第45回徹底解説!時間外労働の上限規制

※この文章は、社会保険労務士法人 名南経営によるものです。

※この文章は、2019年3月31日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問弁護士や社会保険労務士などの専門家とご相談ください。

第43回コラムで、働き方改革関連法の2019年4月1日施行分の主な改正事項について解説しました。その法改正の中で「年次有給休暇の年5日の取得義務化」(第44回コラムにて解説)と並んで影響が大きい「時間外労働の上限規制」があります。

「時間外労働の上限規制」の法改正の趣旨について、厚生労働省発行のパンフレット「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」※1では次のように述べられています。

長時間労働は、健康の確保を困難にするとともに、仕事と家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因となっています。
長時間労働を是正することによって、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり労働参加率の向上に結びつきます。
このため、今般の働き方改革の一環として、労働基準法が改正され、時間外労働の上限が法律に規定されました。

この「時間外労働の上限規制」については、厚生労働省の労働政策審議会で長年議論されてきており、今回の改正は、労働基準法制定70年の中で、歴史的な大改革が行われることになりました。その「時間外労働の上限規制」について詳細を解説します。

  1. ※1:https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf P1

1.労働基準法における労働時間の定めとは

法律では労働時間は、1日は8時間まで、1週間は40時間までと定められており、これを法定労働時間といいます。また、休日は少なくとも週1回与えることとされており、これを法定休日といいます。この時間を超える時間外労働や、法定休日に労働をさせる場合には、労働基準法第36条に基づく労使協定(以下、「36協定」という)を締結※2し、その協定を労働基準監督署へ届出しなければなりません。そして届出をした「36協定」が職場で周知されていることも必要となります(労働基準法第32条・第36条・第106条)。

時間外労働の上限については、これまで厚生労働大臣の告示(労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間延長限度等に関する基準、以下「限度基準告示」という)によって基準が設けられていましたが、罰則による強制力がなく、また「36協定」で特別条項を設けることによって、上限なく時間外労働をさせることが可能となっていました。特別条項とは、臨時的な特別の事情が予想される場合に限度基準告示で定められている時間を超えて時間外労働させる時間について労使が合意した場合をいいます。

2019年4月以降の改正では、時間外労働の上限は限度基準告示ではなく法律に格上げされ、法律そのものに上限時間数が規定されました。また、その上限を超えて労働させた場合には罰則が適用になることから、企業では厳格な時間外労働の運用が求められることとなります。

  1. ※2:労使協定は、使用者と、事業所ごとに労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との間で締結する必要があります。

2.改正された時間外労働の上限規制

今回の改正により、法律上、時間外労働の上限は原則として1カ月につき45時間、1年においては360時間※3となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができなくなります。臨時的な特別の事情があり労使が合意する特別条項を定める場合においても、次の全ての要件を守らなければなりません。

  1. 時間外労働が年720時間以内
  2. 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  3. 時間外労働と休日労働の合計について、「2カ月平均」「3カ月平均」
    「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」が全て1カ月当たり80時間以内
  4. 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月が限度

上記に違反した場合には、罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。

例えば、における年720時間は月平均では60時間になりますので、毎月60時間の時間外労働を行う場合を考えます。この場合、の要件は年間を通して満たしますが、の月45時間を超える時間外労働は年6カ月が限度であるため、7カ月目以降は法違反となり12カ月すべてにおいて60時間の時間外労働を行わせることはできません。

また、の2~6カ月平均がすべて1カ月当たり80時間以内とは、次の図表1の事例で説明します。

<図表1> 2~6カ月平均の事例

■事例1(単位:時間)

4月起算の場合 4月 5月 6月 7月 8月 9月
時間外労働・休日労働 90 70 70 90 70 80
2カ月平均 80
3カ月平均 76.67
4カ月平均 80
5カ月平均 78
6カ月平均 78.33

■事例2

4月起算の場合 4月 5月 6月 7月 8月 9月
時間外労働・休日労働 90 70 80 80 80 90
2カ月平均 80
3カ月平均 80
4カ月平均 80
5カ月平均 80
6カ月平均 81.67

事例1の場合は、2~6カ月のどの期間の平均も80時間以内に収まっているため、問題ありません。しかし、事例2の4月~9月の6カ月平均を算出した場合は、80時間を超えてしまうため、9月には90時間の時間外労働をさせることはできません。従って、4月~9月の6カ月平均の80時間を超えないようにするためには、9月の時間外労働は80時間までとなります。事例2の場合においては、9月が始まる段階で、80時間を超える時間外労働をさせることはできないことを把握しておく必要があります。
このように2~6カ月平均で80時間以内とは、どの期間の平均をとっても80時間以内としなければならいということになります。

また、事例1と2は4月起算の場合ですが、5月起算、6月起算と、どの月からみてもそれぞれ「2カ月平均」「3カ月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」が全て1カ月当たり80時間以内としなければなりません。
さらに、月100時間未満と2~6カ月平均80時間以内の時間数は時間外労働時間数と、法定休日に行った休日労働時間数を合わせた時間数であることにも注意が必要です。
このように、月80時間を超える時間外労働を特別条項で定めた場合には、非常に煩雑な集計管理が必要となります。うっかり上限規制時間を超えてしまった、ということがないよう、例えば1週間ごとに時間外労働時間数を確認するなどをして、規制時間を守ることが求められます。

  1. ※3:対象期間が3カ月を超える1年単位の変形労働時間制を適用している事業所においては、
    1カ月45時間を42時間、1年360時間を320時間に読み替えてください。以下同様です。

3.上限規制の適用が猶予・除外となる事業と業務

図表2の事業と業務については、上限規制の適用が5年間猶予されます。

<図表2> 猶予となる事業・業務

事業・業務 2024年3月31日まで 2024年4月1日以降
建設事業 上限規制の適用猶予
  • ・災害の復旧・復興事業を除き、上限規制はすべて適用
  • ・災害の復旧・復興事業は、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内の適用なし
自動車運転の業務 上限規制の適用猶予
  • ・特別条項付き36協定の場合は、年960時間までとなる
  • ・月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内の適用なし
  • ・45時間を超える月は、年6カ月までの制限の適用なし
医師 上限規制の適用猶予 今後の省令で定める
鹿児島県、沖縄県の
砂糖製造業
時間外労働と休日の合計について、2~6カ月平均80時間以内、月100時間未満とする規制は適用されない。 上限規制はすべて適用

■適用除外となる業務

新技術・新商品などの研究開発業務は、上限規制の適用が除外されています。除外期間も設けられていません。
なお、今回の改正を受けて、労働安全衛生法が改正され、新技術・新商品などの研究開発業務は、1週間当たり40時間を超えて労働した時間が月100時間を超えた従業員に対しては、医師の面接指導を行うことが義務付けられました(労働安全衛生法第66条の8の2)。この医師の面接指導は、本人の希望がなくとも、対象者には一律実施しなければなりません。

4.上限規制の適用が猶予される中小企業

中小企業に対しては、上限規制の適用は1年間猶予され、2020年4月1日から施行となります。中小企業の範囲については、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」のいずれかが以下の基準を満たしていれば、中小企業と判断されます。
なお、この中小企業の判断は、事業所単位ではなく、企業単位となります。

<図表3> 中小企業の範囲

業種
(日本標準産業分類による)
資本金の額または
出資の総額
または 常時使用する
労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他
(製造業、建設業、運輸業など)
3億円以下 300人以下

5.改正により様式が変更された新36協定届

時間外労働をさせるには、事業所ごとに「36協定」を締結し、その「36協定」を労働基準監督署へ届出することが必要です。今回の改正により、労働基準監督署へ届出をする36協定届の様式も変更されました。
厚生労働省「作成支援ツール(36協定届、1年単位の変形労働時間制に関する書面)について」※4から新様式がダウンロードできます。

  1. ※4:https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/support.html

新様式の36協定届の特徴としては、次のことが挙げられます。

特別条項付36協定の届(様式9号の2)は2枚になる

月45時間の限度時間内の時間外労働の届出書(1枚目)と限度時間を超える時間外労働の届出書(2枚目)の計2枚の記載が必要となります。

「1日」「1カ月」「1年」について、時間外労働の上限を定める

従来の36協定では、労働時間を延長することができる期間は、「1日」「1日を超えて3カ月以内の期間」「1年」とされていましたが、今回の改正で、「1カ月」「1年」の時間外労働の上限が設けられたことから、新様式では、「1日」「1カ月」「1年」について、時間外労働の上限を定めることに統一されました。

時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内にすることの確認

新様式では、上限規制時間を超えないことを確認するためのチェックボックスが設けられており、そのチェックボックスに(チェック)が入っていない場合には、その36協定届自体が受理されませんので、忘れずに(チェック)を入れるようにしましょう。

月45時間の限度時間を超えて労働させる従業員への健康・福祉の確保措置

月45時間を超える時間外労働をさせた従業員へは、次の①~⑩のどの措置を講ずるか、該当する番号を選択して記入した上で、その具体的内容を記入することが必要です。講ずる措置は一つ以上となります。

①医師による面接指導
②深夜業(22時~5時)の回数制限
③終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)
④代償休日・特別な休暇の付与
⑤健康診断
⑥連続休暇の取得
⑦心とからだの相談窓口の設置
⑧配置転換
⑨産業医等による助言・指導や保健指導
⑩その他

6.注意したい実際の運用

時間外労働の上限規制の適用が施行されることに伴い、実際の運用面ではどのようなことに気をつけなければならないのでしょうか。具体的に注意点をみていきましょう。

過半数代表者の選任

36協定の締結を行う従業員の代表は、パート・アルバイトも含む過半数で組織する労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者が行う必要があります。過半数代表者の選任に当たっては、事業主側が指名したり、候補者を選定したりすることはできません。また、従業員親睦会の代表が自動的に選出されることも不適切となります。その事業所の過半数の従業員がその代表者でよいと信任したことが明らかになる方法、例として、投票を行う、または全員参加の朝礼において挙手で賛成を図る方法などが考えられます。なお、管理監督者※5は、代表者にはなれませんが、代表者を選出する際の過半数の従業員には含まれますので注意してください。

  1. ※5:「管理監督者」とは労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。「管理監督者」に当てはまるかどうかは、「課長」「部長」といった役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様などの実態によって判断されます。

2~6カ月平均80時間以内の規制となる対象期間

時間外労働と休日労働の合計について、2~6カ月平均80時間以内とする規制については、1年間の36協定の対象期間にかかわらず計算する必要があります。従って、1年の対象期間をまたぐ場合であっても、常に2~6カ月平均80時間以内の規制を遵守しなければなりません。ただし、上限規制が適用される前の対象期間については、計算する必要はありません。

同一企業内のA事業所からB事業所へ転勤した従業員の場合

36協定に特別条項を設ける場合の1年720時間以内の上限は、その事業場における36協定の内容を規制するものであり、特定の従業員が転勤した場合は通算されません。反対に、時間外労働と休日労働の合計が、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内の要件は、従業員個人の実労働時間を規制するものであることから、特定の従業員が転勤した場合は、通算して適用されることになります。従って、転勤後のB事業所は、転勤前のA事業所での時間外労働時間についても把握したうえで、2~6カ月平均80時間を確認していく必要があります。この考えは、出向の場合も同様となり、対象期間の途中で出向となった場合は、出向の前後で通算されることになります。

適用除外となっている新技術・新商品などの研究開発業務の36協定届

新技術・新商品などの研究開発業務は、上限規制の適用が除外されており、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内の規制などはありません。同じ事業所で、上限規制の適用がある業務と、適用除外の業務があり、それぞれ適用内容が異なる場合には、36協定届も別様式にて届け出ることとなります。上限規制がある業務については、様式9号の2(特別条項を設けない場合は様式9号)、適用除外となっている新技術・新商品などの研究開発業務については、様式9号の3でそれぞれ届出を行います。
また、建設事業、自動車運転者、医師、製糖業については、様式9号の4で届出を行うことになります。

なお、「時間外労働の上限規制」の施行に当たっては経過措置が設けられています。2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以後の期間を定めた36協定に対して「時間外労働の上限規制」が適用されますが、2019年3月31日(中小企業は2020年3月31日)を含む期間について定めた36協定については、その36協定の初日から1年間は引き続き有効となり適用されません。例えば2018年10月1日から2019年9月30日まで期間1年間の36協定は適用されません(図表4)。

<図表4> 「時間外労働の上限規制」の経過措置

「時間外労働の上限規制」の経過措置
  • (出典) 厚生労働省:「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」P6
    https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf

7.まとめ

時間外労働の上限規制が、法律に明文化されたことから、「36協定」の締結内容がますます重要となります。法改正後の上限規制の内容を正しく理解した、適切な36協定の締結が求められます。36協定締結後は、その締結された上限時間数などを超えないよう厳格に運用していかなければなりません。
時間外労働については、遵守しなければならない上限時間に目を向けるだけでなく、そもそも長時間労働とならないように、職場全体で時間外労働を減らす工夫や業務の見直しを行う必要があります。仕事と家庭生活の両立が図られ、これまで以上に働きやすい職場となるように、環境を整える努力が欠かせないことになります。

【社会保険労務士法人 名南経営】

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。