第76回令和4年度 税制改正の大綱について
~経営者が注目すべきポイント~

※この文章は、税理士法人名南経営によるものです。

※この文章は、2022年1月7日現在の情報に基づいて作成しています。具体的な対応については、貴社の顧問税理士などの専門家とご相談ください。また、本内容は、令和4年度税制改正の大綱に基づき作成していますが、改正法は国会の審議を経て決定するものであり、大綱とは内容が変わる可能性がありますのでご留意ください。

令和3年12月10日に与党から令和4年度税制改正大綱が公表され、同月24日に令和4年度税制改正の大綱が閣議決定されました。
今回の税制改正では、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした新しい資本主義の実現に向けた施策が盛り込まれました。法人課税では、長期的な視点に立って一人ひとりへの積極的な賃上げを促すなどの観点から、賃上げ促進税制の改正が行われます。次に、スタートアップと既存企業の協働によるオープンイノベーションをさらに促進する観点から、オープンイノベーション税制について、対象企業の範囲の拡大などの拡充を行った上で延長されます。また、地方拠点強化税制や5G導入促進税制、令和4年4月1日以後開始事業年度から適用されるグループ通算制度の見直しなどが行われます。
その他、個人所得課税においては、住宅の省エネ性能の向上や既存の住宅ストックの有効活用・優良化を図る観点から、住宅ローン控除の延長・見直しが行われます。また、消費課税においては適格請求書保存方式(インボイス制度)に係る見直しが行われ、納税環境整備として、令和4年1月1日より予定されていた電子取引に係る電子データ保存について宥恕ゆうじょ措置が設けられました。一方で、多くの報道があった相続税・贈与税のあり方(相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方)については本格的な検討を進める、とされるにとどまり、令和4年度での改正はありませんでした。
本コラムでは、それらの中で中小企業に関わる改正事項を中心に、経営者が注目すべき税制改正の内容について解説します。

1.賃上げ促進税制の改正

「成長と分配の好循環」の実現に向けて、長期的な視点に立って一人ひとりへの積極的な賃上げを促すとともに、株主だけでなく従業員、取引先などの多様なステークホルダーへの還元を後押しする観点から、賃上げに係る税制措置を版本的に強化するよう改正が行われます。大企業向けと中小企業向けについてそれぞれの改正内容は次の通りです。

  • (ご参考) 経済産業省「「賃上げ促進税制」パンフレット」
    https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/syotokukakudaisokushin/pdf/chinagesokushinzeisei20211224.pdf

(1) 大企業向け賃上げ促進税制

主な改正は、適用要件の「新規雇用者の給与等の支給額が増加していること」から「継続雇用者(当期および前期の全期間の各月分の給与等の支給がある雇用者で一定のもの)の給与等支給額が増加していること」への変更と、上乗せ措置の拡充です。適用期間は令和4年4月1日から令和6年3月31日にまでに開始する各事業年度です。また、教育訓練費に係る税額控除の上乗せ措置の適用を受ける場合には、現行制度では教育訓練費の明細を記載した書類の確定申告書等への添付が必要でしたが、改正案では保存義務へと変更になります。
大企業向け賃上げ促進税制の現行制度と改正案は図表1の通りです。

<図表1> 大企業向け賃上げ促進税制の見直し

適用期間:令和4年4月1日から令和6年3月31日にまでに開始する各事業年度

  現行制度
(人材確保等促進税制)
改正案
(大企業向け賃上げ促進税制)
適用
要件
新規雇用者給与等支給額が前年度から2%以上増加 継続雇用者給与等支給額が前年度から3%以上増加
税額
控除
控除対象新規雇用者給与等支給額の15%の税額控除 給与等支給額の前年度からの増加額15%の税額控除
【上乗せ措置】
教育訓練費が前年度から20%以上増加
⇒5%上乗せ

控除対象新規雇用者給与等支給額の20%(15%+5%)の税額控除
【①上乗せ措置】
継続雇用者給与等支給額が前年度から4%以上増加⇒10%上乗せ

給与等支給額の前年度からの増加額の25%(15%+10%)の税額控除
【②上乗せ措置】
教育訓練費が前年度から20%以上増加
⇒5%上乗せ

給与等支給額の前年度からの増加額の20%(15%+5%)の税額控除
【①、②の両方の要件をみたす場合】
それぞれの上乗せ措置が適用

給与等支給額の前年度からの増加額の30%(15%+10%+5%)の税額控除
控除
限度額
法人税額の20%を上限 法人税額の20%を上限(変更なし)

改正案では、資本金の額が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合には、給与等の支給額の引き上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項についてインターネットを利用する方法により公表したことを経済産業大臣に届け出ている場合に限り、適用されます。

(2) 中小企業向け賃上げ促進税制

主な改正は、上乗せ措置の拡充と適用期限の1年延長(令和6年3月31日までに開始する各事業年度)です。また、教育訓練費に係る税額控除の上乗せ措置の適用を受ける場合には、大企業向けと同様、現行制度では教育訓練費の明細を記載した書類の確定申告書等への添付が必要でしたが、改正案では保存義務へと変更になります。
中小企業者等※1(適用除外事業者※2を除く)における現行制度と改正案は図表2の通りです。現行制度では大企業向けの「人材確保等促進税制」との選択適用が可能であり、改正後も大企業向け賃上げ促進税制との選択適用が可能と考えられます。例えば、雇用者給与等支給額の増加割合が前年度比1.5%未満で本制度を適用できない中小企業等であっても、継続雇用者の給与等支給額の増加割合が前年度比3%以上である場合は、大企業向け賃上げ促進税制を適用できると考えられますが今後の情報に注目が必要です。

<図表2> 中小企業向け賃上げ促進税制の見直し

適用期間:令和4年4月1日から令和6年3月31日までに開始する各事業年度

  現行制度
(所得拡大促進税制)
改正案
(中小企業向け賃上げ促進税制)
適用
要件
雇用者給与等支給額が前年度から
1.5%以上増加
雇用者給与等支給額が前年度から
1.5%以上増加(変更なし)
税額
控除
給与等支給額の前年度からの増加額の
15%の税額控除
給与等支給額の前年度からの増加額の
15%の税額控除(変更なし)
【上乗せ措置】
雇用者給与等支給額が前年度から2.5%以上増加、かつ、次のa、bのいずれかを満たす場合
⇒10%上乗せ

a. 教育訓練費が前年度から10%以上増加
b. 中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けたもので、経営力向上計画に従って経営力向上が確実に行われたものとして証明がされたこと

給与等支給額の前年度からの増加額の25%(15%+10%)の税額控除
【①上乗せ措置】
雇用者給与等支給額が前年度から
2.5%以上増加

⇒15%上乗せ

給与等支給額の前年度からの増加額の30%(15%+15%)の税額控除
【②上乗せ措置】
教育訓練費が前年度から10%以上増加
⇒10%上乗せ

給与等支給額の前年度からの増加額の25%(15%+10%)の税額控除
【①、②の両方の要件をみたす場合】
それぞれの上乗せ措置が適用

給与等支給額の前年度からの増加額の40%(15%+15%+10%)の税額控除
控除
限度額
法人税額の20%を上限 法人税額の20%を上限(変更なし)

2.中小企業向け優遇税制の延長・見直し

令和3年度が適用期限となっていた中小企業向け優遇税制は、交際費課税と少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の二つです。それぞれ次の図表3の通り延長・見直しが行われます。

<図表3> 優遇税制の延長・見直し

項目 税制の概要 改正案
交際費の
損金不算入制度
  • ①交際費等の損金不算入制度
  • ②接待飲食費の50%の損金算入制度の特例
    (事業年度終了日における資本金の額等が100億円以下の法人に限る)
  • ③中小法人※1の年間800万円までの損金算入の特例(②との選択適用)
2年延長(令和6年3月31日まで)
中小企業者等※1の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 取得価額30万円未満の減価償却資産を取得等し事業の用に供した場合、年300万円を限度に適用
ただし、常時使用する従業員の数が500人を超える法人、連結法人および適用除外事業者※2は対象外
対象資産から貸し付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供した資産を除外

2年延長(令和6年3月31日まで)

少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の見直し内容である、対象資産から貸し付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供した資産を除外するという改正については、すべての企業を対象にした少額の減価償却資産の取得価額の損金算入制度(取得価額10万円未満)および一括償却資産の損金算入制度(取得価額20万円未満)のそれぞれについても同様の改正がなされています。

3.電子取引の取引情報に係る電子データ保存の宥恕ゆうじょ措置の整備

本コラム第70回「デジタル化による納税環境整備について」でも触れているように、令和4年1月1日以後に行う電子取引の取引情報については、電子データによる保存が義務付けられることになっています。しかし、システム開発や社内規定の整備が間に合わない企業に対して、直ちに青色申告の承認取り消しなどが行われないように、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの2年間については、宥恕ゆうじょ措置が設けられることとなりました。宥恕ゆうじょ措置の適用にあたっては税務署長への手続きなどは必要ありません。この改正については、すでに令和3年12月27日に改正省令※3が公布され、同月28日には取扱通達※4とQ&A※5が公表されています。
この宥恕ゆうじょ措置により、電子取引の取引情報(請求書、領収書など)の電子データを、従前と同様に、書面に出力して保存しておくことで青色申告の要件等を充足することとされましたが、見方を変えれば2年後には電子データでの保存が必須であるため、やはりなるべく早めに対応することをお勧めします。

  • ※3:財務省「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令の一部を改正する省令」要旨
    https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2022/syourei/youshi/denshi.pdf
  • ※4:国税庁「電子帳簿保存法取扱通達の制定について」
    https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sonota/030628/index.htm
  • ※5:国税庁「電子帳簿保存法一問一答」
    https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021012-114.pdf

4.非上場株式等に係る相続税の納税猶予の特例制度(法人版事業承継税制)

コロナ禍において事業承継の計画策定に時間を要するような事情もあることから、法人版事業承継税制の要件である特例承継計画の提出期限について、1年間延長され、令和6年3月31日までとされました。一方で、本制度については、毎年期限の延長や恒久化の要望が多くの機関から提出されていましたが、与党の税制改正大綱において、令和9年12月31日という税制の適用期限については今後とも延長を行わない旨が明記されました。事業承継についての検討は早期に行う必要があるといえます。

【税理士法人名南経営】

名南コンサルティングネットワークの一社として、幅広い顧客層にさまざまな経営コンサルティングなどを実践している。