ対策

情報漏洩を防止するためのセキュリティ対策は、図表4の通り、セキュリティルールの遵守に加え、技術的・物理的な側面から総合的に行う必要があります。

<図表4> セキュリティ対策

セキュリティ
ルールの遵守
  • ・自宅におけるPCの保管方法
  • ・自宅における休憩中のPCの取り扱い(ロックなど)
  • ・モバイルワークにおける端末の管理方法
    (移動中は肌身離さない・のぞき見防止シールを貼るなど)
  • ・認められていない端末の使用禁止
  • ・社外での資料印刷の禁止
技術的な
セキュリティ対策
  • ・アクセス制限(本人認証・端末認証)
  • ・パスワードの複雑化
  • ・ハードディスクの暗号化
  • ・セキュアコンテナ(暗号化された企業用の業務データエリア)
    の作成
  • ・ウィルス対策ソフトの導入
物理的な
セキュリティ対策
  • ・在宅勤務における執務スペースへの立ち入り管理
  • ・PCの施錠管理
  • 総務省「テレワークセキュリティガイドライン 第4版」
    http://www.soumu.go.jp/main_content/000545372.pdf

従業員説明・トライアル実施

テレワークの導入を成功させるためには従業員の理解が重要です。導入検討の段階で定めた目的や必要性を、テレワークの利用者だけではなく、その上司や同僚にも伝え理解を得ることが必要です。また、定めたさまざまな運用ルールについては、就業規則から独立させ、「テレワーク運用規程」のような形でまとめておくと従業員への説明の際に役立ちます。
なお、テレワークの始め方については、いきなり全体で実施するのではなく、トライアルという形でテストを行い、見えてきた運用面の課題に対応しながら徐々に適用範囲を広げていくとよいでしょう。

テレワークの導入プロセスは、自社の働き方を見つめ直す良い機会でもあります。「仕事は会社で行うもの」という固定観念をいったん排除した上で、制約のある人もない人も効率的に働けるようにするためにはどうしたらよいかという観点で、テレワークという方法を活用して働く環境を見直していきましょう。

【社会保険労務士法人 名南経営】

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。